土と東京

東京に行きたいレストランがある、奢るから行こうと言われ、遥々2時間かけて来た。
着いたのはおしゃれなレストラン。
しかも1万円もするコースを予約してくれたらしい。

テンション高めに席に着く。
何料理かはお楽しみにって言われてた。
フレンチ?イタリアン?
わくわくしながら発表を待つ。

「今日はね、土料理を食べに来たんだよ」

は?何言ってるのこいつ。
冗談下手すぎでしょ。
しかも聞き直しても頑なに土料理と言い続けてる。
しつこい。大概にして。

しばらくして本当に「土料理」がでてきた。
素材本来の味は土から〜と説明書きがついていた。全然言ってる意味がわからない。
不明なことが起きると人間は本当に口が開くことを知った。

前菜はスープ。
土とじゃがいものビシソワーズとか言う名前の泥水。
土の香りをお楽しみください、と言い残して去るウェイター。なんで真顔でそれ言えるの?

食わず嫌いはしない主義だから、スープを少し飲んでみた。
なにより、1万円のコースだし。

ただの泥水だった。ウェイターの言う通りギンギンに土の香りがする。
幼稚園の頃、砂場で転んで口に土が入ったことがある。それと同じ味。
わー、思い出の味だー。すごーい。
再現率100%〜。

それから、土料理は泥団子、土リゾット、土ハンバーグ、土アイスと続いた。
フルコースだから。
味は変わらず土。多少、野菜や肉が混ざっているらしいが全く違いは分からない。

ほぼ残した。

目の前のクレイジー野郎は、さっきのウェイターと外国の土を食って暮らす人の話とか、アフリカの妊婦が土を食う話している。

殴ろうかと思ったけど、奢られる身だから我慢した。

暇だからインスタに載せるくらいしか使い道のない土料理の写真を撮る作業を繰り返す。

私は何をしに東京に来たのか。
未だかつてこんなにムダな1万円の使い道があっただろうか。

思えばおかしな話だ。
突然1万円のコースをご馳走してくれるなんて。
罠だったんだ。

クレイジーサイコな我が友人は終始満足そうだった。
そんな彼の職業は医者だから、頭が良い人とヤバイ人は本当に紙一重だ。

#ない話
#ディナー
#シュール
#小説

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