見出し画像

若林の気まぐれコラム#1「阿部薫 – なしくずしの死」


先日、常連のお客様から大切なレコードをお売りいただきました。(Fさん、いつもありがとうございます!)

その中に、ぼくにとって思い入れの深い一枚があった。それが今回紹介する「阿部薫 – なしくずしの死」だ。



睡眠薬の過剰摂取により29歳という若さでこの世を去った無頼のフリー・ジャズ・サックス奏者。そんな阿部薫に心酔していた時があった。その鬼気迫る演奏と激しい生き様に魅了されていたんだ。


ぼくが阿部薫のことを知ったのは、無我夢中で様々な音楽に手を伸ばしていた大学生の頃だった。King CrimsonやCanなどのプログレッシブ・ロックを聴いてフリー・ジャズや前衛音楽にも興味を持ったのがきっかけだ。すぐにCDや関連書籍を買いあさるほど夢中になった。


大学3年のときには、ゼミのレクリエーションで自己紹介を兼ねて趣味や好きなことをプレゼンするということがあり、周りが当たり障りのない発表をしている中で、ぼくは阿部薫のことを熱く語り、みんなを恐怖のズンドコに叩き落としてやったんだ。


また、ある夜、真っ暗な部屋で「彗星パルティータ」を聴いたんだ。そして暗闇の中に、そこにいるはずのない阿部薫の姿を見たんだ。あれは阿部薫と己の対話だった。


あれから10年近く経った今、改めて思うのは、憂鬱で仕方がなかった大学時代、ぼくの気分を晴らしてくれたのは阿部薫が放つむき出しのサックスの咆哮だったんだ。


さて、このアルバムは、彼のよき理解者で音楽評論家の間章プロデュースによるソロ・コンサート「なしくずしの死」と、それに先立って行われたレコーディング・セッションを収録した生前唯一のソロ・リリースであり、日本フリー・ジャズ史に残る名盤だ。メロディーやリズムといった概念はここには無い。刹那的に生きる阿部薫の過激で緻密なサックス演奏の極北、全7曲。手放しで人に薦められる作品ではないけれど、普通の音楽に飽きた人はぜひ聴いてみて欲しい。きっと新たな扉が開かれるはずだ。



■阿部薫 – なしくずしの死 / ALM Records / AL-8, AL-9 / 2LP, Reissue / 日本 / 1983年 / 元々帯なし / ¥17,600

※電話/メール/DM 等でのお取置は、ご遠慮いただいております。



なお、当店には阿部薫にまつわる書籍や、妻であった鈴木いづみの小説も所蔵しており、貸し出しも行なっておりますので、合わせてチェックしてみて下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?