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三枝ふたり、アル中ワルキューレに呼び出され、お酒との健康的な付き合い方を模索する 後編

ワルキューレ教官のワンルームマンションの中は、吐瀉物が飛び散り、臭かった。
「わあ♪資産に余裕がある人が住んでて、エントランスが綺麗なマンションの一室でも、臭いもんは臭いんですね♪♪」
「多分、アパホテルでも臭いと思う」
「は?」
 アパホテルガチ勢の私の眼力は教官に柔らかく流され、舌打ちを音を立ててやりたくなるのを、我慢した。
「でもさ」教官の耳がピンと張り、スポーツジャージ姿で首を掻きながら、窓から広がる煌びやかな下界に流し目で、唇が動く。
「このゲ〇も・・・・いつも手合わせしてる私の腸内細菌やら大地のエネルギーが入っていてそう思うとちょっと愛おしく・・・・あああ、そんな目で見ないでおねがい」
「・・・・・・・・・まあ、介護現場で働く苦労の疑似体験と思えば、やってられます」
あと革鞄の無事はさっき確かめた。この、教官しているとき以外は社会不適合者な二律背反北欧先輩に、ぜってー請求してやるよ。ワードで請求書はそれらしく整えたからなあ?
「おっその眼・・・手合わせ、希望?」
「そこそこ真面目自負が強めの私が・・・こんなにすさまじく合わせたくない気分も、希少かと」
「おお、確かに!珍しさ記念で一杯・・・どう?」
「未成年だし、たまには真剣に反省してください・・・・・じゃあ、とりあえず窓開けますね」夜だから寒い。女子高生なので、冷気のほうが臭気よりもちろん大好きだ。ストロベリー。
「ええ、寒いよー」
「・・・あらゆる状況での飛行戦闘を想定するのが戦乙女の心得と教えたの、あれ、嘘だったんですか?」
あのときの教官の動きは、正直今でもばっちりアーカイブ連続再生して、首を捻っていて、それは伝えないでおく。
教官のワーグナーな突入で儀礼的に使われる頻度が高い、翼が収納された、肩甲骨に指先を向け、私はズバリ言うわよしたが、肩をすくめられる。
「今度の飛行テストは、8月だからいいの」
 そこで、切れた。忍耐強く寛容で敬意を持って接し、ホスピタリティー精神とアンガーマネジメントで包んでいたローブに、言葉のナイフで切れ目が入った。
「教官」
「ん?」
 なあにと長い白髪を古代から継承されたリボンで束ね、佇む彼女が言う。
掃除は酸性とアルカリ性の働き方の違いを活かせばいいそうですよ。例えば、お茶とレモン酢を掛け合わせて使うとか。組み合わせは無限ですが、その基本で掃除用具を分類しながら行えば、臭いを除去し、元通りに見えるところまでは持っていけます。あとは手を動かすだけ」
「おお!!じゃあ三枝、教官と仲良く一緒に」
てめえでやれ。代わりに
「・・・時給一万円追加で」
仕事という意識で向き合うことが可能で、条件が良ければ、ゲロ掃除もやぶさかではない女。十五歳の三枝ふたりは今日も戦い、東京から見える月に雲がかかり、「魔王」の兆候は未だ観測されず。

教官(それは・・・この2月だと、安心材料にはならないのがつらみ・・・・・残業を自棄酒で癒すの、こんど二日、我慢してみよー)

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