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非英語圏オールタイムベストアルバム③

トップ10です。

10. Pelas Esquinas De Ipanema / Erasmo Carlos / ブラジル 1978年

ブラジル音楽界のKINGことホベルト・カルロスと共に多くの曲を共作してジョーベン・グアルダを牽引し、ソロとしても多くの名曲を作ってきたエラズモ・カルロスの10thアルバム。ダサいジケットに騙されそうになりますが、エラズモのたくさんの作品の中でも最も洗練された一枚だと思います(エラズモが割と得意とするオールドロックっぽい曲が無いという言い方もできます)。女性コーラスの美しい「Favelas e Moteis」、スローなサンバ「Nasci Numa Mahna de Carval」、内省的な呟きのような「O Silencio da Aldeia」、ベースとヴィブラスラップのイントロが印象的な「Verde」など穏やかで落ち着いていながら印象的な名曲が多く収録されています。

エラズモは2000年以後も良いアルバムを出し続けているので、まだまだこれからにも期待です。

推し曲:Favelas e Motéis

09. Amor De Indio / Beto Guedes / ブラジル 1978年

サブスクになし

繊細で起伏に富み、浮遊感のあるベト・ゲヂスのメロディラインは、ある意味ロー・ボルジェス、ミルトン・ナシメント以上に”Clube da Esquina”のイメージを体現してるのかもしれません。独特の切ない歌声も魅力的です。なのに本人は高田純次級に飄々としているのが最高なんですよね。

ベトも良いアルバムがたくさんあるのですが一枚選ぶとするとこの2ndソロかなと思います。トニーニョ・オルタのギターが印象的な「Amor de Indio」に始まり、切迫感をもって胸に迫る曲が目白押しです。中でも不思議なリズムを交えつつ繊細な美しさに溢れる「Só Primavera」と、切なくも疾走感ある「Feira Moderna」が最高に好き。

推し曲:Só Primavera

08. Djavan / Djavan (1978) / ブラジル 1978年

(リンクは「Seduzir」との2in1です)

ジャヴァンは「Luz」か1stを挙げる人が多いかなと思いますが、個人的にはこの2ndアルバムが一番好きです。アメリカで成功してからのジャヴァンも好きですが、この時期の素朴な空気感、シンプルな演奏の中に漂う凛とした空気は何物にも変えがたいです。

マリア・ベターニアが歌いジャヴァンが注目されるきっかけになった「Álibi」や軽快なサンバフィールの「Serrado」など、数々の名曲を含んでいますが、個人的には「Água」が白眉だと思います。フォークロア感を漂わせつつ下降していく中間部のメロディのリフレインはジャヴァンにしかかけないのでは。その後スルドの深い響きをバックに今度は上昇していくリフレイン。天才の所業です。

推し曲:Água

07. Cinema Transcendental / Caetano Veloso / ブラジル 1979年

カエターノも各時代魅力があって、どれを選ぶべきか分からなくなってきますが、70年代終盤から80年代初期にかけてが一つのピークだと思っています。ことソングライティングに関しては確実に頂点を極めていたころと言ってよいと思います。たくさんのヒット曲を含むこのアルバム。「Lua de São Jorge」「Oração ao Tempo」「Beleza Pura」の冒頭の3曲でもうノックアウト。キーボードのトマス・インプロタ、ドラムのヴィニシウス・カントゥアリア、ベースのアルナルド・ブランドン、パーカッションのエドゥ・ゴンサウベスから成るA Outra Banda da Terraはシンプルな編成ながらツボを抑えきった演奏を聴かせてくれます。

そしてサイド2の冒頭、カエターノを代表する1曲「Trilhos Urbanos」の口笛の切なさよ!これ以降、終盤はサウンドがさらに研ぎ澄まされていき、カポエイラのメストレでもあるというMôa do Catendê作の「Badauê」など、バイーア土着の空気も強く感じさせてくれます。

