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酸いも甘いもロールプレイ『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』【前編】


◆はじめに

当記事は『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』をご存じない方への説明を兼ねた前編となります。プレイ済みの方にとっては大して面白く
もない内容ですのですっ飛ばして後編からお読みいただいて構いません。

◆「シリーズを終わらせたクソゲー」と「ワンコインの神ゲー」

この相反するような言葉は両方とも今回ご紹介する作品『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』(以下ドラクォ)へ向けられたものです。
人気シリーズ『ブレスオブファイア』(以下BOF)の5作目にあたり、株式会社カプコンより2002年11月14日に発売されたPlayStation2用ゲームソフトとなります。何故今作がこのように歪な評価を得る事になったのか。まずはその経緯からご説明したいと思います。

BOFシリーズは1993年4月3日にスーパーファミコン用ソフト『ブレス オブ ファイア 竜の戦士』を1作目としてリリースし、以降2~6と続いた(※1)人気シリーズとなります。ナンバリングによってはエスニックな雰囲気であったり多少の違いはありますが、基本的には王道な西洋ファンタジーRPGとして評価されたシリーズです。雰囲気も比較的明るく、重い内容のイベントはあれど全体的にポップで遊びやすいというのが僕個人の印象としてありました。

BOF1参考画像
ブレスオブファイアポータルサイトより引用

そんな中でリリースされた5作目のドラクォですが、これまでの王道ファンタジーから一変して管理社会、スチームパンク、ポストアポカリプスなど旧来の明るくポップなイメージからは程遠い要素を詰め込んだ陰鬱とした作品としてリリースされました。

※1:シリーズを終わらせたと言われている割にその後に6がリリースされてはおりますが、こちらは5のリリースから14年もの間を開けたため、続編の望みはもうないと判断され名付けられた二つ名となります。

今作をご存じない方のために物語の内容を軽く説明しておきましょう。

災厄により瘴気に満ちた地上は生き物の住めない環境へと変化してしまいました。そのため人類は瘴気の届かない地下深くに潜り都市を形成して長い年月を生き延びていました。その年月たるや“空”の存在が伝承で中でしか語られない程長いものです。
地下で暮らす人類は産まれた瞬間から階級が割り振られる管理社会の中で暮らしており、階級が非常に低い主人公のリュウは環境の悪い下層地区で治安維持部隊の仕事に従事していました。その任務の最中に出会ったのがヒロインとなる少女ニーナです。
リュウと同じく階級の低いニーナに人権と呼ばれるようなものはあってないようなもので、地下都市の汚れた空気を浄化するため、人間空気清浄機として改造を施されていました。空気清浄機としての機能を使い過ぎたニーナはこのままではわずかな時間しか生きられません。
リュウはニーナを救うため一縷の望みを求めて伝承にある地上、“空”を目指して上層へと昇る事を決意するのでした。

◆ドラクォは何故叩かれた?心を折るシステムの数々

▽詰み将棋の如きシステム「APS」と「PETS」 

発売当時はシリーズから逸脱した暗い雰囲気に加え、これまでは比較的ライトユーザーでも楽しく遊べる難易度だった過去作から一変して、非常に難易度が高かった事が大きな原因と言われています。その難易度たるやかなりのもので一手一手慎重に戦略を練って進めなければあっという間に全滅してしまう程です。何故そんなに難易度が高いのか?その理由の一つが今作が採用している“Active Point System“通称APSにあると言えるでしょう。
細かく説明すると長くなってしまうため簡単にまとめます。インターネットネイティブ世代はあまり長文を読みすぎると寿命が縮まるらしいですからね。
端的に言うとシンボルエンカウント式のシミュレーションRPGのようなシステムです。シミュレーションRPGという時点でそこそこ頭を使う必要があるのにボスは勿論の事、道中の雑魚敵ですら当然のように強いです。そのうえ今作はHPの回復手段が“かなり”限られています。つまりできる限りダメージを受けずに完封して戦闘を終わらせる必要があるのです。どうでしょう。一気に難易度が跳ね上がった気がしませんか?
たとえその戦いに勝てたとしてもそこで消耗したHPやアイテムが後の戦闘に響き、その苦戦がさらに後に響くという負の連鎖に陥るため、雑魚戦であっても最大限考えて抜いて戦わなければならないのです。通常のRPG感覚で回復アイテムを使用しているとそれはもう驚く程簡単に枯渇します。

