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コロナとパーク ⑬ 『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はカワイハルナ』

アーティストとパークギャラリーの気持ちをポストカードでつなぐドネーションプロジェクト GIFTED 。はじめましてのアーティストもいれば、ずっと好きなアーティストもいます。

2020.07.18 Instagramより(今回は長いです)


あの小説の中で集まろう

ずいぶん花に興味がない人生を送ってきたなと思う。野に咲く花はもちろん、桜にさえ心はときめかない。花を贈られることもなければ贈ることもない。きれいとは思うけれど、それ以上の感情はない。きれいだねと言っているフリをしてきた。たくさんの花を枯らしてきた。いまはけっこう好きかもしれない。

3年前、病気で余命半年と宣告され、緊急入院した。手術のための準備室に1束の花が届く。見たことない花はどうやら芍薬という花らしい。燃えるような赤は命みたいで、うつくしいというより枯れるころには死ぬのかもと思った。漫画とかドラマみたいな話。手術後、うつろな意識の中、たくさんの針や管の通った体では花瓶の水は取り替えられないから、水は、お願いするわけでもなくナースさんが毎日取り替えてくれた。芍薬という花の名前も、ナースさんが言ってたのを覚えたのかと思う。個室で、1日中天井を見ながら、時々赤い芍薬に目をやるがピントは合わない。その向こうに窓があって、窓の外があって、いつ外に出られるのかもわからないまま、もしくはこのまま病院で終わるのかなとか、せめて一回くらい家に帰って熱いシャワーを浴びてベッドで寝たいな、とか、徹夜で残業してる時くらいの欲望しか湧かない。

だんだん体が動くようになって、ベッドの上でパソコンを触れるようになると、『芍薬』を検索してみた。どの季節にどうやって咲くのか、他にどんな色があるのかなど。調べてみてもやはりピンと来なかったけれど、赤い芍薬の花言葉には『誠実』と書かれていて、とてもぼくらしくなくていいなあと思いにやけた。そのうち、1人でトイレに立ったり、手すりを持てばナースステーションにまでは歩けるようになったから、リハビリを兼ねて水の入れ替えをするのを日課にした。誠実に、誠実に。誠実に生きてればこんなことにならなかったんじゃないかと泣いた夜もあったけれど、言っても仕方ないんだと、次の日には Amazon プライムを見て笑ってた。死んだらそれまで。それが現実だ。意外と強い自分がいた。芍薬が枯れる頃に退院した。枯れ落ちた花弁と茎を病院のゴミ箱に投げ込んだ。

あれから3年。なんだかんだ言って今でも生きている。むしろ前よりも元気。花も、花を入れる花瓶も今なら好き。そして何より仕事にも遊びにも、ずいぶんと誠実になった。芍薬を見るたびに背筋が伸びるが、芍薬はいちばん嫌いな花だ。


架空の花の花言葉と、アートと。


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花言葉は

・豊かな才能、気まぐれ
・抱擁、未熟

イラストレーターのカワイハルナさんが GIFTED のために描いてくれた2つの花には、それぞれに花言葉が添えられてる。どちらもこの世に存在することのない架空の花の花言葉なんだけれど、とてもやさしい意味を持っている花だなと思った。カワイハルナ自身がどちらも自分に向けて贈っている(言い聞かせている)んだろうなと感じる。きっと誰だって豊かな才能がほしいと思うし、もっと気まぐれでいたいと思う。いつだって未熟さを許してほしいだろうし、抱擁力のある視点で見てほしいと思うもの。花言葉が少しだけ人生を左右するならば、アートに添えられた言葉(ステートメント)も、きっと心に作用するんだろうなと思いました。

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カワイハルナの GIFTED
https://parkgifted.thebase.in/categories/2632174

下書きを見せながら、普段描かないタッチに挑戦してくれたのもうれしい。絶妙なコンポジションで、絵の中のモチーフの引力と重力のバランス感覚がきもちいいというのが普段の彼女の作品の魅力だけれど、安定したバランスをちゃんととりながら、従来のファンも魅了する仕上がりになってる。すばらしい。線と塗りを見つけたのかな。インスタのプロフィールに飛んだら「セル画」と割り切ってた。いい。ひとつ進んだ感じがしました。この花のシリーズ、今後も熱望したい。たくさん増やして、ぜひ、やさしい花の展示をしてほしいなと強く思いました。

このカードに関して、花言葉を裏面に記しました。贈り物に、ぜひ。

カワイハルナ @haruna_kawai
https://instagram.com/haruna_kawai


GIFTED は、ポストカードという小さなアートピースを通じて作家のモチベーション支援を行うプロジェクト(コロナのワクチンが普及するまで続けます作家も募集しております)

小さなアートピースで作家活動を支援する GIFTED って?

加藤 淳也 プロフィール
1982年生まれ。2002年、下北沢のスズナリ横丁の小さなバーでバーテンダーをやりながらライブハウスのスタッフを兼任。数々のライブイベントのオーガナイザーを務めながら音楽レーベルを立ち上げる。2005年、写真家やアートディレクターが所属するエージェントに勤務。第一線の広告の現場で、制作のノウハウを学ぶ。2008年、ウェブメディアやギャラリーを運営するデザイン会社へ転職。ディレクターとして2012年に独立。以後、クリエイティブな機能を持つアートギャラリー PARK GALLERY として、実店舗を東京・末広町で運営しつつ、広告制作や本の編集ディレクションを手がけている。ラップユニット WEEKEND としてアルバムを2枚リリース(2012年に解散)。2016年より、毎年神奈川県で大豆の農業体験イベントを運営。

加藤 淳也 instagram
https://www.instagram.com/junyakato_parkgallery/
ラジオはじめました
https://youtu.be/lPiPHjCaPmc


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