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PASSTOマガジン vol.7 | 食から広がるやさしい経済

みなさん、こんにちは。
PASSTOマガジン編集長のガクです。
今回のテーマは「食から広がるやさしい経済」ということで、PASSTOを設置しているFOOD&COMPANYを取材してみました。

写真:小澤 彩聖



FOOD&COMPANY

「FOOD&COMPANY(フードアンドカンパニー)」は2014年に白冰(ばいびん)さんと谷田部摩耶さんによって創業され、国内外の幅広いオーガニック食材を販売するグローサリーストアを展開。東京都目黒区の学芸大学に第1号店をオープンし、その後は新宿、湘南の辻堂、代官山と拠点を増やしており、今月の7月には新たな業態の店舗を神奈川県横浜市の相鉄ゆめが丘駅直結の商業施設にオープン予定。
「食」や「サステナブル」をテーマにしたワークショップやイベントを定期的に開催し、地域の人々とのコミュニティ形成や学びの場を創出している。
2024年5月からはPASSTOを全店で導入し、各店舗でPASSTOを通じた資源循環への取り組みも行なっている。

今回は、そんなFOOD&COMPANYの代表 白(ばい)さんにご自身やお店のこと、PASSTOについてお話しを聞いてみた。

白冰さんの生い立ち

白(ばい)さんは1987年に中国・北京で中国人の両親の間に生まれた。5歳の時に日本に引越し、以来日本で暮らしている。小学校6年生の頃から経営の本を父親から与えられ、会社経営に興味を持つようになる。小学生に経営本を与える、と聞いて一体どんな教育方針だったのか疑問になり、理由を聞いてみた。

「父親自身は会社員だったのですが、もともと経営に興味があったようです。僕が生まれた頃、当時の中国の情勢では職業を選ぶ自由もなく、日本に来てからも家族を養うため安定した収入を得られる企業で勤め上げました。『いつか起業する』という叶わなかった夢を、僕に託すために経営本を読ませていたんじゃないかなと思います」


高校では好きだった洋楽の影響でファッションに興味を持ちはじめ、ファッションに関わる仕事がしたいと思うようになった。もともと日本語と中国語のバイリンガルだったが、さらに英語を身に付け将来は経営者としてグローバルで活躍する姿を思い描いていた。

そんな高校時代を過ごし、大学はファッションと経営が一緒に学べるニューヨークの学校へ進学。そこで現在のパートナーで会社の共同代表でもある谷田部さんと出会い、卒業後は日本へ帰国しアパレル製造小売業の会社へ入社する。

はじめての職場で気がついたこと


「実は働いたのはかなり短くて、その会社は9ヶ月で辞めました(笑)。良し悪しというよりも、自分の性格と会社との相性が良くなかったのかなと思っています」

ずっとファッション業界で働きたいと思い続け、念願のアパレル企業に就職するも、理想とのギャップに苦しんだ。過酷な労働環境に、業務効率と成長拡大のみが求められ、同期が続々と辞めていったという。

「ずっとファション業界で働きたいという『業種』にこだわっていたんですが、実際に働いてみて働く環境や、何のために働くのか?ということの方が自分にとって重要だったということに気がつき、会社を辞めました。今思えば、行き過ぎた資本主義への疑問が根本にあったんじゃないかと思います」

そんな経験から、自身が考える理想の経営の在り方がより鮮明になっていった。資本主義自体を否定する訳ではなく、業務効率やコストパフォーマンスも大切だが、それだけではない価値観を大切にしていきたいと思ったそうだ。退職後、九州大学でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士のソーシャルビジネスの講義を受ける機会があり、そこで自身が求めていた経営像に出会う。

そのことがきっかけで当時大学院に通っていたパートナーの谷田部さんにも声をかけ、起業を決意し準備をはじめることに。そこから2年間はスーツ屋や友人のコンサルティングの手伝い、オーガニックスーパーなどでアルバイトをしながら色々な場所に行き、様々な人に出会い、自分たちが何をやりたいのかを考える期間となった。

なぜ「食」なのか?

