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はじめまして、ボグダン・パルホメンコです。〜「ぼくのおじいちゃんのこと」前編〜

こんにちは。ボグダン・パルホメンコと申します。ウクライナで生まれ、日本で育ちました。現在はキエフ在中です。日本の皆様に分かりやすく、ウクライナの現状や歴史、皆が抱えている不安や懸念、今後の動向を現地からお伝えしていきます。

noteの更新第一回目は、ぼくのYouTubeチャンネル「BOGDAN in Ukraine」の中から、2022年3月11日に公開したおじいちゃんとの対談の前編をお届けします。

ボグダン:
今日はおじいちゃんに話をしてもらいます。ぼくのおじいちゃんのウラジミールです。

今日は3月11日だから、ウクライナのことっていうよりも「家族の絆」っていうことでおじいちゃんと話したいと思います。

おじいちゃんはもともと科学者で、ソ連が崩壊する直前、1990年ごろに、国連のウクライナ代表を務めていました。ウクライナの教育大臣もやりました。専門分野はプラズマに関する研究で、たくさんの大事な発明をして特許も持っています。彼が開発した技術は日本の電機メーカーでもたくさんつかわれていると思います。

そんなおじいちゃんから、まずはみんなにメッセージをもらいます。

ウラジミール:
まず、みなさんに、ありがとうと伝えたい。日出ずる国、日本のみなさんが、ウクライナに注目してくださっていることに感謝します。また、いまウクライナに残っている人たち、戦っている人たち、若い人たちにも、ありがとう。日本はすごく技術の進歩した、私にとって特別な国です。そんな日本に感謝します。

私は今までいろんなところで登壇して話したり、いろんな人と会って話したりしてきたけど、今日は特別緊張しています。

私は88歳ですが、仕事を続けています。
論文を書いたり、科学雑誌の編集者として働いたり、すごくアクティブに活動しています。私の孫たち(ボグダン、ステファン)も私と同様にアクティブでとてもうれしく思っています。

私はもともと大学で教えていたので、話をすることには慣れています。私は知識や情報に注力しているんですが、それを中心で結びつけるのは人間だと思っていて、それこそがいちばん大切なことだと感じています。

そして私は、いま「新しい人間」が誕生するプロセスに入っていると思っています。新しい意識を持った人たち。新しい文化を持った人たち。

こうやってみなさんとコミュニケーションしているのも、そういうプロセスの一環だと思っていて、いますごく光栄だと感じています。

日本というのは、文化と信頼を持った国です。ウクライナも、いまはこういう状況もあって、ある意味で世界に誇れるような国になっていて、それは複雑な気持ちではあるんだけど、でも最終的には、この状況がいい方向へつながっていくことを願っています。

いま、私たちはある種の緊張感に包まれています。それは、ウクライナという国だけではなく、世界が私たちに「変われ!」というシグナルを送っているように感じるからです。
だから私は、自分の行動を、全体の自然のハーモニーと協調、共鳴させながらやっていく必要があると思っています。そういった新しい自然の法則に基づいた人間を形成するためにはいったいどう活動していったらいいのか?
いま、私はそれについて新しい論文を書いています。そういう考えをみんなで共有したいからです。

若い時のおじいちゃん

長くなってすみません、もうすこし続けます。
いままで私たちは金銭的なことや物質的なことを中心に進化してきました。しかしながら、そういった進化はもはや限界です。そうなると、私たちは精神分野での発展を遂げなくてはならない。いまそういうプロセスに入ったと思っています。物質的なことではなくて、人間の存在そのものの見方を変えなくてはならない。

人間だけが特別な存在じゃなく、人間も地球という環境の一部として、よい流れを受け取れるようなシステムに変化していかなくてはならない。
これからの時代、人々に支持されるのは、「ものを持っている人」ではなくて、「なにかを成し遂げられる人」です。これはすごく重要なことで、いま、人々の価値観が大きく変化しているのを私は感じます。
クリエイティブな発想ができる人、将来性を見出せる人、自分のことを信じられる人‥‥。

いままで私たちが発展させてきた物質的なこととは、まったく逆の発想をしていかなくてはならない。そのためには、全体のシステムも、ひとりひとりの行動も変えなければいけない。自分の人生や、自分の判断を変えていく必要がある。すべてを抜本的に変える必要があるんです。そういうことを私は毎日考えています。

ですから、ええと、このまま、ずっと話し続けることもできますが(笑)、でもそれじゃまずいから、ボグダンに質問してもらったほうがいいね(笑)。

ボグダン:
みんなにも質問してもらいたいんだけど、そのまえにぼくからの質問がふたつあります。まず、ひとつ目の質問をするね。

今日は3月11日で、東日本大震災が起こった、日本にとって特別な日です。
地震と津波で15900人が亡くなりました。この日のことをウクライナの人たちはどんなふうにとらえていますか?

おじいちゃんも日本に来たことがあるけど、おじいちゃんにとっての「311」って、どういう日ですか?

