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『ライブ・ア・ライブ』はプレイヤー自身の物語であるというお話

※注意※

この記事は物語の核となる中世編を主に扱っており、ネタバレを多分に含みます。これからプレイする予定であったり、ネタバレを好まない方は地雷を踏んだと思って諦めてから読んでください。



みなさんは『ライブ・ア・ライブ』というゲーム作品をご存じでしょうか?1994年にSQUARE(現SQUARE ENIX)から発売されたSFCソフトで、ファイナルファンタジーやドラゴンクエスト程の知名度はないものの、知る人ぞ知る名作としてゲーマーの間では語り草になるような作品でした。最近ではNintendo SwitchにてHD-2Dリメイク版が発売されましたので話題にあがる事も多いかもしれません。小学館との共同作品として制作された今作は、7つのシナリオで構成されており各話のキャラクターデザインを当時の小学館で連載していた漫画家7名がそれぞれ担当するという意欲的な作品でありました。

さて、そんな名作『ライブ・ア・ライブ』ですが残念ながら僕自身はリアルタイムでプレイしておらず、当時小学生だった僕は今作の事をまるで知らずに鼻水を垂らしながらファイナルファンタジー5をプレイしていました。今ほどインターネットが普及していなかったうえに頭の悪い小学生の僕が辿り着けるゲーム情報はAAA級のドメジャータイトルくらいしかありませんでした。主な情報源であるテレビ番組では、スポンサーの都合上カルチャーブレーンやジャレコといったマイナーなメーカーの作品ばかりを紹介するゲーム王国くらいしかなかったため、当然ライブアライブのラの字も紹介されず、記憶に残っているのは江戸家小猫と渡辺浩弐の顔くらいなものです。そんな環境でしたから今作の存在を知る機会のないまま大人になり、実際にプレイしたのは二十歳を過ぎた後だったと記憶しています。

落胆

二十歳を超えても相変わらずゲームが好きだった僕は様々なゲームをプレイしてゲーマーを自称するようになっており、ゲーマーならば名作と言われている昔のゲームも一通りプレイしておかねばなるまいという謎の使命感からネットで名前を見かけたライブアライブをプレイする事に決めました。ゲーマーであるという事に妙な驕りを持っていた僕は「手始めのコイツからやっつけてやるか」くらいの感覚で仮性包茎なのに高飛車な態度でゲーム機の電源を入れました。

正直に言います。

PS2が発売されてしばらく経っていたくらいの時代でしたのでゲームの演出や手法もある程度出揃っており、1994年当時では革新的であったであろう『ライブアライブ』はその時の僕を興奮させるものではありませんでした。重厚な長編を好んだ僕にとって、短めなシナリオが連続する今作はミニゲーム集のように感じてしまい相性が良くなかったという事もあるかもしれません。また、小学館とのコラボ作品であった事もあり「所詮は知名度優先のキャラゲーか」と仮性包茎なのに上から目線でしたり顔をしていました。

真打【中世編】現る

さっさと終わらせて次のゲームに移ろうと考え、7つ目のシナリオをクリアした時でした。シナリオ選択画面に新たなシナリオ【中世編】が現れました。正直期待はしていませんでしたが一度始めたゲームはつまらなくても最後までプレイするという自分ルールに従って渋々中世編を選択します。
中世編はルクレチア王国の戦士「オルステッド」が闘技大会に参加しているシーンから始まります。順調に勝ち進んだオルステッドは決勝でライバルの魔法使い「ストレイボウ」と戦いこれをくだします。そして優勝したオルステッドには姫「アリシア」への求婚の権利が与えられ、アリシアはそれを快く受け入れます。アリシアは強くたくましいオルステッドを愛し信じる旨を伝えますが、突如空から現れた魔王の手下にアリシアは連れ去られてしまう、というのが冒頭の話です。この時点では何の変哲もない、むしろ退屈なくらいベタなファンタジーRPGです。プレイしている僕も「ハイハイ、よくあるやつね」という態度です。

その後、アリシアを救うべく立ち上がるオルステッド。ストレイボウも仲間に加わり、王や国民の声援を受けて旅立ちます。まずはかつて魔王を倒したとされる勇者「ハッシュ」のもとを訪ねます。魔王討伐後、勇者という名声にたかる人々の浅ましさを目の当たりにしたハッシュは人間不信に陥っており一度は協力を拒みますが、その後出会った僧侶「ウラヌス」の説得によりハッシュは旅路に加わります。ウラヌスはかつてハッシュと共に魔王と戦った伝説の僧侶であり中世編きっての人格者です。こうして新旧混合魔王討伐パーティを結成し、魔王が住む東の山へ向かいます。

