Passific Lager リリースです!
【Passific Lager】
Style:Lager
ABV:5.0%
伝統的な製法を用いて麦芽の味をより引き出しつつ、モダンなホップ使いで仕上げました。
クリスピーでありながらしつこくない麦芽感、はっきりと感じつつも引けのいいホップの風味と苦味。満足感があるのに何杯でも飲めるようなラガービールとなりました。
ビールと聞くとどんなイメージが頭に浮かびますか?
僕は、肉厚な中ジョッキに注がれた金色のビールが真っ先に浮かびます。
その背景には短冊メニューが壁に並び、ガヤガヤとした人の賑わいもセットです。
残念ながらパイントグラスに注がれたIPAなどは瞬間的には思い起こされませんし、なみなみ注がれたスタウトなんてもってのほかです。
日本人の、いや世界中の人にとっても同じようなことが言えるのではないかと思います。
それくらいラガービールというのは世界を席巻する存在であり、僕らのDNAにはビール=ラガーという方程式が強く刻み込まれているのです。
長らく、クラフトビールの世界ではエールが主流でした。
それはクラフトビール自身がマスプロダクトに対するカウンターカルチャー的な性質を持ち併すからでしょう。
しかし、ここ数年再びラガービールに焦点が当たっているのは、普段ビールを飲む方なら感じているかと。
伝統への回帰、リスペクトもそうですが、加熱しすぎた"ホップバトル"へのカウンター的要素も理由の1つなのではないかと思います。
カルチャーが醸成されていくと、その内側でカウンターが繰り返されさらに複雑な体系へと進化していくのはとても面白い流れです。
冒頭で述べたように、僕らはクラフトビール好きであると共に、無類のビール好きです。
スタイルや思想の壁を超えた、本能にも近い部分でラガービールを愛しています。
日本の大手ビールは相当レベルの高いラガービールを提供していると思います。
その中で、自分たちがそれを作る意味は?をよく考え、小規模だから、独立した会社だからこそできる最高のラガービールを目指しました。
このためにカスタムオーダーした仕込み釜の特性を活かし、デコクションと呼ばれる失われつつある伝統製法を採用しつつも使うホップはモダンなチョイスも。
ここでも「歴史に学び、現代を生きる」が活きてきます。
という訳でだいぶ気合いの入った、つまり、本気のラガー。是非、飲んでみてください。
おまけ
本文でも少し触れましたが、カスタムオーダーした釜の話を少し。
醸造設備の多くはセミオーダー品なのが通例です。
稀に展示在庫の販売などもありますが、基本は注文後に製作〜納品となります。
なので細かい仕様は変更が効き、ブルワリーの場所や使用方法に合わせて微調整するケースが多いです。
僕らの醸造設備は「Tunwell」という中国メーカーのものです。
また、これらの設備を輸入販売しているのが「スペントグレイン」という会社で、CRAFTROCK Brewingの諒さん、Barbaric Worksの永石さん、RepuBrewの畑さんの3名から成りそれぞれがヘッドブルワーというポジションでありながら副業として設備の輸入販売業を行なっているという次第です。
僕らもビール工場を始めるに当たって様々な設備会社とコンタクトをとりましたが、各社一長一短あり決めかねていました。
スペントグレインのメンバーとは親交も深く(元同じ職場や地元のブルワリー)、比較的安価ながら高品質な製品、また何よりブルワー目線で選ばれた設備ということで迷う余地もなく決めました。
Passific Brewingの工場は20坪強と決して広くはないので、効率良くビールの醸造をするために醸造設備の仕様や配置はとても重要な要素でした。
まず僕らの要望を箇条書きにしどうすれば実現できるかなどを何度も話し合ったり、メーカーとの橋渡し役を担ってもらいました。
その中で、スペントグレインチームからの、それぞれの経験を活かした意見や提案はとても頼りになりました。
いくつもあるカスタム内容の中で特に重要視していたのが「デコクション」と呼ばれる仕込み工程を行うためのものです。
ビールの仕込みはざっくり4工程に分かれ糖化・濾過・煮沸・沈殿となります。
それぞれの工程ごとに専用の釜が用意されることもありますが、マイクロブルワリーのほとんどは兼用釜を使うことが多いです。
僕らのパターンで言うと糖化/濾過用、煮沸/沈殿用の2釜の配置になります。
「デコクション」の説明を少しすると、糖化中のもろみの一部を煮沸して再び戻すことでもろみ全体の温度を上げる手法で、温度計のない時代に生まれたテクニックです。
当時人間の感覚で判断できる温度というと、0度(凍る)、約20℃(常温)、約40℃(人肌位)、100℃(沸騰) くらいだったのではないのでしょうか。
伝統的な「デコクション」の仕込みの一例ですが、38℃→52℃→62℃→78℃の温度帯を維持するものがあります。
これらを温度計のない時代に行うとなると?
人肌(約40℃)まで温めたもろみから1/3〜4位を煮沸(100℃)し元に戻すことで、約40℃だったもろみが→およそ50℃位になる。
というように、それらを繰り返すことで上記のような温度スケジュールで糖化工程を行うことができます。(そもそも温度計がないので具体的な温度は当時意識してないと思いますが)
これなら温度計がなくとも、「バケツで10杯分煮沸して戻した時が美味しくできた」みたいな感じで複雑な糖化工程を再現することが可能です。
また「デコクション」には副次的な効果も多く、麦芽化の品質がよくないモルトの澱粉の溶けを促したり、DMSと呼ばれる不快な香りの元を効率よく揮発させるなどの働きもあります。
少し話はそれましたが、僕らは温度計も持ってますし、麦芽化品質のいいモルトも手に入るので「デコクション」を行う本来の意味は失われつつあります。
ですが、「デコクション」はシンプルな麦芽構成から、より深い味わいを引き出すのに最適な方法だと思っていて、それを実現させるために釜のカスタムを施したのです。
結果的に、糖化/濾過釜⇄煮沸/沈殿釜間のもろみの行き来を可能にするために配管を増やし、つまりがないように配管の経も太くすることとなりました。
またそれらの動作をバルブ操作のみで行えるようにと配管の配置をしてもらいました。
これらのことはスペントグレイン/Tunwellチームとだから成し遂げられたことかなと思います。
というわけで、オリジナル仕様の釜で、あえて伝統的製法「デコクション」を用いて作ったラガーが出来上がった、という話でした。
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