育児戦争/家政夫と一緒。~2の48~
絶体絶命
「────────」
目算する。
セイバーの剣がこちらに届くまで四────否、二歩。
それを理解すると同時にアーチャーは地を蹴る。
先ほど施した強化魔術はまだ続いている。超人的な跳躍力で床を蹴ったアーチャーは一度の跳躍でセイバーとは反対側、半開きになったドアまで後退する。
だが。
────ブオッ!
二歩、確かにそれは合っていた。
こちら側のドアまで、セイバーが突進して来た事を除けば。
「────!」
莫耶────は、切嗣の腕を運ぶため右腕が塞がっている今は使えない。
ならば令────
グオッッ!!
迫るセイバーの圧力。
アーチャーは常に前に立って戦う壁であった。
故に、令呪を使って敵を止める────その思考にコンマ数秒届かない。
「────っ」
振るわれる風王結界。
セイバーの狙いはアーチャーの右手にもつ────切嗣の腕(令呪)。
ヒュンッ! ジュインッ!
「⋯⋯ぐ!」
飛び散る火花、浅く切り裂かれる右手の第二関節。
このままだと続く踏み込みでアーチャーの体は両断される。
『く────』
切嗣の腕をセイバーの眼前に放り、後方へと跳躍するアーチャー。
腕に一瞬気をとられたセイバーは、踏み込みのタイミングを失し踏みとどまる。
そのまま半開きだったドアを抜け、5Fデッキへと逃れるアーチャー。
『切嗣、これ⋯⋯ういう⋯⋯。早く腕の⋯⋯を⋯⋯!
それに⋯の船は一体⋯⋯?』
『⋯⋯⋯⋯』
『成りました。王はいずれ来⋯す。────が、時間が無⋯。
切嗣はこ⋯で傷の⋯当てを。アーチャー⋯⋯が倒⋯ます』
船首内から僅かに聞こえてくる声。
どうやらセイバーはこちらに狙いを定めたらしい。
『────く、どうする⋯⋯?』
煙突(ファンネル)の陰に素早く隠れ、船首方向を窺うアーチャー。
魔力量、身体状況は冬木大橋での時よりも劣悪な状況である。
────ザッ。
すぐさまに船首から出てくる白銀の騎士、セイバー。
多少消耗が見られるもののその出で立ちは凛々しく、また強大な魔力を感じさせる。
『消耗、か。どこかで一戦闘交えてきた後なのか』
アーチャーは思案する。左手を破壊されている状況では弓も撃てない。
かといって今の身体状況のままセイバーに白兵戦を挑むのはあまりにも無謀である。
そうなれば逃げの一手しか選択肢がなくなるが、楽に逃がしてもらえるかどうか。
一度取り逃がしているのだ。勝負事に煩いセイバーの事、そう簡単に逃がしてはくれないだろう。
彼女に相手に後ろを見せて無事で済むとは経験上思えない。
『正面突破。
やるしか、ないか』
その正面を抜け、活路を開く。
避けては通れない道ならば、覚悟を決めたほうが迷いは無い。
幸い、前回の戦いにおいて散々に翻弄してある。
こちらの正体が割れていない事が、こと戦いにおいてクレバーな彼女に対し有効に働いてくれれば良いが。
「⋯⋯ここだ、セイバー」
覚悟を決めたアーチャーはファンネルの影から歩いて出る。
迫る巨大な冬木大橋を上方に見据え、セイバーと対する。
「────」
傷つき、ボロボロの姿のアーチャーを見て、セイバーは僅かに眉を顰める。
「⋯⋯アーチャーの、サーヴァント。
先日は、何のつもりであのような事をしたのか⋯⋯理解できないが」
その表情に僅かな戸惑いを浮かべつつも、アーチャーを睨みつける眼光の強さは変わらない。
────これは、拙いか?
「────ク。
さてな、ただの気まぐれという奴だ。
剣の王よ、よもや味方から撃たれるのが好みというわけではあるまい?」
「⋯⋯戯言を。
何故かは判らぬが、あなたは私の正体を知っているようだ。
ならば────」
────ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
強い風が吹く。それはハリケーン発生の前兆にも似た暴風。
アーチャーは足を踏ん張り、目を凝らす。
「────────っ!?」
ゴオオオオオオアアアアアッッ────!
無論、それは自然に発生した風ではない。
湖の乙女から与えられた精霊魔術────風王結界。
“剣”を覆い、包み隠していた大魔術の奔流が外界へと溢れ出ているのだ。
セイバーを中心とした暴風はやがて収まっていき、その手に現れたのは────黄金の、剣。
「手を抜くつもりは、無い。
我が剣の錆と消えよ────アーチャー」
星により鍛えられた神造兵装。
誰もが願い望んだ、全てを破る最強の幻想────。
「────約束された(エクス)、勝利の剣(カリバー)」
最も美しく、輝かしい幻想の剣が────今アーチャーの目の前で、抜刀された。
家政夫と一緒編第二部その48。
そうして抜かれるラスト・ファンタズム。
最強の幻想はアーチャーへと突きつけられる。
その理想は、何人たりとも打ち破れぬこの幻想を、超えてゆけるのかと。
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