見出し画像

issue 10 「ここは地獄か天国か ⁉︎ 下町風呂屋は容赦ない」 by ivy


何も成し遂げていない、とある週の金曜日。

仕事が終わり、一杯だけ近所のバーか PARK で引っ掛けて、閉店間際の風呂屋へ向かう。

で、出た後、ガラッガラのからだに缶ビール。

クゥッッ!



地元に愛着はほとんどなかったけれど、最近になっていいなぁと思うんだ。『家』『PARK』『バー』『風呂屋』が家を中心にした三角形を形成していて、その辺の中にはカレー屋とかスーパーとか、日常に必要なものがだいたいある。

なんやかんやこの三角形の存在に気づいたのは、風呂屋に行くようになってからで、世間が『銭湯ブーム』だの『サウナイキタイ』だの、なんだのと騒ぎ出してから。随分と遅れてのこと。


うちのまわりの風呂屋は、基本的に入りづらい。

見慣れない顔は、番台に立つ婆さんに凝視されるし、脱衣所がせますぎて手ぶらの地元民以外のことを一切考えていないのがよくわかるし。

何より、『せまい』『古い』『小さい』と三拍子揃うところばかりだ。

この三角形にある風呂屋も例外ではない。魁偉(かいい)な店構えに負けずおとらず、しかめっツラのじいさんが朝っぱらから集まっている光景は圧巻だ。

あそこだけ戦前のまま止まっているんじゃないか。

無声映画を 3D 再生で見せられているような錯覚にすらなる。みんなたむろしている割にはまったく口を効かないのだから、余計だ。

そういう事情もあってか、 #サウナ女子 (男子)みたいなのがはしゃいでいる姿には、まずお目にかかれない。

ただ、何だか気になるうち、週1、2回程度の頻度で通ううちに、この静寂とむせ返すような湿気と熱気に包まれた<タイル貼りの異空間>が病みつきになってきた、この頃。

あの、ビリリッ !! とくる湯船の熱さがたまらないんだよなぁ ...。なんで銭湯に集うオッサンたちは顔色ひとつ変えずにあんな熱湯風呂に長々とつかかれるんだか、いまだにわからないけれど。ただ、ジンジンくる熱さをジッとこらえて徐々に肩の力を抜くと、天にも昇るような、脱力感と高揚感が『脳幹』をしびれさせてくれる。全身のいらないものがじんわり溶け出すかのような、食事や睡眠が充電なら、これは、放電。

たぶん活力にはならないけれど、究極の快楽。全身真っ赤、茹でダコみたいな姿になって、脱衣所の隙間風にあたれば、たちまち喉の渇きに気がつく。

ほら、喉を鳴らしたくなる。


ぐびぐびっ !!


家で冷えてるよね、ビールが。なんだか痩せ我慢をしているような、でもその先にある快楽を欲しているような。


IVYLOOK_銭湯



天国か地獄かわからないけど、日常も、そんなものかもしれない。嫌なこととか投げ出したいことを我慢しているときはさ、きっとそこに出るエネルギーとか、解放されたときの幸福感に期待してるのかな、って。


案外、風呂と同じように、そこから出ちゃうのは簡単なんだろなぁ、とも思う。



さあ、色々あったけど何も進まない1週間が終わった!

のれんをくぐり、今週末も熱気と湿気に包まれようか。



画像1

ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside​

イラスト:あんずひつじ



🙋‍♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁‍♀️