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育児戦争/家政夫と一緒。~2の10~

Interlude1-2:追いかけても


「いちばんはじめはいちのみや~」
「にーはにっこう、とうしょーぐー」
「さーんは、さくらのっ、よしのやま~」
「しーは、しなのの、ぜん、こうじー」
「いっ、つつはっ、いっず、もっの、あおや、あー!」
 私はいつつめで投げたお手玉をベッドに落としてしまう。
「⋯⋯あれー、おっかしいなぁ。
なぜにここでしっぱいするー?」
「なれですよ、なれ。うふふ」
「むー⋯⋯」


 夜。
 お昼に寝すぎてしまったため目がさえて眠れない私と桜はベッドの上でお手玉をして遊んでいた。
 数え歌にあわせてお手玉を追加して、先に失敗したほうが負けというルールで遊んでいたのだけど、これ、10個とか無理だし。
 なのでそれ以前に勝負がついちゃうんだけど、桜ときたらめっぽう強くていつも4か5あたりで負けちゃうの。

「さくらったらいつもはどんくさいのに、こういうのはめっぽうつよいのよねー」
「ぷー。
 どんくさいはよけいですよっ!
 くりかえしがんばれば、ねーさんだってうまくなれるんですよ?」
「むむ。そういうどりょくはたしかにひつようね」
「そうですよー。わたしだってがんばってるんですよ。えへへ」
「そうかそうか⋯⋯。
 ────すきありっ!そりゃー!」
「きゃわぁぁぁー!
 なにするんですかねーさん~!」

 これ以上桜を天狗にさせてなるものかっ!
 ベッドのスプリングを軋ませてジャンプした私は桜を押し倒す。
 この世は弱肉強食。技能よりも純然たる力なの! 身をもってそれを教えてくれるわー!

「ふははー! さくらのくせになまいきだぞー! うりうりー」
「やー!ぱじゃましわしわになっちゃいますからー!
せくはらですよぉー!」

 どたばたどたばた⋯⋯。

 そんなふうに騒いでいたら────


「たわけ」

 ごちん。

「「いたーーーーい!」」

 突如として現れたアーチャーにげんこで頭を殴られた。


「全く、何時だと思っている。
 もう夜の10時を回っているぞ。早く寝たまえ」
「れ、れでぃーのへやにはいるときはのっくくらいしなさいよー」
 私はげんこを食らった頭を撫でさすりながら恨めしげな目でアーチャーを睨む。
「レディーは夜中にぎゃあぎゃあ騒がんと思うがね。
 ご近所迷惑を考えたまえ」
「こんなやまのなかでごきんじょもなにもないとおもうけど⋯⋯」


「たわけ。要は節度の問題だ節度の。
 ⋯⋯山の中に住んでいても。
 君たちは一人で生きているわけではあるまい?」

 厳しいけれど、優しい叱り方。
「う⋯⋯うん」「⋯⋯はい」
「ならば何処に居ようと何をしていようと、誇れる自分で居るよう努力したまえ。
 『まあ、あのお嬢さん何処のご令嬢かしら?』と噂される、気品あるレディーになりたいのなら、な」

 ちょっと気持ち悪いアーチャーの女の人の物まねを見て、思わず吹き出してしまう私と桜。
「うん、きひんあるれでぃーになる!」「がんばりますっ!」
「よろしい」
 アーチャーはその答えに満足げに頷くと、私たちを軽々と持ち上げベッドに寝かせ、お布団をかぶせてくれた。
「それではお休み、マスター殿」
 電気を消すとアーチャーは私たちの頭をひと撫で。立ち上がる。


 立ち上がって、しまう。


「あ⋯⋯あーちゃー!」

 なんとなく、立ち去ろうとするアーチャーの姿に昼間のさびしい気持ちが湧き上がってきて⋯⋯思わず、呼び止めてしまった。

「⋯⋯? なんだね?」
 不思議そうな顔をして振り返るアーチャー。
 う。そんな、私だってなにかあって呼び止めたわけじゃなくて、その、なんというか、むー。
 困ってしまった私を見て桜はくすくす微笑むと布団から顔を出してアーチャーに手招きをする。
「どうした?」
「あ、あの、あの。わたしたちさっきまでさわいでましたから⋯⋯ねむれなくって。
だからその⋯⋯おうた⋯⋯うたってくれませんか?」
「む」
 近づいてきたからには逃がさないつもりでじっと見つめる私と桜。
 恥ずかしいのだか照れてるのだか、はたまた嫌なのか良くわからない表情でいろいろ考えてるアーチャー。
 やがて溜息ひとつ。
 どうやら歌わなければ離してくれないと理解したのか、勉強机からベッド横に椅子を持ってくるとそれに腰を下ろした。

「⋯⋯全く。聞いたらちゃんと寝るんだぞ、一度しかやらんからな」
「それってこもりうたとしてなにかまちがってるきもしますけど⋯⋯」
「いいからきかせてー。ほらほらがんばれー」
「⋯⋯やれやれ。我侭な主人だこと。
 ⋯⋯では」

 アーチャーは一息つくと、ゆっくりと歌を唄い始めた。


~♪

「⋯⋯なんか、やさしいうただね⋯⋯」
「はい⋯⋯」

~♪

 ちょっと照れながら歌うその唄はとっても優しい音色で⋯⋯。
 なんだか、アーチャーの声じゃないみたいで⋯⋯。

~♪

「⋯⋯ねー⋯⋯それ⋯⋯なんてうた⋯⋯?」
「ふわー⋯⋯」

~♪

 最後のフレーズが聞こえてくる頃には、私たちはまぶたを閉じかけていた。
 まどろんでいく意識の中で、最後に見えたアーチャーの顔はとっても優しげで。
 誰よりも、こんな幸せが尊いんだって、知ってる人の微笑みで⋯⋯。
 いつもと変わらない、笑顔だったと思う。


 でも、なんでかな⋯⋯?
 その日見た夢は。
 追いかけても、立ち止まってるアーチャーの背中に追いつけない。
 近づくと離れて行っちゃう⋯⋯そんな夢だった気がする。



家政夫と一緒編第二部その10。INTERLUDE1-2。
だからつないだ手を離したくなくて、
必死になって近くにいてほしいと願うけれど。

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