ここまでの話しを聞くと、てっきりファッション関係の会社を立ち上げるのではないかと思うが、なぜグロサリーストアを始めることになったのか?その理由を聞いてみた。

「まず最初に、業種として『何をやる』ではなく、『どういう世界を作っていきたいか』ということを考えました。もちろんファッション関係も考えましたが、アパレルブランドを作りたかった訳ではなかったんですよね。2年間で何をやるかを決めきれずにいて焦りはじめた頃、『業種は自分たちの価値観を実現する手段でしかない』という結論に至りました。そこで改めて自分たちの価値観を見つめ直した時に出てきたのが『オーガニック』という概念でした」

もともとオーガニックフードに興味があった2人。ニューヨーク在住の頃に通っていたスーパーではオーガニック食品が並んでいて当たり前のように日常生活の中に存在しながらも、自分たちをワクワクさせる物だったと言う。

オーガニックのファッションというのも考えたが、そもそも洋服の購入頻度は高くなく、お客さんもごく一部に限られてしまう。しかし、食品やスーパーなら年齢、性別関係なく日常的に利用し、お客さんと触れられる機会が多く、オーガニックを伝えられる最良のメディアだと思いオーガニックのスーパーをはじめることを決意。

「僕たちの言う『オーガニック』というのは、栽培方法だけではなく、その背景にある価値観を指しています。ローカルを大切にする、サステナブルな物を選ぶ・ライフスタイルを送る、家でゆっくりと家族で食事をする、などといった都会に住んでいたら難しいことを実現するためのきっかけを提供する、『本質的な豊かさ』を体現する場所としてのお店を目指しました」

そこから準備期間を経て、2014年3月に第1号店である学芸大学店をオープン。現在では4店舗に増え、スタッフも40名を超え、7月末にはさらにもう1店舗をオープン予定だ。

商品の仕入れはパートナーの谷田部さんの担当。野菜なら無農薬や減農薬などの栽培方法、加工品なら添加物がないかなどの原材料のチェックはもちろん、最終的には生産する「人」で決めているという。マーケティング手法としてのオーガニック商品ではない、理念とこだわりを持った商品の仕入れにを行なっている。


また、FOOD&COMPANYで特徴的なのは商品だけではない。店舗で働くスタッフは気さくで温かみを感じられる人が多く、みな会社の理念に共感し、それぞれが目的意識を持って働いているように感じる。

小売から卸売り、そして街づくりへ

7/25に相鉄ゆめが丘駅直結の商業施設に新しくオープン予定の店舗はこれまでの形態とは異なるそうだ。「FOOD&COMPANY」という名称ではなく、「YYYard」と店舗名も変え新しい業態でのチャレンジとなる。具体的には、これまでは国内外のオーガニック食品を取り扱っていたが、YYYardでは店舗の所在地である神奈川県に100%由来する商品で構成される予定だ(生産、加工だけでなく、輸入における神奈川県内の業者からの取引も含む)。

「施設側の相鉄さんと話す中で、『Civic Pride(シビックプライド)』を持つ地元の方を増やしていきたい』との思いがあり、それが醸成される場所というコンセプトで店舗作りを進めています。単に農家さんに生産物を並べてもらう直売所形式ではなく、僕たちの強みであるバイヤーによる商品のキュレーションを通じて『Neo道の駅』的な装いで、全ての商品が神奈川県に由来するユニークな商品を取り扱うお店を目指しています」

「Civic Pride(シビックプライド)」とは「地域への誇りと愛着」を表す言葉で、「地元愛」と意味合いが似た言葉ながらも、より地域に良くしていこうと積極的に関わっていく意思が含まれるそうだ。YYYardは既存店に比べ3倍近い店舗面積ながらも全て神奈川県由来の商品選定という高いハードルを掲げ、「準備が大変です」と話しながらも、どこかそのチャレンジを楽しんでいるようにも見えた。

新店舗のオープン後はどのような展望を持っているのだろうか。その先の取り組みについても聞いてみた。

「店舗はもう少し増やしたいと思っていますが、そもそもオーガニックスーパーは『やさしい経済を通してリラックスした社会をつくる』というビジョンに向けた手段なので、今後は小売以外の事業も行っていこうと思っています。次の10年間は生産者や街と連携して、循環ややさしい経済圏を広げていけたらと考えています」

具体的な内容としては2つある。1つは、今年から始めたB to B向けの卸売のプラットフォームだ。もともとスーパー業界では、小規模の生産者と店舗がマッチングできる仕組みがなかったため、それを実現できる仕組みづくりを進めている。6月に初めての展示会を行い34社、700名のバイヤーが参加、商談会を通じて多くの取引が成立し成功に終わったそうだ。生産者と買い手それぞれが無駄な手間を省ける発注システムを構築しており、展示会とセットで今後拡大していく予定だ。この仕組みを通じて「仲間を増やしていくことでやさしい経済圏を広げることができる」と話す。