強力な仲間を得たオルステッドは次々と魔物を倒してついに魔王を打ち倒します。しかしハッシュは「今のは魔王ではない!」と狼狽します。姫の姿も見当たりません。そのうえ病を患っていたハッシュは戦闘中に負傷しその場で息絶えてしまいます。さらには突如起こった地震にストレイボウが巻き込まれ生き埋めにされてしまします。

戦友二人を失い、命からがらスクレチア城へ帰ったオルステッドとウラヌス。失意のまま床へつきますがその夜、オルステッドは不穏な夢にうなされ目を覚まします。すると城内には魔王の姿が。当然ぶった切るオルステッド。しかし床に倒れているのは魔王ではなくルクレチア王でした。

その現場を大臣に目撃されたオルステッドは王殺しの罪を着せられ、さらにはオルステッドこそが魔王であるとして追われる身となります。ウラヌスも魔王の仲間として投獄されてしまい、わけも分からず逃げるオルステッド。逃げた先では以前は勇者として称え親しんでくれた人々から容赦のない罵声を浴びせられ、時には恐れられ行き場を失ったオルステッドは再び城へと帰ります。

この時のオルステッドは半ば諦めていたのかもしれません。抵抗もせず牢に放り込まれてしまいます。そりゃ、戦友を一気に二人失ったうえに姫も連れ戻せず、なんか分らんけど魔王も本物じゃなかったっぽいし何なら自分が魔王呼ばわりされて追い回されたらプルデンシャル生命保険の営業マンばりの精神力がないと耐えられないでしょう。

変化

牢の中には拷問にかけられボロボロになったウラヌスがいました。「ワシらは魔王などではない……」とブツブツつぶやき精神面でも危うい状態であるのが見て取れます。しかし人格者ウラヌス。そんな状態でも「お前にはまだやるべきことがある」と最後の力を振り絞ってオルステッドを脱出させます。自分が救った人々から裏切られ仲間を失って尚、命が尽きるまで人を信じる事を止めなかったウラヌス。

このあたりから僕の中で退屈なミニゲーム集であった『ライブアライブ』への見方が少しずつ変わっていきます。そして漠然とプレイしながら何となく感じていた違和感に気付きます。これまでのシナリオの主人公はそれぞれ明確な人格を持ち、流暢に喋っていたのに対して中世編のオルステッドはここまで一言も発していません。感情移入を促すため、あえて主人公に人格を与えない(喋らせない)という手法はよくありますが、この時のウラヌスの言葉がやけに響いたのは僕自身、既にオルステッドに対して感情移入していたからかもしれません。

ウラヌスの命と引き換えに城から脱出するオルステッド。敵は魔物だけではなくなっていました。この時のオルステッドは仲間を失い、国中から魔王として追われ、姫アリシアだけが自分を信じて待ってくれている唯一の希望でした。そしてハッシュやウラヌスが死に際に残した言葉はいずれも「お前を信じる姫を救い出せ」という事でした。追手の兵士をバッタバッタと切り倒すその姿からは尋常ならざる覚悟を感じとれます。もはや後の事など考えていられません。姫を助け出すためなら人であっての躊躇なく切り伏せます。
城を脱出し再び魔王の山へ訪れたオルステッドに魔王が仕向けた手下が襲い掛かりますが、決意を固めたオルステッドには敵いません。次々となぎ倒し頂上へ到達します。

「やはり 来たか!」

頂上で響き渡る声は、地震に巻き込まれて死んだはずのストレイボウのものでした。ストレイボウは語ります。魔王の偽物を倒したあの時、彼はさらに奥へと続く秘密の通路を発見していました。そしてその奥に幽閉されているであろう姫を救い、手柄を全て自分だけのものにしようと画策したばかりか王殺しの罪を着せたのも自分の仕業だと告白します。ストレイボウはさらに続けます。その口調はかつての冷静な彼からは想像もつかないような乱暴なものでした。

「俺がどんなに どりょくしても!」
「てめえは いつも そのひとつ上を行っちまうッ!!」

「てめえにッ!てめえなんかにッ!」
「わかられて たまるかよッ!」

「あの世で 俺にわび続けろ オルステッドーーーーッ!」

ご覧のとおりかなりハイレベルな言いがかりです。「そないな事言われましても……」と戸惑っていると、その勢いのまま襲い掛かってくるものですからこちらも応戦するしかありません。しかしストレイボウがどんなに努力しても一つ上を行ってしまうオルステッド。床に横たわるのは当然ストレイボウのほうでした。
「また……かよ……!」との憎しみの言葉を吐き捨てて息絶えるストレイボウ。そこへ駆け寄る一人の姿がありました。姫アリアシアです。嫌な予感がプンプンがします。

