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猫背で小声 season2 | 第1話 | ビートたけしのお笑いウルトラクイズ

猫背で小声がちょうどいい、会社員・近藤学によるエッセイ「猫背で小声」のシーズン2がはじまりました。題して「猫背で小声 season2 〜あのころを支えていたもの〜引きこもり編」です。人生の半分以上を自分磨き(ひきこもり)で過ごしてきた近藤さんの物語をまだ読んでない人は、ぜひシーズン1からお楽しみください。

 

第1話 | あのころを支えていたもの
ビートたけしのお笑いウルトラクイズ

当時ぼくは中学生。
学校には行かず、名ばかりの中学生だった。

今この連載を見てくれている人たちの年齢層を想像してみても、リアルタイムで見ていた人は少ないと想像する。

なので少しだけ内容を紹介すると、ビートたけしを中心に、たけし軍団、大御所や若手芸人が出演し、例えば高層ビルの屋上でクイズを出し、高層ビルからバンジージャンプをしないとクイズに答えられないという、従来のクイズ番組のイメージとはかけ離れた芸人ドキュメント番組だった。

人気コーナーのひとつ、「人間性クイズ」という、名前からしてきな臭い感プンプンのクイズコーナーでは、大御所芸人の「ポール牧」が、「夜に突然カラダの関係を迫ってきたら若手芸人はどんな行動をとるでしょう?」といったクイズもあった。

そのクイズに若手時代の出川哲朗やダチョウ倶楽部の上島竜兵も出ていて、その時、若手芸人だからこそできる、純粋で精一杯なリアクションが、家にずっとひきこもっていたぼくの心に沁みた。

ちなみに「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」は特番として何回か放送されていたけれど、残念ながら年に1度の放送で、しかも元旦の夜9時からのみということで、毎年この番組が終わると

「あー今年も終わったな。」

と思ったものだった。1年のはじまりの日なのに。364日も残っている今年1年をどんなテンションで過ごせばいいの、と、誰にぶつけることもできない思いが芽生えるほどだった。

それくらい好きだった。

好きな理由はまず、司会者のビートたけしが心から番組を楽しんでいるところ。若手芸人をいじめているように見える風景も、実は「愛」のある風景なんだとぼくは気づいていたし、熱湯くらいのアチアチの愛にすることで、若手と向き合っているなと感じた。

「殿(←ビートたけしの愛称)まじキュンです♡」
「かっけ〜たけし!!」

40代を迎えたいまも、ギラギラとアブラの乗りきったコメディアンたちに憧れているぼくがいた。

若手芸人も、熱のこもったイジりを受けながらもお互いにギラギラして、それでいて健康的なまでに「愛情」を感じる番組だった。

当時ぼくは中学生。絶賛ひきこもりの最中で、もちろん「社会」との接点はなかったけれど、この番組だけが唯一、ぼくと社会をつないでくれているようだった。狭い部屋で大笑いしているぼくを「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」が連れ出してくれた。

当時は笑ってばっかりで気づかなかったことだけれど、たけしからめちゃくちゃいじわるされても笑っている芸人さんを見て

「苦しくても笑っていよう」

というメッセージを、当時のぼくに与えてくれていたんだと、先日の上島竜兵の訃報を受けてふと想った。ぼくは、笑ってなくちゃ。
 

光のない部屋の中の生活。「笑い」というキーワードで社会とつなげてくれた、この「お笑いウルトラクイズ」。今の時代では BPO(放送倫理・番組向上機構)に引っかかり、再結集は無理だろうけれど、逆に当時のメンバーの想いを強くさせる結果となった出川哲朗の活躍や、上島竜兵の死が、ぼくにとっても前向きな意味があると気づけたから不思議だ。

米津玄師の曲の歌詞ではないが、「あなたたちが光」だったのだ。

あの日、大笑いをしていた狭い部屋から、今日も「サラリーマン」として社会に奉仕しています。お笑い芸人に憧れた「プロ引きこもり」は、今日も弱気に健気に、会社へと向かいます。

当時のテレビはソニーの14型のブラウン管テレビ。
今は東芝の40型の薄型テレビ。

相変わらず、会社へ行く前に、テレビのリモコンの「電源OFFボタン」を押すのが怖い。現実がはじまりそうだから。

でも、
時代は変わった。
ぼくも少し変わった。

お笑いっていいよね。
そこは変わらない。

今日も生きていける。
 


\ 近藤さんってどんなひと?/


文 : 近藤 学 |  MANABU KONDO
1980年生まれ。会社員。
キャッチコピーコンペ「宣伝会議賞」2次審査通過者。
オトナシクモノシズカ だが頭の中で考えていることは雄弁である。
雄弁、多弁、早弁、こんな人になりたい。
https://twitter.com/manyabuchan00

絵 : 村田遼太郎 | RYOTARO MURATA
北海道東川町出身。
奈良県の短大を卒業後、地元北海道で本格的に制作活動を開始。これまでに様々な展示に出展。生活にそっと寄り添うような絵を描いていきたいです。
https://www.instagram.com/ryoutaromurata_one/

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