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2021年ベストアルバム

2021年発売のアルバムから、愛聴していた・心動かされた10枚です。順不同。
以下Songwhipのリンクと簡単にアルバム紹介を書きますが、最初の3枚は上半期ベストアルバムで語りましたので、ここでは省略します。その代わりに、下半期のアルバムからもう3枚選んで紹介しています。

Raio / Domenico Lancellotti

Private Reasons  / Bruno Pernadas

Mood Valiant / Hiatus Kaiyote

Meu Coco / Caetano Veloso

カエターノ・ヴェローゾの9年ぶりのオリジナルアルバム。実験性とポップさが絶妙のバランスを保ったキャリアでも屈指の傑作でしょう。ベテランから若手まで多彩なゲストを招きつつも自らの軸は全くブレることなく、カエターノの音世界としか言いようのないアルバムを仕上げてきました。

ジャキス・モレレンバウムによるアラブ風のストリングスが入った②「Ciclâmen do Líbano(レバノンのシクラメン)」や、AIの自動文章生成も取り入れて「ミス・アイリッシュ」といった歌詞も飛び出す先行シングルの③「Anjos Tronchos」、魅力的なメロディの前半とエレクトロ風味の終盤の展開が同居した④「Não Vou Deixar」(ここでもジャキスのチェロが印象的!)などアルバムの序盤はエクスペリメンタルな印象。

その後は、70年後半ごろのメロディアスさを感じさせる⑥「Enzo Gabriel」やパーカッションに乗せてジョルジ・ベンやピシンギーニャらの名前を連呼する⑦「GilGal」など、カエターノの魅力の展覧会のようです。

終盤のハイライトは11「Sem Samba Nao Da」でしょう。軽快に始まるサンバで0:50ごろでマイナーに転じる・・・と思いきや転じない、むしろ明るく展開していく、みたいな綱渡りのような展開が素晴らしい。

自分の声を活かすために必要な音を曲ごとに厳選したような音作りで、ポップで実験的かつエレガントなアルバムです。

Indigo Borboleta Anil / Liniker

OS CARAMELOWSと袂を分かち、ソロとして昨年から名曲をガンガンリリースしていたリニケルが満を時して発表した名盤。1曲目「Clau」から自身の唯一無二の歌声と、これまでになく優雅なストリングスのバッキングでたちまち虜にしてくれます。

続くオールドソウル風味の②「Antes do Tudo」でもその歌声とパーカッションによるフレーズで完全に自分の世界を作り出していますし、③「Lili」は英語詞ですが、もう何語で歌おうが関係ないくらいの強烈な個性を持っていると思います。

④「Psiu」⑦「Baby 95」⑧「Presente」といった先行曲ももちろん素晴らしい。「Baby 95」はいわゆるJust the two of us進行っぽいナンバーかと思いますが、これもリニケルの声が絶対的なオリジナリティを加えていますね。

⑥「Lalange」ではミルトン・ナシメントとも共演しています。その他マームンジ、タッシャ・ヘイス、チューリッパ・ルイズなども参加しています。

すでにブラジルを代表するアーティストになっているとは思いますが、もう世界的な存在になってもおかしくないです。

Nações, Homens ou Leões / César Lacerda

セーザル・ラセルダの4作目となるアルバム。前作の「Tudo Tudo Tudo Tudo」はアコースティック楽器を中心としたスタイルでしたが、今作は電子音を絶妙のブレンドで取り入れ、表現を深化させてきました。

まず1曲目の「O Sol Que Tudo Sente」からAOR的な爽やかさの中に切り込んでくる電子音にはっとさせられ、一気にアルバムの世界に引き込まれます。続く②「Parque das Nacoes」、③「Me Diz Por Que Brigamos」も落ち着いた雰囲気の良い曲。深い響きのピアノと巧みな効果音により奏でられる後者は特に素晴らしいです。

その後のシェニア・フランサとのデュエットによるレゲエナンバー④「Parece Pouco」や妹マルヴィナをフィーチャーしたHIPHOP調の⑤「Quem Vai Sonhar o Sonho」、ディープなサイケ感のある⑥「Antropoceno」など、曲調は様々ですがサウンドの色彩が揃っているため、アルバムとしての統一感は強いです。