このように過酷なゲームですから補助するためというわけではありませんが、プレイヤーは戦闘に入る前に下準備をして戦闘を有利にする事が可能です。それがインターネットネイティブの寿命を削る長ったらしい名前のシステム、“Positive Encounter and Tactics System”通称「PETS」です。先ほど本作はシンボルエンカウント式だとお話しましたが、その理由がこのPETSにあります。これまでの説明だけですとシンボルエンカウントである必要があまりないですからね。ドラクォはそこんとこちゃんと考えられています。

©2002 CAPCOM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

本作の大きな特徴として、探索画面と戦闘画面が共有されているという点が挙げられます。具体的に説明しますと従来のRPGのように戦闘専用の画面に切り替わるわけではなく、敵シンボルと接触した際の探索画面でそのまま戦闘が始まるという事です。探索画面に表示されていた障害物や通路等が全てそのまま戦闘画面に反映されるため、敵シンボルに接触する位置によって戦闘が有利にも不利にもなります。そしてプレイヤーが探索画面上に設置したアイテムも全て戦闘画面に引き継がれます。
つまり、敵の行動を阻害できるような地形に誘導してからエンカウントしたり、罠となるアイテムをあらかじめ設置したうえで戦闘を開始する等、戦闘前の事前準備ができるのがPETSの肝となります。

……理解できました?
自分で説明していてナンですが、僕がドラクォを未プレイでこの文書を読まされても無駄に寿命を縮めるだけで何一つ理解できないと思います。それは僕の文章力の低さもありますが、そもそものシステムが非常に難解ですし理解してもうまく活用するにはアイテムの設置位置やエンカウントするタイミング等、詰み将棋のような戦略性と想定どおりの動きを遂行する操作テクニックが求められるため、多くのプレイヤーが鼻血を噴き出しながら母の名を叫んで卒倒しました。

▽安易なセーブは許さない「セーブトークン」

何よりユーザーの心を折った大きな理由はセーブ回数に制限がある事でしょう。本作はデータセーブを行うにあたり専用アイテム「セーブトークン」を消費しなければならず入手機会も限られています。そしてその数は決して多くありません。同販売元カプコンのバイオハザードシリーズもナンバリングによってはセーブ回数を制限していますが、RPGにこのシステムを採用した作品は僕の知る限りドラクォ一作です。(他にもあったらゴメンナサイ)
しかしこれだけならば、上述したようにバイオハザードでも同じシステムを採用していたわけですし、トライアンドエラーを繰り返せば何とかクリアできるとお思いの方もいらっしゃるかもしれません。ところがどっこい。今作が批判された理由はセーブ回数制限以外にもう一つあるのです。セーブ回数制限が大きな理由と言いましたが後述するシステムが最大の理由かもしれません。世の中にセーブできない事より辛い事なんてあるんでしょうか?

 あ る ん で す よ ぉ 

▽リュウとプレイヤーは一心同体。命を削る「Dカウンター」

リュウは物語の序盤でとあるドラゴンと接触し、それによって非常に強力な力を得る事になります。どれくらい強力かというと……

一部例外を除き【ラスボスを含めた】全ての敵を一撃で倒す事が可能です。

大体この手の話は蓋を開けてみれば特殊なやり込みが必要で、通常プレイでは決してそのような事にはならず、既存プレイヤーが自己顕示欲を満たすために大袈裟に話を盛っていたりするのが常ですが、このゲームに関しては本当に特別な事をしなくてもラスボスを一撃で倒せてしまいます。
なろう系小説でもないのに何故そんな能力が許されているのか?当然デメリットが用意されています。世の中そんなうまい事いかないのです。異世界に転生して女の子達に囲まれて暮らす人生なんてありません。あるのは大きな後悔と僅かな貯金とほんの少しの希望だけです。希望だけ拾ってポケットにしまったら来世に期待して床につきましょう。