もう1つは「街づくり」だ。まだ構想段階ではあるものの、その思いを語ってくれた。

「面白い街は面白いお店がつくると考えていて、小さいお店、作り手が元気でいられることが街づくりにおいて大切だと思っています。大型の商業施設も便利ですが、既に街にある商店街と有機的に連携できるような商業施設を作りたいなと思っています。業種でテナントを選ぶのではなく、同じ価値観を持つ会社を集めて『やさしい経済圏』を広げていく。その中心には『食』があり、施設にはソーラーパネルを設置、水も分解して再利用、ゴミも全てリサイクルできるようにしたいですね。その他にも、体験型農園があって、幼稚園や託児所の給食でそこの野菜が提供できるなど、建物全体で『循環』を実現でき、そこからさら街全体へ広がっていけるといいなと思っています」

アメリカではショッピングセンターならぬ「タウンセンター」という概念が広がっているという。従来はショッピング、オフィス、住宅それぞれが別のエリアに存在していたが、「タウンセンター」はそれら全てが1箇所に集まり、行政や公園なども含まれ、暮らしに寄り添った商業施設のあり方が今後の潮流になっていくだろうと話す。

「もちろん、ここまで話した内容は自分たちだけでは成し得ないことなので、大手のデベロッパーなどと連携し、『競争』ではなく『コラボレーション』で実現していきたいですね。規模は違いますが、アウトドアブランドのパタゴニアのようになれたらと思っています。アパレル業界全体から見ればもっと規模の大きい会社はたくさんありますが、環境・社会分野でのパタゴニアの影響力の大きさはビジネス規模の比にならないほど大きいですよね。誰かが真似してくれる、声をかけたら参加してくれる、小さいけどそんな影響力を持った存在になれれば社会をもっと良くしていけると考えています」

循環するエコシステム

生活者向けのオーガニックスーパーからB to B向けのプラットフォーム、さらには街づくりと、『やさしい経済』を軸にした事業構想について語ってくれた白さん。最後にPASSTOについて聞いてみた。

「もともとFOOD&COMPANYでサステナビリティへの取り組みをしたいと思っていましたが、自分たちでできることに限界がありました。例えば商業施設に入っているテナントだと、再エネに変えたくても施設が契約している会社の電力を使わなければならなかったり、ゴミの業者も指定があるなど様々な制約がありました。そんな中、PASSTOはボックスを置くだけでできるし、来店のきっかけにもなる。そもそもが循環の取り組み自体が僕たちではできないことなので、PASSTOを通じて『循環するエコシステム』を実現できると思って導入しました」

実際にはじめてみて、予想よりも多くのお客様が利用していることに驚いたという。生活の延長線上にあるスーパーという場所とPASSTOとの親和性の高さを感じた話す。また、スタッフとお客様の間で会話が生まれたり、既存のお客様が来店するきっかけにもなり、PASSTOを通じてはじめて来店する方も多く、様々なメリットがあったそうだ。

「環境に良いというだけでなく、この仕組みがビジネスとして運営されていることが個人的には特に意味があると思っています。寄付ではなくビジネスと運営されることにより、継続的に取り組みができる、ここがとても重要ですよね。スーパーに買い物に来たついでにパストすることで、日常生活の中にリユースするという行為が、人々のライフスタイルに浸透すると良いですよね」



以上、FOOD&COMPANYの白さんのインタビューでした。

日常生活には欠かせない「食」。そこから効率のみを追い求める資本主義ではなく、「やさしい経済」という形にアップデートし広げていこうとしています。

20代前半と若くして起業し約10年、仲間も増え、できることもやりたいこともますます増えてきた白さん。

ここまでの道のりには数えきれない苦労や挫折を経験していると思いますが、それでも今があるのは自身が話していた「手段(業種)ではなくどんな世界を作りたいか」ということをずっと考え続けてきたからではないでしょうか。

日常の中に最も身近な物=「食」だからこそ起こせる社会や人々の変化があり、その景色の中にPASSTOがあることを嬉しく思いました。

ぜひ日常の買い物ついでに、パストしてみませんか?

売る?捨てる?パストする!

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