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映画「転校生 さよなら あなた」~私は、あなた。あなたは、私。~

 古い旅館の一室で、上半身だけ浴衣を脱いだ少女が座っている。少年は愛おしそうに少女の胸に触れ、そして顔をうずめた。少年は涙を流しながらつぶやく。<さようなら、わたし>呼応するように少女がつぶやいた。<さようなら、俺>

 1982年に公開された映画「転校生」のリメイク版で、前作と同様に大林宣彦監督が手懸けている。少年と少女の心が入れ替わる設定は同じで、舞台が尾道から長野に変わっている。ラストシーンは、前回は少年の引越しを契機に少女と別れるのだが、今回は不治の病に罹った少女の死で終わるのだ。

 映画の前半で、少女はボーイフレンドから<君に必要だから>と文庫本を手渡される。キルケゴールの「死に至る病」だった。著者は「死に至る病」とは肉体の死ではなく、精神の死であり、「絶望」こそが本当の死なのだと説いている。

 私達一人一人は「絶望」を乗り越えながら、日々成長して生きている。成長の過程で、古い自分を脱ぎ捨て、新しい自分として生き抜いているのだ。

<さようなら、俺>という台詞が、もう一度ラストシーンで使われる。少年が少女のお墓に向かってつぶやくのだが、私達が大人になる過程で脱ぎ捨てた、自分の分身への言葉であり、レクイエム<鎮魂歌>なのかもしれない。

 人はいつか平等に死を迎える訳だが、「絶望」を乗り越えて生きて来た自分自身に対しては<さようなら、わたし><さようなら、俺>よりも<有難う、わたし><有難う、俺>がふさわしい気がするのだが…。