推し曲:Lua de São Jorge

06. Cheiro Verde / Danilo Caymmi / ブラジル 1977年

サブスクになし

カイミ一家代表でドリヴァルの次男ダニーロのアルバムを。まず1曲目の「Mineiro」が素晴らしい。リオ生まれですがミナス勢との交流も深いダニーロが歌うこの「ミネイロ(ミナスっ子)」は、ジャジーなアレンジで、イントロといい、ダニーロ自身のフルートといいどこか(ジョアン・ジルベルトの所でも出てきた言葉ですが)不穏な空気があるにも関わらず、高揚感もあり心が湧き立つ不思議な曲です。しみじみした「Codajas」なども良い曲。高音に差し掛かった際のダニーロの声がたまりません。彼の声は温かみがあり、シンプルなボッサ調の曲にも魅力的にハマっています。当時の奥さんで、本作のプロデューサーでもあるアナ・テハの作詞曲が半数程度を占め、ネルソン・アンジェロ、ノヴェリ、そしてミルトン・ナシメントらミナス勢も参加。アットホームな感じと緊張感が同居する傑作です。ラストの表題曲「Cheiro Verde」はその典型の名曲。

推し曲:Mineiro

05. Vinicius Cantuaria / Vinicius Cantuaria / ブラジル 1982年

カエターノ・ヴェローゾのドラマーとしても名前を出したヴィニシウス・カントゥアリアの1stソロです。冒頭から祈りのように静謐な「Lua e Estrela」で始まり(この曲はヴィニシウス作ですが、カエターノが先に自身のアルバムで取り上げています)、あまりに優雅なストリングスと絶妙のアコギのオブリが印象的な「Coisa Linda」そして、浮遊感溢れる女性コーラスのイントロで卒倒しそうになる「Você Todo Dia」など、天上の音楽かと言いたくなるような世界を作り上げています。「Vestigios」の多幸感溢れるサックスも「No Galho do Manaca」のサビ前のストリングスも・・・語り始めたらキリがないほど涙腺を刺激する瞬間が多数訪れるアルバムです。

ヴィニシウスもニューヨークに渡り、マーク・リボーやビル・フリゼール、坂本龍一らと共演するなど成功を収め、2000年以降も良い作品を残していますが、この1stと2ndの「Gavea de Manha」は特別素晴らしいです。

推し曲:Você Todo Dia

04. Minas / Milton Nascimento / ブラジル 1975年

「Milton」(1970年)と迷いましたが、個人的に最初に聴いたミルトンのアルバムであるこれを。賛美歌とミナスの民謡をミックスしたかのような子供のコーラスから始まるこのアルバムは「ミナス・ジェライス」という場所のサウンドトラックのような印象があります。1曲目でメドレー的に提示されるカエターノとの共作「Paula e Bebeto」のテーマは、この後も繰り返し登場し、このアルバムのトータル感を高めています。

まずはベト・ゲヂスとのデュエットでジャズロック的な要素もある「Fe Cega, Faca Amolada」が最高にカッコ良い。ヴァギネル・チソのオルガンも暴れまくっています。タイトルは「盲信は研ぎすまされた刃のごとく」の意。いやーカッコ良すぎる。続く「Beijo Partido」はトニーニョ・オルタ作。ミルトンのスキャットが素晴らしい。

そして子供のコーラスで始まる「Ponte de Areia」の崇高な美しさ。間奏のソプラノサックスも良いです。この曲はウェイン・ショーターとの「Native Dancer」にも収録されていますね。Earth, Wind, & Fireも引用しています。

ミルトンの作品中最もトータルアルバム感があり、ミナスの深遠な山々を想起させるような一枚です。

推し曲:Fe Cega, Faca Amolada

03. Toninho Horta / Toninho Horta / ブラジル 1980年

サブスクになし

トニーニョ・オルタの2ndソロ。まずはトニーニョを代表する一曲「Aqui Oh!」に全て持っていかれます。起伏のあるメロディ、複雑なコード展開、間奏のサンバ展開と踊るクイーカの音、気がついたら「ミ〜ナスジェラ〜イス」と合唱してしまいます。ドラマチックなイントロで始まる「Saguin」もちょっとイヴァン・リンスあたりを思わせるような良い曲です。

トニーニョの透明感あるギターの音ももちろん堪能できます。「Prato Feito」はパット・メセニーとの共演。マイナー調で始まりつつ、ベースのフレーズに導かれ一気にペースアップする「Minha Casa」などもカタルシスを感じます。そしてラストの「Manuel o Audaz」はロー・ボルジェスをボーカルに迎えたMPBの枠を超えた感動の名曲。再びパット・メセニーも参加し、ギターソロを聴かせてくれます。

