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僕が知っているアダルト業界の2、3のこと

 僕がブログをはじめたのは2004年の秋。その年に大手アダルト企業の出版部門に入った。そこでの業務は多岐に渡った。営業もやったし、広報もやったし、編集もやったし、イベントの企画進行から当日のMCまでやった。今では普通になった雑誌の電子書籍化にも関わった。在籍していたのは3年間に過ぎないけれど、大げさに言えば10年分に匹敵する経験を積めたと思っているので、つらいことも沢山あったけれど、今では感謝の気持ちしかない。

 こんなことを書くのは、CROSSNEXTさんが文学フリマで出した『CRISIS2020~危機と希望~』を読んだから。

 彼が書くように2016年にAV業界は出演強要問題に揺れた。伊藤和子弁護士とヒューマンライツ・ナウによる問題提起は、いつの間にか「AV出演強要問題」から「AV問題」へとすり替えられ、内閣府男女共同参画会議の『女性に対する暴力に関する専門調査会』で議論されるまでになっている。

 僕がこの業界に入った2004年は、バッキービジュアルプランニングによる強姦致傷事件に揺れていた。一方で単体女優を前面に押し出す『S1(エスワン)』が誕生した年でもある。また、グラビアアイドルの表現がどんどん過激になってきた頃でもある。「着エロ」といわれる裸同然の内容のものも多かった(ツケチクも流行ったなぁ)。そして、「着エロ」作品に出演した子を「アイドル」という肩書きをつけてAVデビューさせるという手法が確立されていった。この頃には月に発売されるタイトルは総集編なども含めれば1500本前後になっていた。

 話は前後するが、僕がアダルト出版社を辞めた2007年は日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)の警視庁の強制捜査があった年でもある。僕のいたメーカーはビデ倫審査作品も扱っていたので、日本橋にあったビデ倫の本部によく出向いて、審査員のチェックに同席する機会もあったが、彼らは出向元の人事などのよもやま話に花を咲かせていることが多かったように記憶している。まぁ、さすがにモザイクが甘いとツッコまれたりされたけれど。

 とはいえ、この頃には「インディーズ」と呼ばれるビデ倫やコンピュータソフトウェア倫理機構(ソフ倫)などを通さないメーカーの方が多くなっていた。だからビデ倫のモザイク問題は「より薄く」という時代の趨勢に従ったものだったのだが、そこに警察のメスが入ったことで、倫理団体の統合の機運が高まり、現在の日本コンテンツ審査センター(映倫)へと繋がることになる。このように、アダルト業界は「外圧」をきっかけによりセーフティー(に見える)な環境へと変化し続けてきた、と言えるわけだ。

 ここで話は女優出演強要問題に戻る。僕がこの問題を意識したのは、『S1』などで活躍した穂花さんが自伝で所属事務所の社長にだまし討ちのような形でアダルトに出演したということを知ってからだ。彼女とはイベントでお仕事をしたことがあるし、そういった「犠牲」のもとに僕は食べていけたのだな、と感じざるを得なかった。

 振り返れば、前述したような「アイドル」としてデビューして、その後AVに転身した女優の現場に立ち会ったことがあるが、彼女は終始テンションが低かったのを覚えている。

 一方で、蒼井そらさんや麻美ゆまさんのようにポジティブかつプロフェッショナルにAVの仕事をする人を間近に見ているし、彼女たちに憧れてこの業界に入る女の子もたくさんいる。だから、すべての女優が活動を「強要」されているわけでもないし、AV業界自体が「悪」だという主張には首肯しがたい。

 もうひとつ。CROSSNEXTさんは書いてなかったけれど、AVファンの高齢化問題というものがある。パッケージや課金をするユーザーやコンビニでのアダルト誌の読者層は僕が業界にいた頃ですら平均は45歳だった。現在では多くのサイトでダイジェストが無料公開されているし、ひと昔に比べて「稼げる」業界ではなくなっているのは事実としてある。というか、DVDパッケージが全盛だった頃でさえ、数万本売れるのは全体の3%もなく、完全にロングテールの曲線を描いていた。ダウンロードが主流になって以降の数字は見ていないので何ともいえないが、月額課金で数千円という値段を20代~30代で払える人が相対的に減っている現状では、AVというジャンル自体の高齢化は今後も課題として残されるのではないか。

 そんなこんなで。僕がアダルト出版社を辞めてから来年で10年になるし、知識もだいぶ古びているとはいえ、この業界のトレンドに大きな変化はないように感じる。そんな中で起きた出演強要問題だが、川奈まり子さんのAVANのような動きもあるし、エロは簡単に廃れないとも思えない。外部環境に晒されつつ、世間の目に敏感に反応し変化し続けるはずだ。これまでと同じように。


 


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