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Kafoh リリースです!


【Kafoh】
Style:Sour Ale with Grape Skin
ABV:7.0%

茅ヶ崎のワインバー「葡萄酒倶楽部」と一緒につくったサワーエール。店主の地元である小諸で育ったぶどうの、醸造過程で搾汁を行ったあとの果皮を漬け込みました。麦芽やホップ由来の味わいをベースとしながら、それらにぶどうからくる華やかな香りや酸味が加わり豊かな味わいのビールとなりました。


茅ヶ崎のワインバー「葡萄酒倶楽部」とつくったサワーエールが出来上がりました。

葡萄酒倶楽部はラチエン通りのギャラリー「卓袱堂」を間借りする形で2022年の4月から、オーナーの帰国までの約1年半の期間限定でオープンしました。
国産、国外問わず店主厳選のワインが楽しめるお店で、また小さなお店らしくその場にいるお客さんとの会話が自然と生まれるような素敵な空間です。僕も家が近所というのもあってよく寄らせてもらっていて、気軽にワインが楽しめることがとても嬉しく思っていました。

惜しまれつつもこの年末でお店の営業は終わってしまうのですが、その前に地元のぶどうをつかったビールを作れないか?という話しから今回のビールつくりが始まりました。
店主の香穂さんは長野県小諸市の出身ということもありワイナリーとの繋がりも濃く、今回は小諸市の糠地という場所でワイン造りを行う「Getta Wines」の上田さんのぶどうの醸造過程で搾汁を行ったあとの果皮を使うこととなりました。

Getta Winesは糠地の地でぶどうの栽培を初めて今年で4年目。今はまだ醸造所を持たず委託醸造でワインの製造を行っています。
2022年に収穫したぶどうで仕込んだワインが今年ついにリリースとなる、新興ワイナリー。今回はそんな上田さんが育てる、Sauvignon blancとGamayの2種のぶどう果皮を使用しています。

ぶどうの果皮をつかった醸造はパシフィックでは初めて。最近では国内のブルワリーでも同じ取り組みが見られるようになり、ビールとワイン業界の距離が近くなってきたことを感じさせますね。
ワインの世界には元々、搾汁後の果皮に水と砂糖を加え再発酵させたPiquetteというお酒があります。4-5%の低アルコールの仕上がりで農作業中の水代わりや、家庭の酒として作られていたものです。

ぶどうの果皮をつかったビールということでPiquette的な発想を持ちつつも、あくまでそれらを副原料的に捉え、麦芽とホップだけでは表現できない味を補填するイメージ、つまりぶどうからくる酸味や香り、そしてタンニンなどを活かす形でレシピをつくりました。

今回のビールを作る前から、オレンジワイン的な味わいのビールを作れないか?というアイデアが頭の片隅にあったので、それを軸としつつベースのビールは大麦麦芽に加えてライ麦を加えることでスパイシーでドライながらも味わいのあるボディに。またカラメル化したライ麦も一部使用することでベリー感のある香りや味わいをもたせました。
全体的に厚みを持たせるために度数はやや高めに設定し、醸造の過程で2回に分けてぶどうの果皮を漬け込みました。

味わいですが、やや赤みを帯びたオレンジがかった外観で、香りはベリーやプラムのような香りに加え、それらの下地的にぶどうのニュアンスが見え隠れします。口に含むと、モルトの甘みや果実感のある酸味を感じられ、後味に重さはないもののそれぞれの原料からくる厚みのある味わいを楽しめます。
確かに麦とぶどうが感じられるハイブリットな印象でありながら、ただのぶどう風味のビールとは一線を画した、立体感のある仕上がりになっています。

熟成による味わいの変化も楽しめそうなので賞味期限をいつもより少し長めに設定しています。グラスや温度を変えながらその多彩な表情を楽しんでもらると嬉しいです。


おまけ

「葡萄酒倶楽部」店主の香穂ちゃんと、「Getta Wines」の上田さん。2人ともいい笑顔。
今回はビールつくりに使用させてもらうぶどう果皮を直接受け取るために2度に渡り小諸市と中川村のワイナリーを訪ねました。

