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現地観戦記 ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンvsトッテナム・ホットスパー(三笘選手出場)

スタジアム観戦について書いてみよう

今ワケあってヨーロッパに来ている。当然暇を見つけてはフットボールばかり見ている。日本と違い、時差がないのでリアルタイムで観られることも多く、部屋やパブで観ることもあれば、スタジアムにも足を運んでいる。ということでせっかくなので思うがままにツイートばかりするのではなく、たまにはスタジアム観戦の体験について文字に起こしてみようと思う。決して“観戦記”というほどのものではないが…
ちなみにこのエントリーの写真は試合以外はスマホで、試合中のものは手持ちの一眼ですべて撮っている。(300mmのキャノン砲みたいな望遠レンズを使用してる)

目的地を目指す

今回目指すのはロンドン中心部から電車で1時間ほどの港町ブライトン。ロンドンから真南にまっすぐ線を引いて海岸に突き当たるのがこの地である。(地図とかは貼らないので気になる方はググってほしい。)この週末は厄介なことに鉄道ストライキ中だったのだが(イギリスではしょっちゅう行われている)幸いブライトン行きの列車は通常運行していた。ちなみに往復チケットで日本円換算で4,700円くらい。

問題なのはブライトン駅に着いてからで、ここでもスタジアムの入り口に隣接している駅への電車がストライキで走っていない。(本来電車なら十数分でスタジアムの最寄り駅で着くそうだ。)バスも選べたが、この日のブライトンはめちゃくちゃ天気が良く、元々歩くのが好きなので、徒歩で70分ほどの道のりを歩いていくことにした。尚、こういった場合に通常おすすめなのがUberを使用することなので、女性や子供、ご年配の方や荷物が多い方はぜひそういったサービスの利用も検討されたい。

スタジアムに向かってトコトコ歩いていくと、到着まであと10分くらいという地点から急に現地サポーターの20~40代の男性がワラワラとどこからともなく出現し始める。あと5分で着くという近さになると半分以上はブライトンユニを来た地元サポでごった返しながら目的地へと向かう。

この日は天気が良くて歩くのに何の不便もなし

スタジアム到着

そして急激に道が開けると現れたのがブライトンのホームスタジアム、ファルマー・スタジアム(通称AMEXスタジアム)である。

AMEXスタジアムことファルマー・スタジアム(カモメもいますね)

この時点で試合開始の40分前ぐらいだったので周辺確認も早々にスタジアム内へと進んでいく。右回りで西側の入り口から手荷物検査を受けて中に入ったが、このスタジアムは本当にざっくりとしたインスペクションで形式的なものだった。先日のネーションズリーグのウェンブリーでの厳重チェックぶりが執拗だっただけに拍子抜けではある。

カモメがモチーフのブライトン・アンド・ホーブ・アルビオンのクラブロゴ
スパーズのバスも発見

AMEXスタジアム初体験

トイレを済ませてスタンドに足を踏み入れた瞬間、「あっ、こりゃ良いスタジアムですわ」と一瞬で理解した。大きすぎないキャパシティ、どの席から観てもピッチ全体が観えるであろうスタンドの造り、キックオフを待つ地元サポーターたちの作り出すアットホームな雰囲気、子供たちの多さに象徴される安全性の高さ、適切に配置されたスタッフの人数と彼らのフレンドリーさ、ピッチ上空を飛び交うカモメ、丁寧に整備されているのであろう芝の輝き、アウェーサポーターが陣取るゴール裏スタンド。ものの数分で“素晴らしいスタジアムここにあり”、という感想を持つに至った。

スタンド入り口からの眺め

自分の席は運良くメイン側の一列目(!!)だったので、初めて来たスタジアムの臨場感を存分に味わうことができた。目の前のセキュリティーの方がダンディなイケメンで、ピッチの写真を撮っていたらマスコットが寄ってきて変な写真が撮れた。

左:ブライトンのマスコット、Gully the Seagullくん 右:ずっと目の前にいたセキュリティスタッフのイケメン

キックオフへ

さて試合である。ここからはフットボールの中身の話になるが、整列の後、キックオフの前に行われたのは黙祷である。

この試合、ブライトンの相手はトッテナム・ホットスパー(スパーズ)であったが、スパーズのトップチームのフィットネスコーチであったジャン・ピエロ・ヴェントローネ氏が木曜に急逝していた。白血病が原因だと伝えられているが、61歳とまだ若く、指揮官のアントニオ・コンテと強い絆で結ばれ、スパーズの選手たちから絶大な信頼を得ていた現役トップチームのスタッフの突然の訃報にクラブは大きなショックに包まれていた。

