育児戦争/家政夫と一緒。~2の30~
Interlude3-5:二つの手・後編
目の前にいる妹の瞳は、強く強く私を見据えてる。
私のことを、信じる瞳で見つめてる。
「ねーさん、わたしね⋯⋯っ、わかったの!
ないてるだけじゃっ、だれかにきもちはつたわらないんだって。
てをにぎれば⋯⋯かえってくるものがあったの。
きらいなんだ、いらないこなんだって、かべをつくってたのは、わたし⋯⋯っ。
⋯⋯それだけだったのに。それができなかったから、ひとりでないて、くるしんで⋯⋯」
────あ。
「でも、わたしが、そうおもえるようになれたのは⋯⋯ずっとずっと、ねーさんが、てをつないでてくれたから⋯⋯なのっ!
ひとりでひざかかえて、ないてばかりだったわたしを⋯⋯てをひいてたちあがらせてくれたから。
こわくない、だいじょうぶって、そんなのぶっとばしちゃえって、さくらは、ひとりじゃないんだよって、おしえてくれたからっ⋯⋯!」
────ああ。
そうだ、信じてた。
父さんも、桜も、みんなで幸せになれるって信じてた。
だから私は桜の手を離さなかった、一緒に歩いていこうって。
いつかきっと、仲直りできるはずだからって。
誰だって、不幸せ(バッドエンド)を目指して走るわけじゃない。
笑顔を浮かべたいから、笑顔を見たいから。
自分の周りが、自分が、笑顔いっぱいでいられるようにって願うから。
────幸せでありますようにって、願うから。
歩いていける、進んでいける、遠くまで、行けるんだ。
「ひっく⋯⋯だから、ねーさんっ⋯⋯あ、あーちゃーさんと⋯⋯」
「────すとっぷ」
「ひっ⋯⋯ひっく⋯⋯え⋯⋯?」
「さくらは⋯⋯すごいね」
「⋯⋯え?」
あの日、部屋の中でこぼれる涙を拭うことしか出来なかった桜の小さな手は、お掃除したり、お料理をしたり、みんなで暮らす幸せな日々の中で。
誰かを救えるようになった。
誰よりも一人が怖いって知っているから、誰かと手を繋げることの尊さを良く知っているから。
だから大事な人に、一緒にいてと⋯⋯願い続ける。
それはとても、強い事だ。
誰かを信じて寄りかかる事は、一途に思うからこそできる事。
桜の両手は、大事な人を放さないんだ。
だったら。
前にしか進めない私には何が出来る?
止まったら何処へもいけない、前にしか続かない私には何が出来る?
────この二つの手には、何が出来る?
ああ。
決まっているじゃないか。
攻める事、逃げ出さない事、進む事だけだ。
────この二つの手には、どんな悲しい思いも振り払う────力を。
障害があるなら、ぶっ飛ばすしかないじゃないか。
「────そっか。
⋯⋯よっし!」
ぱぁんっ!
両手で頬を張り、馬鹿な躊躇を吹き飛ばす。
私らしくない? 当たり前だ、いつだって学ぶ事で前へ前へ歩いてきた。
前へ進む事だけが私の戦い方だった。
ならば答えなんて未来にしかないじゃないか。
思い悩む事なんて未来にしかないじゃないか。
ハッピーエンドは、未来にしかないじゃないか!
だったら問題を中央突破。
悩みも後悔も知った事か、そのまま突き進めばいい!
「ね、ねーさん?」
突然の私の奇行にびっくりした桜は涙を止めている。
「なやむことなんて、なかったわ。
わたしのゆめはかわらない、そのためにすすむだけなんだから。
ゆめもきぼうもみらいも────だいすきなひとも。
ぜんぶとりもどして、ハッピーエンド。
それが、とおさかりんよ⋯⋯さくら!」
「あ────」
涙で曇っていた桜の瞳は、満面の笑顔に変わる。
「はいっ!!」
やる事はひとつ。
アーチャーと、仲直り⋯⋯する!
遠坂凛の聖杯戦争は、そこから始まるんだから!
────Interlude out
家政夫と一緒編第二部その30。Interlude3-5。
迷いも答えも常に自分の中にある。
自身を振り返れば、そこには必ずあるはずなのだ。
好きだと思える、自分の姿が。
あとは気付くか気付かないか。
誰よりも強く未来を願う姉妹は、過去に絶望する騎士を救えるか?
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