そして⑨「Se Hoje o Mundo Acabar」がまた名曲中の名曲。幽玄とも言えるような雰囲気の中に立ち上がる美しいメロディ、クリック音のような(シンセ?)パーカッションがより切なさを強調しています。

とにかく今時珍しいほど最初から最後まで統一されたムードで貫かれ、個々の楽曲も素晴らしい名盤です。

Portas / Marisa Monte

マリーザ・モンチ10年ぶりの新作。目新しさとかはないですが、すべてが高品質の「こういうので良いんだよ」というアルバムです。

父カルリーニョスと共に参加のシコ・ブラウンがギターはもちろん曲作りにおいても中心的パートナーを担っているようですね。シコと共に、エレキギターのダヴィ・モライス、ベースのダヂ、ドラムのジョルジーニョ・ゴメスのバンドは基本マリーザと共にレコーディングし、ストリングスなどはリモートを組み合わせて録音されています。共作者にはシコに加え、お馴染みのアルナルド・アントゥネス、ナンド・ヘイスの元チタンス勢、元ロス・エルマノスのマルセロ・カメロらが名を連ねます。

冒頭の「Portas」②「Calma」はNYのアート・リンゼイがリモートで共同プロデュース。③「Deja Vu」は少しエキゾ感のあるメロディをヴェロカイのストリングスが盛り立てています。

続く④「Quanto Tempo」は現在ポルトガルにいるマルセロ・カメロがアレンジを担当。こちらも素晴らしい出来です。挙げればきりがないほど、どこを切っても良いアルバムです。マルセロは共作している15「Você Não Liga」などでも緻密で素晴らしい弦管のアレンジを聞かせてくれます。

ラストを飾る16「Pra Melhorar」ではセウ・ジョルジとその娘のFlorがボーカルで参加しています。Florはリモートで歌っていますが、彼女もよい声してますね。

マリーザ・モンチの歌声と良い曲、良い演奏が揃えば、もうそれだけで十分すぎる。贅沢なアルバムです。

Dina Ögon / Dina Ögon

スウェーデンのバンドDina Ögonの1stアルバム。バンドとしてはデビュー作ですが、ギターのDaniel Ögren、ボーカルのAnna Ahnlundらはソロ作を出していたり、スヴェン・ワンダーのバックを務めたり、活動歴は長いようです。

クルアンビンあたりを思わせるエスニックサイケと美しいメロディが同居した素晴らしいアルバムです。④「Mellanrum」などではIllusionとかその辺のプログレ風味、アシッドフォーク風味も少し感じます。

美しいコーラスと牧歌的なメロディを持つ「Sol」から始まり、サイケとポップさが高度に同居した⑥「Nirvana」、ちょっと怪しいストリングスの入るラストナンバー「Fictjuven」なども良いです。

しかし何といっても②「Tombola 94」が印象的です。クールなボーカルのメロディライン、魅惑的なベースライン、そして2分前後のコード展開など堪らない1曲です。

crepuscular / KIRINJI

堀込高樹のソロ体制となった初のアルバム。歌詞の内容もあいまって、コロナ禍時代のサウンドトラックといったアルバムになりました。

冒頭の「ただの風邪」がまず素晴らしいですね。気持ちの良いスネアの音、サビで急に視界が広がるようなシンセと千ヶ崎さんのベース。サウンドメイクと曲の素晴らしさがマッチした曲です。巧みな詞世界の②「再会」、歌謡チックな出だしからサビ終わりでオシャレに着地させる④「薄明」の先行シングルももちろん良いですし、軽快な歌詞の乗せ方が気持ち良い③「first call」もかなり好きです。ラテン的(個人的には非ブラジルのラテンに聴こえる)な⑤「曖昧me」、マリンバを中心としたインスト⑦「ブロッコロロマネスコ」などバリエーションはあるものの、もう高樹節というか、サウンドの構築にで独自の空気にまとめあげているのは驚異です。

