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ハンドメイド雑誌『COTTON TIME』今、昔──。

株式会社主婦と生活社で、編集者として夢中で働いていたころに創刊した『COTTON TIME』。世の中に誕生したのは1993年、秋のことでした。テスト誌という位置付けて4号を発行しましたが、『私のカントリー』別冊として第1号を出した時から定期雑誌として育てていきたいと考え、版型はA4変型判中綴じ、発行形態は年6回の隔月刊誌にすると決めていました。”コットンタイム”という雑誌名も、コットン素材の意味合いはなく、”コットン、コットン”と糸を紡ぐ音を連想して名付けたものです。雑誌コードを取得しての定期誌創刊号発売は、1996年2月7日。ここから偶数月の7日発売をお約束に、以来最新号では156冊を数えています。

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当時は”コットンタイム”という商標を大手繊維メーカーが所有していて、そこから有償でお借りしてのスタートでした。他誌と差別化するためにも、先生方ではなく、一般の方々の工夫ある作品を誌面に登場させましたが、これが『COTTON TIME』の最大の特徴となっていきました。当時のハンドメイド系雑誌は、ソーイング、刺繍、パッチワークなど、カテゴリー別に分かれているものが多く、入園入学やひな祭りなど、季節のイベントを特集の柱に据えて、様々な手法が入り混じった『COTTON TIME』のような雑誌は、珍しかったかもしれません。

気になっていた雑誌は、文化出版局が発行していた『サマンサ』というハンドメイド誌。若いママたちの「作りたい!」という気持ちを上手に誌面に反映させていて「サマンサに追いつけ!おいこせ!」を合言葉に、スタッフ一丸となって編集作業に没頭していきました。

あれから28年──。現在は石田由美さんが『COTTON TIME』の編集長として編集部をまとめてくれていますが、昨年からのコロナ禍の影響で、雑誌自体にどんな変化があったのでしょうか? 久しぶりにお話を聞いてみたくなりました。

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「去年2020年の5月号は150号という記念の号だったのですが、マスクの型紙を付けたところ、すごく売れて! 初めて『COTTON TIME』を買ったという新規の読者もたくさんいて、マスク不足によってこんな風に影響が出るんだと実感しました。ただその時に、アンケートはがきから『COTTON TIME』の作り方は難しいというコメントがあって。今までよりも、さらにハードルの低い誌面作りが必要なんだと感じたんです」

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初心者に向けた視線や、同じことを繰り返すことで編集者のほうが飽きてしまい、次の階段を上ってしまうことはよくあること。気が付くと読者と距離ができているという経験は私にもありました。

『COTTON TIME』の創刊当時と今とでは、30年近く隔たりのある時間の流れのなかで、顕著な変化も見て取れます。1990年代は、入園入学時期になるとママたちは慣れないミシンを扱いながら、上履き入れやお稽古バッグなどを手作りするのがごく自然の流れ。1、2月になると、初めてソーイングをする新しいお客さまの需要に向けて、ハンドメイド業界挙げて大きなキャンペーンを仕組んでいたものです。「昔は入園入学のタイミングで新しい読者が入ってきてくれましたが、今はそんなに変化はないですね」と石田編集長。共働きが当たり前の今。作ってあげたくても時間がなく、購入することで良しとする流れが生まれてきたのも事実です。

そして昨年より、私たちに及びもつかなかったほどの影響を与えているコロナ禍。「昨年の5月号を皮切りに、4号連続で実売率が80%を超えてきたのも愕きでした。マスクに続き、エコバッグを手作りするという企画も大ヒットでした。エコバッグの場合はある程度生地も使うし、サイズ違い、素材違いで一人で何種類も作るんです。ミシンもかなり売れたと聞いています」

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ところでここ最近、編集部で特に力を入れて取り組んでいるのが、独自の型紙の販売サイトだとか。「バッグやポーチなどの小物の型紙なんですが、ここでしか売られていないものだけに、人気の商品が誕生しやすいんです。誌面で大人気の作家さんにもご協力いただいて、オリジナルデザインのものを企画していくという方向を打ち出していますが、もう少しで軌道に乗るところまで来ました」雑誌の特徴を生かして独自路線を打ち出すことで、差別化を図るという施策。これは今も昔も変わりません。

新しいチャレンジが実を結びつつあるのは喜ばしいこと。一方で、昨年から関西方面への出張ができずに、新製品情報などメーカーさんからの生の声が聞けないことはとても残念なことだといいます。「面と向かって会話するのがなくなっていくと、自分の中にストンと落ちていく感じがつかめずに、知識がたまっていかないもどかしさがあります。ハンドメイド業界全体の動きが見えづらいですね」

ネット上からいろいろな情報は取れても、直に触れたり見たりしているのとは大違い。自分の足で歩いてつかみ取っていくという感覚とは、違っているはずです。

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だからこそ、お世話になっているメーカー企業の方に会場でお会いできたり、力の入った新製品を手に取ってみることができる今年の日本ホビーショーは、いつにもまして楽しみだと言います。「各メーカーさんが何をイチ押しにして出すのかなー」と。

ホビーショー当日,開場と同時に一目散に走ってワークショップの予約をする光景は影を潜めても、新しいハンドメイドの手法、魅力的な新製品を求めて、ひとつひとつを興味津々に眺めながら、会場をゆったりと歩くお客さまを私たちは丁寧にお迎えしたいと、今から楽しみにしています。

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