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Lucky Number #200 リリースです!


【Lucky Number】
Style:Zweihudert Bock
ABV:8.0%

200仕込み目を記念して醸造したBock。
およそ200年前のレシピを参考に、ビールが辿ってきた歴史を紐解くように時間をかけてつくりました。
濃厚な麦芽の風味とホップの苦味からなる、重厚さが特徴の一杯となりました。


祝200仕込み!
ビールをつくっては販売して、皆さまがどこがでそれを飲んでくれて。そんなことの繰り返しで、早いもので200回目の仕込みを迎えました。

1年におよそ100仕込みしているので、だいたい年に一度の登場となる"Lucky Number"。
100仕込み目は100にちなんで、100回ホップを投入するIPAを醸造しました。

さて、迫り来る200仕込み。200回ホップを入れるのは芸が無いなと頭を悩ませましたが200、200、200...と考えるうちに1850年頃のビールシーンが頭をよぎりました。
今年の春にいったヨーロッパの回顧録でも度々登場するこの年代。産業革命の真っ只中で、チェコのプラハでピルスナービールが誕生し、今まさに世界を席巻しようかとする頃。
ということは、その少し前、つまり1820年前後は各地でまだ黄金色のピルスナーではなく、褐色のビールがたくさん醸造されていたのでは?と。

手元にある文献を読み進めると、歴史の波に埋もれた褐色のビールの存在が次々と浮かび上がります。

そんな中、特に目に留まったのが"Salvator Beer"というスタイル。Salvatorとは救世主の意味。これは元々バイエルンの修道士達が断食期間の栄養補給のために作っていたビールです。
庶民のビールはというとアルコール2-3%程度だった時代に、7-8%の度数を誇ったとても贅沢なビールでもあります。現代ではDoppel Bockの愛称で親しまれていますね。

仕込み方法も現代の常識からするとユニークなもので、そこに意味があるのか無いのか、という疑問はさておき200仕込み目を飾るのにふさわしいのでは、と思い今回のビールつくりへと至りました。

およそ200年前の仕込みの手順書の第一項は"10℃の水で4時間のマッシング"です。少しでもビールつくりのノウハウを知る人からしたら驚きの内容ですよね。その後も3度に渡るデコクションや、長時間に及ぶ煮沸など、ざっと見積もっても仕込みに17時間を要します。これはパシフィックの一般的な仕込みの3倍に匹敵します。

入念なタイムスケジュールを作成の元、深夜24時に200kgのモルトと共に仕込みをスタート。長時間のマッシング、3度のデコクション、200分の煮沸と順に行い、大きなトラブルは無くとも結果的には20時間を超す仕込みとなりました。
そうして得た濃厚な麦汁を、敢えて選んだ、ラガー酵母の中でもルーツの古い株と共に時間をかけて発酵と熟成を行いました。

味わいですが、茶褐色の見た目で、モルトやホップからなる濃厚な香りが鼻を刺激します。
どこかモンブランを思わせるような芳醇な飲み口で、滋養強壮として生まれたビールの一端が垣間見えます。温度変化による味わいの移り変わりも面白く、時間をかけて楽しみたい仕上がりとなりました。

この長いビールの歴史、そして日々僕らのビールを飲んでいただいてる皆様への感謝の心が芽生えるような記念すべきビールとなりました。
いつも応援していただき本当にありがとうございます。300仕込み目も面白いアイデアが浮かんでいますので、お付き合いいただけましたら幸いです!


おまけ

早いもので200回目の仕込みを無事に終えることができました。繰り返しになりますが、これは日頃ビールを飲んでくださっている方のおかげです。ありがとうございます。

せっかくなので200にちなんだ何か、ということで頭を悩ませた先に浮かび上がったのが200年前のレシピでビールを仕込んでみるということでした。
参考にしたのはAndreas Krennmair著の「Historic German and Austrian Beers for the Home Brewer」という一冊。for the Home Brewerとありますが、プロブルワーにとっても実に参考になる書籍です。
本文にもありますが、黄金色のピルスナービールの誕生以前と以後で、ヨーロッパのビール事情にも大きな変化が訪れます。これはただ単に、革新的なビールのレシピが誕生した、という訳ではなく科学技術の進歩や工業的手法の確立という世界全体に起きていた流れにも起因します。そして、これまではそれぞれの町ごとで作られていた、いわば地ビール的なものが、グローバルな工業製品へと姿を変えていきました。その転換点が1850年台頃なのです。

1800年代前半にも、現在のビール醸造に通ずるような技術や手法はすでに確立しつつあったようですが、温度計や冷凍機、そして酵母の培養技術などが未発達であったため、より経験則に基づいたビールつくりが広く行われていたようです。
このビールのレシピや仕込み手順も現代の醸造法と大きくは異なりませんが、所々でその時代背景が思い浮かばれるようなユニークなものでした。

せっかくなので、簡単に今回のビールの仕込みを振り返ってみると

「原料」
・麦芽はMunich Malt 100%
・ホップはHallertau MittelfruhとSaazをメインに一部アレンジを加えLorienも使用
・酵母はGerman Lager系の古い株にルーツを持つものを使用

「仕込み手順」
・10℃の水で4時間マッシング
・100℃のお湯を足して40℃まで加温(釜の都合で省略)
・デコクション1回目 もろみを60分煮沸 40℃→55℃
・デコクション2回目 もろみを30分煮沸 55℃→67℃
・デコクション3回目 もろみを15分煮沸 67℃→75℃
・ロイタータンで1時間静置
・麦汁の煮沸は90分(今回は200分にアレンジ)
・発酵は10℃前後でおよそ3週間、レシピには少なくとも3ヶ月は熟成とありましたが、今回はおよそ1ヶ月の熟成。

といった具合でした。多くの方にとっては、なんの事かも良く分からないと思いますが、ところどころ、これなんの意味がある?という箇所があります。
例えば、10℃のマッシング。麦芽の持つ乳酸を活かしてもろみのpHを下げるのが狙いかと思いましたが、特に変化はありませんでした。現代との麦芽品質の違いから、もしかしたら吸水的意味合いがあるのかもしれません。3度のデコクションは現代にも通じますが、それぞれの温度帯での休止時間が無いのは少し気になる所。またロイタータンでの静置が1時間というのもだいぶ長く感じます。
と、まあ普段の仕込みでは考えもしないような事がたくさんあり、それが逆に新しい発見に繋がるのではないかと、仕込みの計画時点からとても楽しみにしていました。温故知新とはまさにこの事かと。

肝心の仕上がりですが、難しいことは抜きにすると"濃くてうまい"感じです。このビールのアルコール度数は8%ですが、当時の一般的なビールの3-4倍に匹敵します。当然原料もそれだけ多く必要になるので、庶民の手には中々行き渡らなかったことでしょう。限られた人だけが飲める、贅沢さ。今では10%越えのビールもありふれているので、本当の意味での贅沢さを感じることが難しいかもしれませんが、少しでもそんな風に思ってもらえるビールになっていたら嬉しいです。

また来年、無事に300回目の仕込みが迎えられるよう、日々を大切にビールつくりに励もうと思っています。よろしくお願いします。

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