さてデメリットの話ですがリュウがドラゴンの力を発露させた後、画面上部に謎の数字が現れます。数多のプレイヤーがプレイ続行を諦めた元凶【Dカウンター】です。最初は0%から始まりリュウが行動するたびに上昇します。このカウンターが100%に達するとゲームーオーバーになってしまいます。それはもうビックリする程問答無用にゲームがオーバーしてしまいます。そのためカウンターをなるべく貯めないようにゲームを進めていく事になるのですがこの“行動するたび”というのが曲者で以下の動作でカウンターの数値が上昇します。

  • フィールドを歩く

  • Dダッシュ(敵シンボルを弾き飛ばせるダッシュ)を使用する

  • 戦闘時にターンを経過させる

  • Dダイブ(ドラゴンの力を解放する)

  • Dダイブ後にスキル(チャージを含む)を使用する

このようにゲームを進めるうえで必ず行う行動にカウンターが上昇するよう設定されています。そしてカウンターの数値は一つの例外を除いていかなる手段を用いても下げる事ができません。さすがに歩く事で上がる数値はごく僅かではありますが、それでも何気ない探索中もジワジワ上昇するカウンターが目に入るのは地味にストレスがかかります。ボスを一撃で倒すような攻撃を繰り出せばちょっと焦るくらい大きく上昇します。そんなに使ったつもりないのにクレジットカードの請求額が思いのほか大きかった時の心境です。

右上の赤枠内にあるのがDカウンター。じわじわと命が減っていくのを否が応にも感じる。
©2002 CAPCOM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

このゲームはいやらしい事に、要所要所に「Dダイブを使わないと突破できないのでは?」と思わせる程に強い敵が配置されています。そしていざDダイブを使うと驚く程簡単に倒せてしまいます。実際にプレイすると分かるのですが頭を悩ませあらゆる戦術を駆使し、貴重なセーブトークンを使ってまでトライアンドエラーを繰り返しても倒せなかった敵をたった一撃で屠った時の爽快感は脳に深く刻み込まれます。同時に「Dダイブを使うべき敵だった」と納得します。
以降も強敵が現れるたびに「これだけ強いのだからDダイブを使う箇所だ」と理由付けをして敵を一撃で吹き飛ばす快感に身を委ねます。実際、初見ではDダイブ以外の攻略法が思い付かない程に強い敵が何回も現れますから僕自身「ここはDダイブで攻略してくださいねって事だろ」と思い込みホイホイDダイブを使用していました。

もうお分かりですね?
ゲームが後半に差し掛かる頃、カウンターは80%を超えていました。物語の後半と言えばボスクラスの敵がわんさか現れて主人公の道を塞ぐのが定石で本作も例外ではありません。“Dカウンターを使うべき敵”が立て続けに現れあっという間にカウンターの数値は90%を超えます。そして何をどうやってもラスボスを倒す前に100%を超える状況に追い込まれます。
おい、ごく潰し。お前がヘタクソなだけじゃないのか?
そう思った方もいらっしゃるかもしれません。僕自身もそう思ってネットで調べました。みんな同じ箇所で詰まってましたしごく潰しは言い過ぎだと思います。

