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ネットメディアで3000本記事を書いて得た「一分の魂」

 お仕事や日々の雑事に追われていると、誰しもそれに流されて己についてさえ振り返る機会を逸するものだと思うけれど、ここのところに自分もまさにそんな感じだった。梅雨に入って体調が気圧に左右されることも多かったし、去年もこの時期に大きく調子を崩した。だから、ちょっと立ち止まってみて、これまでのことを振り返る夜があっても悪くはないだろう。

 そんなこんなで、私がニュースサイト『ガジェット通信』の記名記事が3000本を突破したことについて、つらつらと記してみようと思う。

 と、言っても、それほど感慨があるわけではない。プロ野球選手の3000本安打とか、騎手の3000勝達成といったものと比較するまでもなくささやかなものだろう。彼らは「この数字も通過点」的な発言をするのと似て、これで売文業を辞めるわけでもない。とはいえ、誰もが3000本書けるかといえば、そんなこともないだろう。会社を3年以内で辞める典型的なロスジェネ世代としては、それだけ長く同じ媒体で長く書くことができているということに、まずは感謝しなければいけない。

 私の場合、『ガジェ通』との接点はブログの「寄稿」からだった。その後に『Aニュース』(現『連載.jp』)でウェブライターになり、いつの間にか編集部に出入りするようになっていた。ちょうど姉妹サイト『オタ女』の立ち上げとも重なり、サブカル分野を多少かじっていたのも今からしてみればプラスに働いたように思う。まぁ、こういった形でネットメディアに入る例は未だに少ないように感じるから、特殊なケースなのだろう。

 

 しかし。ここまでネットでライターとしてやってきて、もちろん楽しかったことも多いのだけど、「苦しかった」という気持ちが先に立つ。どうしても新聞・テレビ・雑誌というメディアに比べて歴史が浅いし、取材のアポを取ることも大変だったし、自分が入った頃のネットメディアはそれこそ戦後期のカストリ雑誌のような扱いをされることも多々あった。実際に「信用」に値するメディアとして見られるためにどんなに努力しても、一個人ではどうしようもない壁というものは今でも感じることがある。それに苛立っていた時期もあった。

 たまたま今日、西日本新聞が『第一線の記者の役割は現場を踏み、人に会い、事実を聞き出してくることだ…』という記事を出していたけれど、ネットメディアでも基本はそれと変わらない。ただ、それにプラスして「ネットの空気感」を掴み続けるという作業を並行してやらないといけない。特にSNSでの反応が数字として表示されるから、書く側も影響されないといえば嘘になる。そして、渾身の記事ほど読まれずに「あ~自分の感覚ズレていたわ」と落ち込むことも数えきれないほど経験してきた。

 今、誹謗中傷やメディアのあり方が俎上に載せられているが、とりわけネットで仕事をしているライターは、画面越しに不特定多数の喜怒哀楽を真っ向から受け止める必要がある。誰もが喜ぶ記事などないし、誰かしらを不快にさせる内容のものも出さなければならない時は多々ある。それが「怒」を増幅させるということも分かっていたとしても、「公益性」が認められるならば出さなければいけない、というのが私のスタンスだった。

 とはいえ、その多数の感情を受け止めきれずにファンブルすることもあるし、一度に投げかけられて対処不能になったりもする。私も365日24時間ずっとそういう世界にいて、不眠に悩まされ、自律神経を壊し、去年ついに「再帰性うつ病」と診断されるまでになった。

 それでも戻ってこれたのは、何より「書いて、伝える」という作業が好きだということだった。直接会うにしても、さまざまなツールを使うにしても、取材対象とコミュニケーションを取ったり、さまざまなスポットに足を踏み入れたり、自分の知らない話が聞けるというのは、この仕事をやっている者の特権だ。それを簡単に手放すことが、私にはできなかった。

 多くのメディアやライターには、それなりの専門性だったり得意分野だったりあるものだが、『ガジェ通』は「ネットで起こっていること」に軸足を置いているメディアなので、必然的にジャンルも多岐に渡る。そこでやっている以上、門外漢と知りつつもつまみ食いをしに行く時もかなりあるのだけど、自分に好奇心さえあれば、案外なんとかなる、というのが偽りない実感だ。専門のメディアやライターが常に100点を出しているとして、96点ぐらいのコンテンツを発信できていると思うし、しがらみがないからこそ時には150点を叩きだせたといううぬぼれもあったりする。

 そんなわけで。これからもできるだけ長くこの仕事を続けていくというのが、ささやかな目標なのだけど、失ってはいけないのは「勇気」なのだと思う。「ネットメディアだから」と卑屈にならず、「知らないから」と二の足を踏まず、理由を見つけて飛び込む勇気。それがあれば伍していけるし、3000本書いて自分が得た「一分の魂」なのだろうと思う。


 なんだかまとまりがなくなったのでこの辺で。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。

 https://getnews.jp/author/ryofujii

 

 

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