鮎と豆腐
街にいても美味しい鮎が廉価に手に入るようになったのは、養殖と流通技術の発達で得られた素晴らしい恩恵だと思う。かつてはその希少さゆえ、食べる機会にはどうしても塩焼の一択を半ば強いられていた気がするけど今は違う。鮎という特別な魚の魅力を、あらゆる料理をもって堪能できるのは現代人の特権であるから大いに行使したい。
そんなわけで、僕は夏になると、はらわたを除いた鮎を素焼きにして風干しに乾燥させたものをたくさん作っておいて、いつでも取り出して使えるようにしている。ほぐしてパスタに炊き込み飯に、煮干しのように出汁をとったり、和洋を問わずいろんな料理に使えるのだけれど、なんとなく豆腐と組みわせることが多いので思いつくものをいくつか書いてみようと思う。
鮎出汁の湯豆腐
先述の鮎の焼き干しで出汁をとり、湯豆腐にする。
もとはとある小説の中で食べられていたものを真似したもので、焼き干しにして保存するという着想はこの料理を発端にしている。
ちなみに夏に湯豆腐というのもどうかと思われるかもしれないが、作中では「梅雨の冷えどき」に食べられていた。風流だけど、梅雨でも秋でもお構いなしに暑っ苦しい今の時代、状況が限定され過ぎていて出番は少ないかもしれない。
うるか味噌を豆腐田楽に仕立てたもの
鮎の焼き干しを作る際に取り出しておいたはらわたは、包丁で叩いて味噌と酒を加えて火にかけながら練っておく。こいつのことを僕は勝手に「うるか味噌」と呼んでいて、いわゆる「うるか」とは別物だから、本場の人たちに言ったら怒られるかもしれない。
それはさておき、とにかくこれが酒の進む一品で、そのままアテにして舐めるように食べてもももちろん良いけれど、炙った豆腐に塗りたくって田楽に仕立ててもたまらなく旨い。
鮎の炒り豆腐
ほぐした鮎の焼き干しと、水切りして崩した豆腐を菜種油などで炒りつけて少量の水と酒と醤油と塩、水分が飛びきる前に生卵を落として均一になるよう箸でかき回す。火を止めたら大葉かネギを刻んだものと、粉山椒をふりかけておく。
特筆すべきは、出汁をとった後の鮎を使ってもこの料理は美味いというところで、焼き干しをそのまま使った場合はしっかりした力強い味に、出汁ガラなら脂が良い具合に抜けて上品な風味にと、それぞれに美味しくて心にくい。愛すべき炒り豆腐である。
鮎と豆腐の甘辛炊き
水で戻した焼き干しを、戻し汁ごと豆腐と一緒に醤油、みりんで甘辛く炊く。炊きたても良いが冷やしておいてもまた良くて、木の芽でも散らせばいかにも夏らしい一皿になる。僕はお酒は常温で飲むことが多いけれど、この時ばかりはよく冷やした純米のお酒と合わせたい。
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