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新世代MPBの傑作 Bala DesejoのSIM SIM SIM

ドラ・モレレンバウム、ジュリア・メストリ、ルーカス・ヌネス、ゼー・イバーハという4人によるスーパーグループ、Bala Desejoのアルバム「SIM SIM SIM」がリリースされました。この素晴らしいアルバムを紹介しつつ、4人の過去仕事なども少し振り返ってみようと思います。
(2022/3/5 早くもリリースされた「B面 Lado B」について追記しました)

SIM SIM SIM!

学生時代から交友のあったこの4人ですが、当初は明確にグループを結成しようとしていたわけではなく、パンデミックの隔離生活に嫌気の差したジュリア・メストリが後の3人に電話をかけ、共同生活しながら音楽作らないかと持ちかけたことに端を発しているそうです。
その後、Coala Festivalでグループとして始動する予定だったものの、このフェスも中止に。せっかくなのでということで制作されたのが本作ということです。ただおそらく手応えは感じていると思うので、今後も継続したグループになるのではという気がしています。なお、このリリースはまだ「A面」だそうで、より内省的な「B面」のリリースも控えているということ。

プロデュースは、バンド自身に加えアナ・フランゴ・エレトリコが担当。ミックスにはレオナルド・マルケスの名前もあるようです。その他幅広い世代の豪華ゲストが参加しています。

4人が出し惜しみせず持てる力をぶつけ合ったことで、豊富なアイディアが詰め込まれながらも統一感のある素晴らしいアルバムが生まれました。基本的には伝統的な生楽器によるアンサンブルが中心で、全て生演奏によってライブ録音(!)されているとか。音楽的にはカエターノ、ジルベルト・ジル、ムタンチスらによる「Tropicalia」を想起させるような部分もありますが、同時に実に現代的な仕上がりとも感じます。

②「Baile de Máscaras (Recarnaval)」は仮面舞踏会というタイトル通りのグイグイ進むリズムに、美しいハーモニーと優雅なストリングスやホーンが配された曲。ソフトロック的な面もありつつ、熱量と密度がすごい。間奏の不穏なストリングスとホーンからサンバパーカッションに引っ張られて熱い終盤のパートに突入していく様には心昂ります。
ストリングスアレンジはドラの父ジャキス・モレレンバウム!しれっとフーベルも参加しているみたいです。
歌詞については現状正確なところが分からないので推測も含みますが、副題にもなっている「Recarnaval」という言葉には、「またカーニバルを」という願いが込められているのでしょう。そうするとMáscarasは仮面というよりマスクのことだったりしてとか、色々考えてしまいます。

ライブの模様も上がっていました。この4人カリスマありますね。

③「Lua Comanche」もお洒落な良い曲。最初のAメロがゼー・イバーハ、2周目がジュリアのボーカルだと思いますが、それぞれの声の魅力が出てます。途中でエスニックなパートが挟まるのが面白く、そこはドラが歌ってますね。カエターノの「Meu Coco」収録の「レバノンのシクラメン」で父ジャキスがアラブ風のストリングスを持ち込んだのを思い出してしまいました。

④「Clama Floresta」は一転、重いベースがドープなレゲエナンバー。ただアルバムから浮いているかというと全くそんなことはなく、ここでもリードをとるゼーとジュリアのボーカルと、美しいハーモニーにより自然な流れとして聴けてしまいます。ゲストにはマリア・ガドゥにトン・ヴェローゾも。

⑤「Dourado Dourado」はアコギ弾き語り中心の小曲かと思いきや、次第にホーンが入って盛り上がっていき、終盤サルサに転じるという楽しい一曲。

⑥「Nesse Sofa」はドラのソフトな歌声を活かした少し気だるいナンバー。ルーカス・ヌネスの弾くローズが良い味を出しています。ギターではチン・ベルナルデスも参加しているみたいですね。Camarón De La Islaのフラメンコのカバー⑦「Nana del Caballo Grande」でアルバムは幕を閉じます。

ブラジルだけでなく中南米などいろいろな要素が詰め込まれ、生演奏(ゼー・イバーハによるとライブ録音、ノーエディット!)で吹き込まれたエネルギーに満ちた一枚です。「B面」も楽しみです。

SIM SIM SIM (Lado B)