そういった事情を考慮してか、アウェーの地では異例の黙祷が行われることになり、この1分間はスタジアム全体で敵味方などなく、氏へのリスペクトを捧げることに一致団結していた。ちなみにスパーズ指揮官のコンテ同様、チェルシーのポッター引き抜きを受けて就任したブライトンの新監督のロベルト・デ・ゼルビもヴェントローネ氏と同じくイタリア出身である。

試合前のコンテのコメント:
「(クラブに来てから)わずか10ヶ月の間にジャン・ピエロはみんなの心を掴んだんだ。一人ひとりの選手の心の中には彼がいて、クラブの誰もがうちひしがれている。
人生は時に辛く、それと同時にそのような状況でも考えられる最良の方法で乗り越えないといけない。私はジャン・ピエロがいつまでも我々と共にいてくれると信じているよ。」

The Guardianの記事より日本語翻訳
スパーズのフィットネスコーチだったジャン・ピエロ・ヴェントローネ氏。スパーズ復活の影の立役者とも言われるコンテの名参謀だった
アウェーチームでは異例の黙祷を実施

そして迎えたキックオフ。メインスタンドの向かって右側に座っていたので前半は目の前に守るスパーズのGKロリスがいて、ブライトンが攻めてくるという見え方だった。

両チームのスタメンについて。まずブライトンの個人的なお目当てはアルゼンチン代表のマカリスター。今季に入ってから完全にそのプレーに魅了されてしまった。そして勿論今売り出し中のトロサールも注目していた。またビジャレアルでのプレーが印象的だったエストゥピニャン(アナウンサー泣かせの名前である)も生で観れて嬉しかった。
三笘薫はベンチスタートだったがこれは当然織り込み済みで、むしろ前節のリヴァプール戦での活躍を受けて何分にピッチに出てくるかが焦点だった。そしてセインツ時代に生で観て完全に恋に落ちたララーナもベンチにいて地味にテンションが上がっていた。

対するスパーズは今となってはもうある意味タレント軍団なので、どの選手に目を向けても各国の中心選手がズラリである。ただその中でも中盤の屋台骨、ホイビュルクベンタンクールの2人に、昨季のプレミア得点王のソン・フンミンにはさすがに注目せざるを得なかった。

目下絶好調のトロサール
FKを蹴るソン(これは後半)

詳しい試合内容はいくらでも専門媒体のWEB記事があるのでそちらに譲るが、前半はホームであまりボールを保持できないブライトンに対してスパーズがこの日はツートップとなったケインとソンを中心に攻め込むという構図であった。そしてこの試合の先制点もこの2人から生まれた。22分にスパーズはCKのこぼれ球をブライトンのゴール前で回収するとキッカーのソンに再びこれを渡し、ソンは個人技からシュートともクロスともとれる早いボールをゴール前へ。これに待ち構えていたケインが咄嗟に反応し、頭でボールの軌道を変えてゴールネットを揺らし、スパーズが先制に成功する。プレミア初挑戦ながら爆発中のホーランの陰に隠れてしまっている印象もあるが、ケインはこれで今季プレミア9試合8ゴールと乗りに乗っている。カタールW杯を控えるイングランドとしてもキャプテンでエースで大黒柱のケインの絶好調ぶりは全く心強い存在である。

反対側のゴール裏付近で先制点を喜ぶスパーズイレブン

先制されたブライトンも断続的にチャンスシーンやゴールを脅かすシーンを作り出すが、ウェルベックやダンク、カイセドのシュートはわずかにゴール枠を外れるか、ロリスが安定のセービングで防ぐという攻防の様相を呈していた。

一眼のこの背景のボケが好きすぎて無意味にコーナーフラッグの写真を撮るの巻
ハーフタイム以降は日が落ちてきたのでライトが点灯

後半に入るとしばらくは試合が落ち着いてきて、前半に先制された後に攻め込んでいたブライトンも決定機を作れずにいる一方、スパーズもソンとケインが孤立して追加点への道を探すのに窮しているように見えた。