まずは10月の頭に小諸市にあるTerre de cielさんへ。上田さんのワインの委託醸造先です。この日は前日に収穫したぶどうの手除梗のお手伝いを少しだけ。文字通りぶどうの梗の部分と果肉とを分ける作業で、専用の穴の空いた板の上をぶどうを転がすように揉み込んでいくことで果肉が下の容器に落ちていくというもの。どうしても梗が混ざってしまうのでそれらを手で一つずつ取り除いたものをまた別の容器に移し、搾汁を行うことで果皮と果汁に分け、果汁のみで発酵を行います。

所変わって、ドメーヌナカジマさんで選果の作業を。この時期のワイナリーは収穫と醸造の作業を同時進行する繁忙期。天気やぶどうの生育具合によってスケジュールが決まるのでどこも人手不足で大忙しの様子でした。
選果の作業は病気による傷みや、虫や鳥などの被害で使えない果実を取り除くというもの。これが房によって状態もまちまちで、一つ一つ目視していく必要があります。実の揃った果実を見慣れた僕らからすると農薬などを使わない農法にはこういう大変さもあるのか、と当たり前のことに気づく機会でもありました。
半日程度のお手伝いでしたが本当に地道な作業で、美味しいお酒をつくるには途方もない手間暇がかかるのだと身をもって体感しました。
昼食は同席していたシェフの方によるお料理が振る舞われ、ワインも空けてと、なんだか文化の違いを感じる一幕も。僕らはいつもカレーとかラーメンを食べちゃうので、よりそのギャップは大きいです。

搾汁が終わるのを待つため、小諸に1泊し翌朝、再びTerre de cielを訪ねました。搾汁後のぶどうはややパリッとする程水分が抜けていましたがその香りや果実感はまだまだ健在。いただいた果皮は房ごとプレスしたものだったのでブルワリーに戻ってから再びの手除梗を。こうして果皮と分けることで必要以上のタンニンを出さないことが狙いでした。タンクに漬け込んでからの数日間は浮いてきてしまう果皮を中に沈めつつ混ぜる作業、さながらピジャージュもどきを行いしっかり果皮と麦汁をコンタクトさせていきます。

10月の末には中川村にある南向醸造へ。こちらも上田さんのワインの委託醸造先です。この日は2週間ほど前から発酵を行っていたGamayのプレスがあるとのことで、果皮を受け取りにいくことに。白ワインと違い、赤ワインは果皮ごと発酵させるので搾汁は発酵後となるわけです。発酵の前と後では果皮がもつキャラクターも全然違いますね。こちらは全房での発酵だったので、梗がついたままでしたが、あえてそのフレーバーやタンニンを引き出したかったので種のみ少し落として再びビールに漬け込みました。発酵期間も含めておよそ30日程コンタクトさせたのち、タンクを移動し熟成の行程へとすすみました。
色々と検証をしながらの醸造でしたが、正直初めてのことも多く、考えてもわからない!ということで、とりあえずやるだけやってみようと。結果的に予想を少し超えてくるユニークかつバランス感のあるビールになったのではないかと思います。

今回いくつかのワイナリーや畑を見学させてもらいとてもいい勉強になりました。ナチュールなんて言葉も普通に使われるようになってきて、僕自身もそういったワインを飲む機会も多いですが、その言葉の意味や定義って難しいですよね。自然の、ありのままの、みたいなイメージも強くありましたが自然まかせでは美味しいワインは作れません。そこに人の手が加わるのですが、その数が多い程、自然という言葉からは少しずつ遠ざかるような気もしてしまいます。アンナチュラルなナチュラル。なんてことも頭の中をぐるぐると。何かを語るには到底知識も経験も足りませんが、そんなことを考えるきっかけになったことは今回のビールつくりの大きな収穫の一つでもあるのです。

やや脱線しましたが、僕らだけではできないビール造りに取り組めてとても良かったです。香穂ちゃん、そしてぶどうの果皮を提供してくださった上田さん本当にありがとうございました!

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