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<知識論>大事なものは、 すべて身の内にある その1

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

1.社会の基軸価値が知識になった。 

かつて、農業社会がいちばん勢いがあった頃は、その社会の基軸価値は農作物でした。生きていくための、さまざまな必需品を手に入れるための手段として米や麦をはじめとする農作物は、農業社会における基軸価値でした。その社会での権力者は、農作物を大量に所有していた貴族や大地主だったのです。そして時代は小品種大量生産システムが全盛の初期工業社会に変わり、基軸価値も農作物から商品や貨幣に変わっていきました。当然、その社会における権力者は、商品や貨幣を大量に所有している資本家であり、その流通を管理している高級官僚でした。そしてさらに時代は変わり、多品種小量生産システムが全盛の後期工業社会の終わりを迎えつつあるのです。基軸価値の中心は、あいかわらず貨幣であることに変わりはありませんが、貨幣ではない証券や債権や土地などの、いわゆるシンボリック貨幣にシフトしつつあります。権力者も資本家から証券や債権や土地を流通させることに長けている、知識や情報を操る個人に変わりつつあります。

農業社会、初期工業社会、といつの時代もそうでしたが、時代が大きく変わろうとするときには、必ずその時代の基軸価値が変わります。農作物に変わって貨幣が社会の基軸価値になろうとしたときには、貴族や地主が没落して資本家が台頭してきました。後期工業社会は、いま、確実に終焉を迎えようとしています。資本家が、政治家が、高級官僚が、権力を失おうとしています。後期工業社会の基軸価値であった貨幣や証券や債権も、その力を急速に失いつつあります。

変わって、次の時代の権力者や基軸価値が台頭してきています。<個人>という権力者です。そして<知識>という基軸価値です。21世紀社会は、知識社会なのです。知識が社会の基軸価値として確立されようとしているのです。パローレでの前のシリーズ、“お金と時間の問題をもういちど考えてみよう”では、知識は「知恵を体系化したもの」と定義しました。知識は、決して印刷物に書かれた文字だけのことではありません。人間が生きていくなかで、覚え、学び、体験し、経験し、頭の中に蓄積されていった事実の集合体なのです。暗黙知でもあり、形式知でもあるのです。そして知識社会におけるビジネスは、個人と個人が必要に応じて必要な人数だけのチームを組み、それぞれの個人が持っている固有の知識を共有化して『顧客の満足』を組織全体で取り囲んでいくビジネスへの転換が不可欠になります。ヒューマン・ネットワーキング・ビジネスとも言います。上司の権限は、地位に基づく問答無用の権限でなく、知識に基づく問いかけや納得の権限に変わらなければなりません。知識社会での主役は、その仕事をやっていくうえにおいて不可欠な知識を備えている人たちなのです。そして、その知識は貨幣のように少しずつ分け与えるものではなく、その知識を必要とする、すべての人たちが利用できるものなのです。

知識は、貨幣のように限りあるものを所有し合うのではありません。他人に与えたからといって、減るものでもありません。あたかもコピーでもするように、必要とする人には、必要なだけ与え続けることができる無限の資源なのです。電子メールとファイル転送の日常化が、対等な関係・対等な立場という関係を仮想的に構築してくれました。プロジェクトチームにおけるコミュニケーションが大きく変わりつつあります。人事や組織の問題も大きく変わりつつあります。プロジェクトの役割に応じて立場の上下関係はあっても、それは役割に応じて用意された役職のうえでの上下関係であり、立場や関係はあくまで対等なのです。知識社会においては、初期工業社会・後期工業社会のピラミッド型の「タテ」社会組織は機能しないのです。「集中と規制と権力」を三種の神器として君臨させていく時代ではなくなっているのです。人間同士が水平関係にある、ネットワーク型の「ヨコ」社会組織が機能するのです。「分散と自由と自発性」が三種の神器として鎮座しているのです。

そのような流れの中で、上司の指示は一方的な命令や統制ではなく、対話を基本としたうえで、問題となるテーマをはっきりさせることであり、そのテーマを実現するための手段を講じ、支援をすることです。その意味において、<マネージメント>とは管理することではなく、支援することであり、活性化させることなのです。また、<中間管理職>とは、手にした権限を発揮する職務ではなく、手にした権限を移譲する職務であるという意識が不可欠になってきました。時代は、もうすでに大きく変わったのです。20年前に舵は切られたのでした。その舵が、今、やっと利きはじめています。行き足が止まったのです。前方に見える社会の景色は、もう過去に見慣れた風景ではないのです。基軸価値も変わったのです。一介のサラリーマンが資金運用の知識を駆使して、年収100億円を手にする時代なのです。はたまた一介のユーチューバーが、月収数千万円を手にする時代なのです。(つづく)

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等


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