ウラジミール:
私はチェルノブイリの原発事故も経験しているし、娘や孫(ボグダン)が阪神淡路大震災を経験したから、3月11日のことは緊張感をもって受け取めている。神戸の震災があったときはすごく心配した。娘や孫のことだけでなく、周辺の人たちのことがすごく心配だった。あのときは、通信が途絶えていて、娘や孫と連絡が取れなかったからね。デマも含めてさまざまな情報が行き交っていたし。

だから、東日本大震災のときも、現地に自分や家族がいたわけではないけれど、阪神淡路大震災のときと同じような気持ちでいたし、もしかしたらそれ以上に緊張したかもしれない。もちろん、日本の人たちの心配や緊張とは比べものにならないと思うけど。

しかし、数日後に、娘や孫が連絡をくれて、当時の日本人の親切な対応を教えてくれたので、私も妻もすごく心があたたかくなって、日本人への感謝の気持ちでいっぱいになりました。

なぜなら、他人が、自分のファミリーみたいに彼らを受け入れてくれたから。家とか食べ物とか、いろんなものを提供してくれましたし。あのとき、そういう日本の状況を見ていたから、いまここでその経験を活かせてるというところもあると思う。

いまのウクライナの状況って、それぞれができることを積極的にやっているという点で日本の大震災のときの状況に似てるんです。ひとりひとりが、その人のできることをやる。

いまのウクライナも同じことです。いくつか、よい例を挙げてみましょう。

いまは行動も物資も制限されていてなかなか思うようにできません。人にしてあげられることも少ないと思う。けれども、思うことには制限がありません。

二日前、ポーランドとの国境近くにあるリヴィウという街に住んでいる知り合いから連絡がありました。その人は私に電話番号を4つも知らせてくれました。そして「いつでも連絡してね」と。
実際にすぐに助けを求めるわけではありませんが、こういうことって、とてもありがたいことです。

たとえば、警報のサイレンがなると、やはり緊張します。いやなことを考えてしまうし、心が揺さぶられます。そういうときにこんなあたたかい申し出があると、すごく助けられます。

いまできること、ということでいえば、こんなことがありました。

3日前は、「国際女性デー(International Women's Day)」でした。私は、例年であれば、奥さんや娘など、女性にお花をプレゼントすることにしています。でもいまはこんな状態ですから、今年は花をプレゼントするのは無理だろうなと思ってました。ところが、孫たち(ボグダン、ステファン)が花を見つけてきて、私の妻や娘にプレゼントしてくれた。

ママと愛犬ヨルカ。弟ステファンの彼女ヴラダにもチューリップを。

このことを私は誇りに感じます。こんなときにも、文化をきちんとつないでくれた。

こんなこともありました。

数日前に、近所の人が絵を持ってきてくれたんです。その絵にサインがしてあって、「大好きなご近所さんへ」と書き添えてあった。私はそれを見て、とてもあたたかい気持ちになりました。

今回の戦争が始まったとき、私は郊外の別荘にいたんですが、キエフに帰ってくる道中にも心温まることがありました。車で移動していると、バリケードや検問所を通らなくてはならないのだけど、そこの軍人さんがとてもやさしかったんです。戦争中であるにもかかわらず、愛情を感じました。

「5分待ってね。もうちょっと。それまで待ってね。そしたら出られるからね。」

そんなふうに、彼らはとても丁寧な言葉で接してくれました。

こういうことって、日本に大きな震災があったときにみんなが助け合うことと似ていると思います。

これまで、私は何度も日本に行く機会があって、それがとてもよかったと思っています。日本とウクライナを比較することができるから。

日本人は日本のことを誇りに思っている。
ウクライナ人もウクライナを誇りに思っている。

これが私たちに共通することです。

こういうことは、私たちが前へ進んでいく(Progress)うえで、いいことがたくさんあると思います。

おじいちゃん、おばあちゃん、小さい頃のママ

日本が、世界との関係の中でもっている、信用や信頼。世界の中で日本がこれらを築き上げたことは、本当にいいことです。あなたたちがそれを持っていることをとてもうれしく思います。

また、すごく大きな視点から前向きにとらえるなら、東日本大震災のときも、神戸の震災のときも、そしていまのウクライナでのことも、ひょっとしたら、古いものを一度リセットするために起きているのかもしれないとも私は思います。

古い風習、システム。まだ機能していると私たちが思い込んでいたもの。それを壊すために。

いまの世界平和や秩序は、国連やNATOといった、いわば古いシステムによって、守られている、ように見えています。それらはおそらく、今回の危機を通じてリセットされるでしょう。

ぼくの孫やひ孫は、みんなウクライナにいて、そのウクライナはおおきな試練を経験している。

人生を左右する、おおきな試練です。

いま、いろんなことがひっくり返っています。たとえば、日本が難民を大規模に受け入れるのも、きっとはじめてのことになるでしょう?

いままでの常識が覆されている。

こちらでも、戦争前にヨーロッパの他の国に出稼ぎに行っていたウクライナ人の人たちが、みんなウクライナに帰ってきて軍に加入したりしています。そうすると、軍人が増えるので、防弾チョッキやヘルメットが不足する。こういうところでも、日本をはじめ、他の国からの支援にものすごく感謝しています。スイスも、永世中立の立場でありながら、今回初めて中立せずに「ロシアのこの行動は悪い」って言った。

このように、あたらしいルールが世界のあちこちで形成されています。

大切なのは、愛情を持った支え合いと理解。それが、ひとりひとりのハートや知性、クリエイティブ、強さにつながるのだと思います。

(つづきます)

YouTubeチャンネル「BOGDAN in Ukraine」では、最新のウクライナの情報を発信しています。ぜひご覧ください。


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