僕から生まれたオディオ

「来ないで!」
アリシアが放った言葉は、自分を救いに来た人へのソレではありませんでした。ストレイボウの亡骸に寄り添いながらアリシアは言いました。

「オルステッド……なぜ……来てくれなかったの……?」
「この人は……ストレイボウは来てくれたわ!」
「この人は……いつも あなたのかげで 苦しんでいたのよ……」
「あなたには……この人の……」
「負ける者の 悲しみなど わからないのよッ!」

この時オルステッドは誤解だと言い返さずただ顔をそむけます。アリシアが放つ言葉は、説明する気力を根こそぎ奪うのに十分すぎたのでしょう。耐え切れなくなったオルステッドはただ黙って顔をそむけるしかできなかったに違いありません。多分僕の顔も歪んでいたと思います。そして呪詛を吐き散らした後アリシアはストレイボウの後を追い自らの命を絶ちます。
自分を信じてくれた人は皆この世を去り、国に裏切れられ、親友にも裏切られ、人を切ってでも救いたかった姫は自分に対して呪いの言葉を残して命を絶ってしまいました。

どれだけ裏切られても「人を信じろ」という先人の言葉を背負って、ただただ姫を助けるために人を信じる事を止めなった、というよりも退路が断たれていたのかもしれません。今更その歩みを止めるにはあまりに失ったものが多すぎました。その損失を補填するただの一つの手段が姫を助け出す事に他ならなかったのでしょう。しかしそれも、希望であったはずの姫自身の手によって打ち砕かれました。

憎しみが生まれました。オルステッドの中に、僕の中に。

「私には……もう 何も残されてはいない……」

その瞬間、今まで一言も言葉を発さなかったオルステッドが喋りだしました。「魔王などいなかった。ならば自分が魔王になり自分勝手な人間達にその愚かさを教えてやる」とつぶやき自らを【魔王オディオ】と名乗ります。プレイヤーの代行者でしかなく、人格を持たなかったはずのオルステッドに魔王としての人格が宿りました。

僕が『ライブアライブ』というゲームの、特に中世編が優れていると思う理由がここにあります。プレイヤーの怒り、憎しみの感情が頂点に達した瞬間、代行者オルステッドに魂が宿る。つまりプレイヤーの負の感情が抜け出しオルステッドに宿った姿が魔王オディオであると解釈した場合、主人公とプレイヤーの心情をリンクさせ、さらにそれをゲーム内に落とし込むという非常に高度なシナリオである事がわかります。そしてオディオとはラテン語で「憎しみ」を意味する言葉です。
プレイヤーの憎しみによって人格を宿したオルステッドが新たに名乗った名前が【オディオ(憎しみ)】なんてこんな綺麗なシナリオありますか?さらに素晴らしいのはこの後、魔王オディオを操って各シナリオの主人公を倒すルートか、各シナリオ主人公達を操り協力してオディオを倒すルートの2つを選択できるところです。
自ら生み出した憎しみに従うか、それとも抗って憎しみに打ち勝つのかをプレイヤー自身に委ねるという揺らぎを持たせています。あくまでプレイヤーを主体としています。シナリオ・演出によって丁寧にプレイヤーの感情を揺さぶり、それによって生まれた魔王をプレイヤー自身の手によってけじめをつけさせる。
膨大な量のゲーム作品が溢れる昨今となっては別段珍しくもない手法かもしれません。ただし、ここまで丁寧にプレイヤーの感情を物語に絡めて落とし込んだ作品は殆ど見たことがありません。思い当たるとすれば『ブレスオブファイア5 ドラゴンクォーター』というゲームがありますが、これもまた素晴らしい作品ですのでまた別の記事にて紹介させていただこうかと思っています。

最後に

だらだらと書き連ねてきましたが、文章と言えばTwitterで140字以内の短文ばかりでしたので5000字を超える文章は恐らく10数年ぶりになるかと思います。できる限り推敲して最低限、誤字脱字はないように努めましたがきっと見落としがあるでしょう。スマホからの視認性などもあまり考慮していないので読みづらい部分もあったかもしれません。ですので最後まで読んでくだたさったアナタはとても偉いです。久しぶりに文章を書いたら結構楽しかったのでまた何か書きます。その時はよろしくお願いしますね。ではまた。

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