数ヶ月後かなーとか考えてたら半月ほどでリリースされたLado B。サブスクリプション上ではEPという扱いになっていますが、Lado Aと一続きの作品でまさにB面という感じですね。こちらも素晴らしい作品です。

導入の「Chupeta」に続く②「Lambe Lambe」は、作曲にGilsonsのジョアン・ジルも参加、少しSteely DanのBarrytownを思わせるメロディと洒落たホーンのアレンジがたまらない一曲です。ソウル的でもあり、ソフトロック的でもあり・・・問答無用で心躍ります。アウトロでアラブ風のストリングスの展開がありますが、弦アレンジはやはりジャキス・モレレンバウムです。コーラスにはフーベルやANNAVITORIAらが参加。

③「Passarinha」はスパニッシュ・ラテン的な哀愁漂うナンバー。ジュリアとドラの二人がボーカルをとり、ゼ・イバーハはピアノやギターに加えフルートを吹いています。

インタールード的な「Sim Sim Sim」を挟み、④「Muito So」はドラの気怠げなボーカルが最高に映えるLado Bのハイライトとも思える曲。「Muito So」の「So」の部分の美しいハーモニー、中盤からの抑制されたホーンアレンジの素晴らしさ(冨田恵一かよと言いたくなった)には言葉を失います。

⑤「Cronofafia (O Peixe)」はゼ・イバーハの弾き語りを中心としたアルバムの締めにふさわしい曲。中盤からはジャキスのアレンジによるストリングスが優雅な雰囲気を加えています。

Lado BもLado Aと同じく、4人の歌と演奏にアルベルト・コンチエンチーノのベース、トマス・ハレスのドラムに豪華なゲスト陣という組み合わせは変わりませんが、少しゼーとルーカスの二人が複数の楽器を重ねている曲が増えている気がしないでもないです。宅録的な要素のある曲をこちらに回したということかもしれませんね(思い込みかもしれないですけど)。

メンバーの過去仕事について少し。

メンバーの過去作品

ドラ・モレレンバウム

ジャキス・モレレンバウムの娘でもあるドラ。昨年EPをリリースしています。

一曲目は「Japaõ」という日本をテーマにした曲。戦場のメリークリスマスの一節も登場し、歌詞にもそのまま「日本」という日本語が出てきます。ドラのソフトな歌声を活かした洗練されたEPです。

Dônica

ゼー・イバーハとルーカス・ヌネスがカエターノの息子トン・ヴェローゾらと組んでいたバンド。メンバーはまだ10代ですが、音響系インディーロックmeets MPBみたいな感じで良いアルバムです。

曲作りはトンとゼーが中心になっているみたいです。ミルトン・ナシメントも参加。

ゼー・イバーハ

ソロのアルバムリリースこそ無いみたいですが、ガル・コスタとのデュエットや、アントニオ・カルロス・ジョビンの娘マリア・ルイザ・ジョビンとの共作など、シンガー/ソングライターとして注目を集めています。

最近ミルトン・ナシメントの街角クラブ再現ライブにおいて、ロー・ボルジェス、ベト・ゲヂスの役をこなしたことでも話題を集めました。

ルーカス・ヌネス

ソロのリリースはないみたいですが、なんと言ってもカエターノ・ヴェローゾの「Meu Coco」の共同プロデュースが話題です。様々な楽器やプログラミングをこなし、この名作のキーパーソンとなっていました。

ジュリア・メストリ

2017年にEP「Desencanto」でデビュー。

2019年にフルアルバム「Geminis」をリリースしています。

このアルバムはNovos Bianosあたりを思い出させるような空気もあり、彼女のボーカルとソングライティングセンスが発揮された良作。そしてプロデュースにはゼー・イバーハとルーカス・ヌネスが名を連ねており、ドラ・モレレンバウムは1曲でコーラスとして参加。ゼーは1曲共作もしていて、この「SIM SIM SIM」の萌芽とも言うべき作品です。

Novos  Bianosの名前を出しましたが、ヒタ・リーのカバーシングルなども出しています。また彼女はダンス/エレクトロ系のミュージシャンとも共演するなど、幅広い活動をしています。

1曲ピックアップすると、ジルベルト・ジルの息子&孫のグループGilsonsとの共作「Índia」がしみじみ良い曲です。

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