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ON THE WAY TO PARK #010 『金曜日、ジャズとお酒で夜を更かす』 (Bar SLIGHT)

ある金曜日、終電で渋谷から銀座線に乗って末広町駅まで帰る途中。まだ帰りたくないから、一駅手前の神田駅で降りた。行先は駅前のいなたい飲み屋街を抜けて、日本橋方面へと向かう途中のビル。人通りも殆どない夜中のオフィス街に、かすかなジャズの音色が聴こえてくる。その音を頼りに、ビルの入口までたどり着けたら、あとは勇気を出してエレベータで二階へ上がるだけ。

扉が空いたら、そこは神田で最も上質な音楽に触れられる空間『Bar Slight』だ。思わず外の雑多な街並みを忘れてしまうくらい、うっとりするような厚みのある音が迎えてくれる場所。入ったらカウンターに腰掛け、まずはその音楽に耳を傾けたい。

マスターのコウタさんがこの店をオープンしたのはパンデミック真っ只中の2020年。開業と同時に緊急事態宣言と外出自粛という苦境を乗り越えて、神田に人がわざわざ足を運ぶ店の一つとして徐々に根付いてきた。ジャズを中心にしつつも、レアグルーヴやブラジリアンミュージック、ハウスも流れるミュージックバー。定期的に DJ イベントを開催したり、遠方からゲスト DJ を招いたり、ここに行くだけで新しい音楽と出会える。

『Bar SLIGHT』で特筆したいことは、雰囲気は非常に落ち着いているけれど、日々新しいお客さんと音楽が行き交い、活気に満ちた空間ということだ。私が考えるミュージックバーの在り方として、一番理想的な形だと思う。

席が隣になった初対面の人と音楽談議に花が咲くこともあれば、久々に古い常連客と再会を果たすこともある。何も起きなくても素敵な場所だし、だからこそ足が向くのだけど、思い返すと何かが起きている。そんなお店だ。

グッドミュージックはもちろんのこと、コウタさんが作るお酒は本格的で旨い。私のお気に入りは、チャーリー・チャップリン。ジンとアプリコットリキュール、レモンジュースをシェイクした甘酸っぱいカクテルで、金曜日の夜を更かす。

金曜日は朝五時までやっていて、翌日何もない日、ふと思い出したように行きたくなる。神田の夜、意外と飲食店は早めに店が閉まってしまうけれど、ここなら遅くまでやっているからおすすめしたい。音楽とお酒が好きな人なら、きっとその選択を後悔しないはずだ。

Bar SLIGHT
〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町4丁目4−15 平和本社ビル 3F


イラスト:
あんずひつじ

ivy(アイビー)
東京・外神田を拠点に活動。編集・ライター。『ANTENNA』の編集部に在籍する他、カルチャー系の媒体を中心に執筆を手掛ける。あまり役に立たない本、後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、ジジ臭い服、だらしない酒、意味のなさそうな旅、苦い珈琲を愛する。旅の目的地は、何もないけれど何かが起きる場所。
https://www.instagram.com/ivy.bayside

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