近くに来たスパーズの大エース、ケイン

スタジアム観戦@イングランドの醍醐味

それにしても凄いのはスパーズのサポーターの声援、存在感である。32,000弱とされるAMEXスタジアムのキャパシティにおいて、この日その10分の1の3,000人もいないように見えたアウェーサポーターたちであったが、各人の声量は凄まじく、自分の席がアウェースタンドが近いこともあって90分チャントを歌い続け、自クラブのチャンスやピンチは勿論、細かなシーンなどでも声援を上げ、スパーズイレブンを文字通り後方支援していた。これはイングランドのどのスタジアムでも見られる日常の風景ではあるが、あの迫力っぷりはやはり現地観戦しないとスクリーン越しには絶対に伝わらないな、と今回改めて感じた。

セキュリティも目を光らすアウェースタンド。コロナを忘れさせるほどの人の密集っぷりと声出しは目を見張るものがあった

三笘登場!

そして67分、ようやく三笘が投入された。ビハインドだったので30分くらいはプレーするかな?と思っていたが、20分弱のプレータイムとなった。

準備してから実際にピッチに入るまで結構かかっていた

フルマッチを観た人は同じ感想を持っただろうが三笘投入の効果はテキメンで、左サイドから時には単独の突破で、時には味方との崩しで、スパーズの喉元に同点ゴールの脅威を明らかに突き付けていた。三笘はスタジアムの雰囲気と試合の流れを変えられる才能を有した選手だな、と肌で感じることができた。

短い時間でスタジアムの空気を変え、存在感を示した三笘

しかし、それでもブライトンに同点ゴールは生まれず。一方でスパーズにも追加点は生まれず。試合は0-1でタイムアップ。勝利したスパーズは3位に浮上した一方で、敗れたブライトンは7位に後退する結果となった。スタジアムにいると90分なんてアッと言う間に過ぎてしまうものである。

試合終了のホイッスル後、悔しそうにうつむく三笘
駆けつけたスパーズサポーターを称えた後、引き上げていくコンテ

帰宅までがフットボール観戦です

スタンドを抜けたスタジアムの通路内では多くのサポーターたちが試合について「Frustrating!(=ストレスが溜まるわあ)」と口々に評していたが、たしかにスタッツで見てもスパーズのシュート8本(内、オンターゲット3本)に対して、ブライトンはシュート14本(内、オンターゲット4本)と上回っており、ブライトンのシュート精度自体の低さ、および決定力の低さがサポーターの不満に繋がったのも当然、という結果であった。

試合が終わった後もビール片手に感想戦をする現地サポ。ここでは誰もが評論家でもある。

17:30のキックオフ時にはまだ全然明るかったが、スタジアムを出たら真っ暗になっていた。帰り道も当然電車は動いていないので、そこからはまた1時間ちょっとかけて他のサポーターたちと来た道を戻る形で市内中心部を目指す。もう道に迷うことも心配することもないため、帰り道はたった今観終わった試合を頭の中で振り返るのに最適でもある。非常に楽しい時間だ。

ちなみにこの試合のチケット価格は日本円で8,800円ほど。メンバーショップは購入済みで、その上でメインスタンドの最前列でビッグ6のスパーズ相手にこの価格感、というのが参考になれば幸いである。(早くポンド安になってほしい。。)

スタジアムを出たら完全に夜だった

終わりに

振り返って、試合自体はこの日に行われた他会場のプレミアのゲームと比べても一番ロースコアだったが、鉄道がストライキ中だったり、初めて訪れるスタジアムだったり、アジア人プレーヤーが2人いたり、天気が超絶よかったりと色々な要素が交じり合い、とても楽しい試合観戦となった。

そしてスパーズにとってはこの週に逝去されたジャン・ピエロ・ヴェントローネ氏に捧げる勝利となった。試合後にロリスがアウェースタンドにヴェントローネ氏のユニフォームをかかげる姿もニュースで盛んに報じられていたが、氏とコーチングキャリアを通じて一緒に働いてきたコンテ監督は試合翌日の日曜、彼の葬儀に参列するために母国のイタリア・ナポリに急ぎ向かったとのことだ。こういった話を耳にするにつけ、この試合はスパーズが勝利して良かったのではないかな、とふと思ってしまった。

試合のハイライトが観たい方は上記のYouTube上のブライトン公式のものをどうぞ。ホームで敗れたブライトンですが、相手チームへのリスペクトに溢れた素晴らしい編集だと思います。これぞフットボール。

おしまい。

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