1stソロの「Terra dos Passaros」も良曲揃いなのですが、最初と最後の名曲ぶりがあまりにも印象的すぎて、どちらを選ぶかと言われたらこちらになってしまいます。

推し曲:Manuel o Audaz

02. Somos Todos Iguais Nesta Noite(今宵楽しく) / Ivan Lins / ブラジル 1977年

文句なしの大名盤です。モード・リーブリ、そしてこのアルバムから始まるEMI4部作、ユニバーサルでの2枚、さらに言えば初期の3枚、あとは90年代の「Awa Yio」など、イヴァン・リンスの名盤は枚挙に暇がないのですが、1枚選ぶとするならやはりこれです。

イヴァンの生み出す魅惑のメロディと無駄に力強い歌唱に、キーボード、アレンジャーのジルソン・ペランゼッタ、ベースのフレッジ・バルボーザ、ドラムのジョアン・コルテスというモード・リーブリの面々が全力で応える充実の時間。ちなみにアルバム「モード・リーブリ」のときのバックメンバーはヴァギネル・チソを中心とするソン・イマジナリオの面々で、今作のモード・リーブリとは面子が異なります。ややこしい。作詞はほぼ全てヴィトール ・マルティンスです。

1曲目「Quadras De Rodas」は5つのパートからなる組曲形式で、のっけからテンション全開。微妙に表情を変えていくジルソンの伴奏に鳥肌が立ちます。「Um Fado」はそのタイトルから連想されるとおりの12弦のポルトガル・ギターのイントロからスタート、エレガントな雰囲気を漂わせます。そしてヒット曲「Dinorah, Dinorah」。ここでもジルソンのお洒落すぎるエレピの伴奏がたまりません。

イヴァンのスキャットも感動的な「Choro Das Aguas」に続く表題曲の「Somos Todos Iguais Esta Noite (E O Circo De Novo) 」がまた名曲。哀愁漂うアコーディオンでマイナー調に始まり、クラリネットの音色を合図に力強く進行していく曲想。この曲に顕著ですが、このアルバムの曲はジャンルレスというか、他で聴いたことないようなものが多いんですよね。ジャンル、イヴァン・リンスとしか言いようがないという。
ラストは2分に満たない小曲「Qualquel Dia」でさらっと終わりますが、これが警句を含むような背筋が伸びる終わり方でなんともカッコ良いです。

推し曲:Dinorah, Dinorah

01. A Via-Lactea / Lô Borges / ブラジル 1979年

サブスクになし

ミルトンと共にClube da Esquinaの中核を成すロー・ボルジェスの2ndソロアルバム。ローのソングライティングのセンスが十二分に発揮された、ロマンティックを具現化したような一枚です。ローの自作曲は兄のマルシオが作詞。弟のテロ、妹のソランジュ、そしてトニーニョ・オルタ、ヴァギネル・チソ、フラヴィオ・ヴェントリーニ、ミルトン・ナシメントと街角クラブの面々が参加しています。

初っ端の「Sempre-Viva」からどこか不安定な美しさを醸し出し、続く「Ela」がまた切なくも美しい名曲。どこかチープなシンセのPad音が逆にこの切なさを引き立てています。そしてブラジルで一番美しい曲とまで言われるほどの名曲中の名曲「Clube da Esquina N°2」ですよ。ミルトンとのアルバム「Clube da Esquina」の中ではミルトンのスキャットで軽く披露されていますが、やはりここで聴けるものが完成品。妹ソランジュとのデュエットで、何度聴いても胸が締め付けられます。聖歌のような荘厳なバラード「Equatorial」、浮遊感あるコーラスがたまらないフェルナンド・オリィ作(彼のソロ作「Tempo Pra Tudo」も名盤!)の「Chuva na Montanha」、ヴァギネル・チソのソロが冴えるジャジーな「Tudo Que Voce Podia Ser」(これもミルトンとの「Clube da Esquina」収録ですが、別物に仕上がっています)と鳥肌が立つような名曲が目白押しです。

切ない美しさに満ちながら湿っぽくなりすぎず、崇高な雰囲気すら漂わせる。全編が同じトーンで貫かれた名盤です。

推し曲:Clube da Esquina N°2




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