▽ゲームオーバーの先に待つものは……

先述したようにカウンターが100%を超えるとゲームオーバーになって最後にセーブした箇所、もしくは最初からやり直す事となります。当然殆どの方がセーブ箇所からやり直す事を選ぶでしょう。そしてある事実を思い出して愕然とするのです。
Dカウンターの数値は一つの例外を除いていかなる手段を用いても下げる事ができません】
最後のセーブ箇所からやり直そうがカウンターは当然ながらセーブした時のままに保たれています。最後にセーブする時ってどんな時でしょう?貴重なセーブトークンを使ってまでデータを保存するとなれば多くの方が物語の終盤、ボスラッシュやラスボス等の強敵と戦う直前になるのではないでしょうか。カウンターの様子はどうでしょうか。これまで多くの死線を潜り抜けてきたプレイヤーのDカウンターはもう100に近い数字を刻んでいるのではないでしょうか。
前回と同じようにプレイすれば当然同じようにゲームオーバーとなってしまいます。かといって難易度の高いこの作品。少しやり方を変えた程度で状況を打開できる程優しい作りにはなっていません。感覚として一番近いのは『ファイナルファンタジータクティクスのリオファネス城連戦前にセーブしてしまった』時です。
大企業に入れる程有能な大人が集まって作ったゲームでこんなにどうしようもない程に詰む事があるのかと疑い、試行錯誤した結果本当に詰んでいると気付いた時、歯ぎしりのし過ぎで僕の奥歯は一切の凹凸が無くなっていました。

見ると震えて泣きだしてしまう人もいるというシーン。人を泣かせたい時に便利。
©1997,SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

つまり、Dカウンターが高い状態で終盤にセーブしてしまうと余程の事がない限り詰みとなります。
ここでゲーマーのあなたはこう思ったでしょう。
「進行度別にセーブデータを複数用意してやり直せるようにしたらいいんじゃない?」
1つ大事な事を言い忘れていました。

このゲームはセーブデータを一つしか作れません。

▽もう一回遊べるドン!「SOL」システム!

もうクリアできないってコト!?
いえ、そんな事はございません。言いましたよね?
Dカウンターの数値は一つの例外を除いていかなる手段を用いても下げる事ができません、と。
その例外とは「SOL」を使用する事です。SOLとはなんぞやという話ですが、wikipedeiaより引用いたします。

繰り返しゲームを行うためのシステム。正式名称はScenario OverLay(シナリオ・オーバーレイ)。ゲームオーバーまたはゲーム中で「ギブアップ」を選択した際、最初からまたは最終セーブポイントからゲームをやり直せる。最初からを選択した場合は装備品や所持金・スキル(後述)などの引き継ぐことができるほか、それまでのプレイでは見られなかったイベントシーンが追加されることがあり、プレイを繰り返すことでより深く物語を理解できるようになっている。

wikipedeiaより引用

最初からやり直しましょうという事です!

そうです。ここで多くのプレイヤーの心がポッキリと折れました。
ドラクォが酷評されたのは、これまでのシリーズと雰囲気が異なるというのも大きな理由の一つではありますが、コアゲーマーも唸る難易度の高さと、あらゆるシステムが明らかに周回させる事を前提に組まれているからでしょう。
複数回遊ばせるために、周回システムを採用するゲームは今日日少なくありませんがその多く一度クリアした事へのご褒美的側面が強いものです。
一方でドラクォのSOLはアイテム持ち越し等も勿論可能ではありますが、多くのプレイヤーはクリアできずに最初からやり直すハメになっていました。一番見たかったエンディングにおあずけを食らったままでは、たとえ強い武器を持ち越せようとも爽快感より徒労感が勝ります。

◆まとめ

長くなりましたが、ここまであげたドラクォが酷評された理由をまとめてみましょう。

  • 複雑な戦闘システム

  • 非常に高い難易度設定

  • 回復手段が限られている

  • セーブ回数が制限されている

  • 100%に達すると問答無用のゲームオーバーになるDカウンター

  • セーブデータが一つしか作れない

  • セーブ箇所によっては高確率で詰む

  • やり直しを推奨するかのようなSOLシステム

これだけ見ると確かに酷評されて然るべきと思ってしまいますよね。事実発売からしばらくの間は「シリーズを終わらせたクソゲー」と呼ばれ、中古屋ではワンコイン(500円以下)で値付けされる事も少なくありませんでした。
そんな不名誉な呼び名が「ワンコインで遊べる神ゲー」へと変化したのは何故か?シリーズ最悪と評されたドラクォが今もなお愛されてやまない理由は何か?
後編でお伝えできればと思います。

酸いも甘いもロールプレイ『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』【後編】


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