⑧「爆ぜる心臓」というアクの強い曲を8曲目に置いてうまく馴染ませているのもすごいですね。この曲、Henry Cowとかを思い出してしまいます。

石若駿らの参加もあってか、クロスオーバー・ジャズ的な雰囲気もありつつ、ところどころふっとキリンジ時代の空気も感じたりして、熟成された個性が極まってきた感じのアルバムでした。

Pomares / Chico Chico

シコ・シコはカシア・エレールの息子であり、昨年はジルベルト・ジルの孫のFranとのコラボアルバム「Onde」も出しています。そこではカバー曲が中心だったのですが、今作は彼のオリジナルで占められています。ソロ名義では初のアルバムということになりそうですが、2×0 Vargem Altaというバンド名義での作品や、今年は他にJoao Mantuanoとのコラボアルバムも出しています。

今作はストリングス、クラリネット、アコースティックギターといった生楽器の響きを大切にしたアルバムです。歌詞の内容的にも自然の循環、生死のサイクルについて歌っているようで、そのコンセプトに通じる編曲がされているのかもしれないですね。彼はシングルもたくさん出しているのですが、ほとんどアルバムには未収録なので、やはりコンセプチュアルなアルバムなのでしょう。

①「Abacateiro Real」は、オーケストラの伴奏とパーカッションのみで歌われています。他の曲もドラムレスの曲も多く地味になってしまいそうなところですが、丁寧なアレンジと曲の良さで印象の強さを保っています。

そんな中④「Templos」はドラムも入り、ペドロ・フォンセカのローズピアノが印象的です。続くアルバムタイトル曲⑤「Pomares」はオーケストラとアコギ、ピアノをバックに歌われます。特に間奏の伸びやかなストリングスがたまらないです。

個人的なベストトラックは⑧「Demanda」です。バンド形態で演奏される比較的シンプルなナンバーですが、ペドロ・フォンセカのピアノも素晴らしく、少しせつないメロディがグッときます。

下半期ベスト

上半期だけ選ぶのも何なので、ベスト10枚のうち下半期の7枚を除いた残り3枚をピックアップしておきます。この3枚も選ぶタイミングによってはベスト10に入っても全然おかしくないアルバムでした。

Niska: Uma Mensagem para Os Tempos de Emergencia / Castello Branco

中性的なボーカルが印象的なサンパウロのSSWカステロ・ブランコのソロ名義では4作目のアルバム。以前は割とアコースティックなイメージだった気がしますが、今作はかなり電子音を前面に出した編曲です。それによりベッドルーム感というか内省的なイメージがより強くなっています。

フーベルやマームンジ参加曲もありますが、なんと言ってもDUDA BEATとの⑥「Me Namora」が最高です。今年のベストトラックと言ってもいいくらいです。

彼は今年他にもシングル出していて、チアゴ・ナカラート、iZemとのコラボ「Aloe Vera」とかもかなり好きです。この辺も入ってたら年間ベストにしてたかも・・・。

Talk Memory / BADBADNOTGOOD

カナダのインストバンド5作目のアルバム。Mattyことマシュー・タヴァレスが脱退し、3人組となってから初のアルバムになります。サックスのリーランド・ウィッティを中心に本格的なジャズ・ロック寄りのサウンドになっています。カンタベリー・ロック好きの方(僕です)にもヒットする内容だと思います。

ゲストも多数参加していますが、何といってもアルチュール・ヴェロカイの弦アレンジが素晴らしいです。ソロ作で「Verocai」なんて曲を作っていたMattyが脱退してからヴェロカイと曲を作るなんて皮肉な気もしますが、ともかくここでの若干不穏かつ優雅なストリングスは最高の一言です。

Sling / Clairo

アトランタ出身のSSW、クレイロの2ndアルバム。今年女性SSWの良作が結構ありましたが、その中で一番気に入ったのがこれでした。近年のアルバムの中ではかなり音量が小さめで、アルバム全体に優しい雰囲気があります。囁くようなボーカルに、曲によっては控えめながら絶妙のストリングスやホーン類が花を添え、ここぞというところで動くベースラインも琴線に触れます。

軽いシャッフルの①「Bambi」も好きですが、続く②「Amoeba」が決定的に良いです。名曲!


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