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『輝ける闇』by 開高健

開高健の『輝ける闇』読了。

ベトナム戦争の最中、週刊朝日の特派員という形で取材に入った体験を基にした小説だ。
これは小説なのか?と思うくらい、ノンフィクションに近いものだと思う。
北康利の『最強の二人』でベトナム戦争に赴き、九死に一生を得たことは知っていたのだが、この『輝ける闇』のラストシーンはこれだ。
おそらく、ここは開高健の体験そのものなのだと思う。
200人の部隊が17人しか残らなかったという激しい戦闘だったというその描写はリアルそのもの。一緒に行動していた秋元キャパこと秋元カメラマンのことは描かれていないが・・・。最後は持っていた小さなバッグをもかなぐり捨て、恥も外聞もなく逃げたとあるが、実はそのバッグを拾って追いかけたのは秋元氏だったという。

開高健がベトナムへ赴いたのは私が生まれる前であり、ベトナム戦争のことは正直なところあまりピンと来ない。
ただ、ウクライナの現状と照らし合わせ、戦争の不条理さが辛く圧し掛かり、なんともいい難い気持ちで読んだ。出口の見えない戦争は辛い。
ウクライナのマリウポリやハルキウは市街地ではあるが、こんな状況なのかも知れない。

ちなみに、このなかには素娥という現地の女性が登場する。
恋人というのか情婦というのか。戦闘の地へ赴く前日に情を交わし、彼女には何も告げずにそっとお金の入った封筒を窓際に置いて去るというシーンがある。この小説の中の「私」が開高健自身であるかどうかはさておき、妻と子がある男性として描かれており、いわゆる常識的に考えるとあまり褒められたことではないだろう。ただ、彼女と食事をしたり、そんな他愛もない息抜きの時間があることでこちらもホッとするのである。そんなことでもなければ戦地ではやっていられないのであろうと推察する。

『夏の闇』もそうだったが、『輝ける闇』も最後を締めくくる一文が素晴らしい。

「森は静かだった」


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