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【 レビューあり 】 今井さつき 『目を凝らす』 山口県

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

— 知ってるだけでわかってはいない。

これは、ぼくが好きな曲の歌詞の一部。本当にそうだなと思うこと、大人になればなるほどたくさんある。世の中にはさまざまな矛盾や、二律背反があり、ぼくらのいる世界は説明できない感情に溢れている。好きだけど嫌いとか。泣きながら笑うとか。気づいたら傷をつけていたとか。失っていたとか。

恋人との喧嘩から戦争にいたるまで、すべて、つい、とか、うっかりとか、仕方がないとか、そういうことでだいたい世の中は動いている。そして、それを、ひとり「わかった気になる」ことほど、おそろしい慢心はない。

そういう人は決まって「普通はさ」とか「一般的に」とか、「ジョーシキ的に」と口火を切る。それは単に他者を『型』にハメて安心したいだけなのに気づいてない(ぼくも思い当たる節があるから反省しなければいけない)。

そういう人から見たら俗にいう ZINE は、雑に思えるかもしれない。しょぼいかもしれない。安っぽいかもしれない。プロ目指すならもっとちゃんと印刷しろよ。もっとコンセプトをはっきりさせろよ。ニーズは? ターゲットは? この金額設定でモト取れるの? 売れるもの作れよ、と(想像するだけで吐き気がする)。

でも COLLECTIVE に参加した、ぼくらはわかってる。そんなの関係ないことを。作ったから、動いたから、そのために呼吸をしたから、全身が、知ってるし、心が、わかってる。

これまで、時代の中で ZINE は、アートブックであり、エンタテインメントであり、コマーシャルであり、ソーシャルメディアだったけれども、誰でも SNS で情報発信ができるいま、わざわざ自分のパーソナルな部分を洗い出し、編集し、紙に落とし込んでいく作業は、カウンセリング的な要素を多く含んでいると言える。とてもじゃないけれど、売る目標では作っていないよ。例えば

いまの自分のスキルを確認する
いまの自分の位置を確認する
いまの自分を客観的に見る
いまの自分を愛してあげる
いまの自分を愛させてあげる

日記やエッセイのような ZINE はもちろん、イラストやフォトジンにいたるまで、ふと、気づかないところで、自分をカウンセリングし、ケアしていることが多い。

むしろ、ZINE の歴史とは、セルフケアの歴史かもしれない。

ぼくの友人は、自分の悲しい恋愛の過去を ZINE にすることで、自分らしさを手に入れた。そういう例はたくさんある。

昨年、2020年の COLLECTIVE で印象的だったのは、最後、滑り込みでエントリーしてきた写真家の駒﨑崇彰さんの ZINE だ。写真における、カメラはもちろん、プリントの美しさや写真集におけるセレクト、デザイン、製本にいたるまで、そのすべてにこだわることを『美』そして『善』としていた駒﨑さんが、写真集未満と言われてもおかしくない、ZINE を作った。もちろんいまの流行りに乗っかって、プロの写真家があえて ZINE を出すという最低最悪なケースではなく、彼には ZINE が必要だった。ZINE の方から近寄ってきたと思う。もちろん ZINE と言うには美しすぎるというくらい素晴らしいものだったけれど、あれも一種の彼なりのカウンセリング、そしてセルフケアだったのかもしれない、と今は思う。

その証拠に、あれ以来、駒﨑さんの写真はすごくよくなった。いままでの自分を一度「許してあげた」。その事実が、そっと、閉じてた奥の扉の鍵をあけたのだと思う。

ZINE を作ることは「許すこと」。

今年の COLLECTIVE に集まった作品を振り返ってみると、ひとつ、そういう言葉が浮かんでくる。頭では知っていたけれど、わかったのかもしれないと思う。逆に言えば、「許し」を与えてくれた ZINE は、あなたの人生にとって、かけがえのない存在かもしれない。

今年最後に紹介する ZINE も、滑り込みで届いた写真の ZINE だった。作者は今井さつきさん。ぼくが好きな写真を撮るひとの一人だった。

だった、というのを説明するために、今井さんのコメントを引用する。

いろんな人に後足で砂をかけてひとつの写真の世界を逃げ出してきて「これから写真を撮る資格があるのか?」「撮らないと生きていくのがつらいぞ…?」など、突き詰めていくと「これからどうやって生きていく?」ということを地元山口に帰ってずっと考えて数ヶ月が経ちました。考えていたって答えは出てこないけど、写真を撮っているだけでもどうにも答えにたどり着けそうにない。かといって誰かに相談するようなことでもないし、オチもないし…と思っていたところにCOLLECTIVEを知り、この ZINE を作りました。

迷いが素っ裸になるような制作期間が苦しかった、という手紙と一緒に送られてきた ZINE のタイトルは『目を凝らす』。

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彼女が、目を凝らし、ファインダーを通して見たもの、見たかったものが、ある日の日記のような感覚で掲載されたフォトジンだ。彼女のセンスのよさはそのままで、でも、どこかつかみどころのない、よく言えばリラックスした、悪く言えばありふれた心象風景の連続に、ぼくは ZINE ではなく、ZINE の本質を見て、ずしんと、鉛のような感情が、心の中に落ちた。

これを最初、写真としていいとか悪いとか、そういうものさしで見てる時点でぼくのセンスはだめになってた。

大事なのは、ほかの ZINE と同様、これを作るための過程があって、そこに対話があって、苦悩や葛藤があって、矛盾も、二律背反も、言葉にできない感情もあるということ。彼女が ZINE のさいごに添えたこの言葉で、それに気づいて、ZINE を見返すと、急に写真が光り出した。

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それはかけがえのない1冊だった。上でも下でも、右でも左でもない。今井さつきがここにある。それでいいのだ。生き様と言えば聞こえがいいかもしれないけれど、誰も何も関係ない。ここからはじめればいい。そういう声が写真から聞こえてくる。

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もう1つ。

写真の世界、なんていうものはそもそも、ない。
写真の世界というのをいう人たちは知ってるだけでわかってはいない。

本当は一人ひとりの世界に、美しい風景があり、それを切り取るためのカメラがあり、写真があるだけ。たまたまそれを仕事にしてこだわったふりをして、買ったり売ったりする人が横の世界にあるだけで、<写真の世界>なんてものはないよ。自分の世界からさえ逃げなければ、なんだって、ずっと続いていくのだよ。好きなことは続けるべきなんだよ。だから、変なことは考えないで、とにかくカメラを持ち歩いて、撮り続けて欲しいなと、1ファンとして思います。好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。そういうことで世界はなりたっているから。何も問題はないよ。

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そして冒頭に紹介したぼくの好きな曲にもうひとつ、

— 人生をやり直すかどうか、死ぬまでに考えよう

という言葉がある。まずは、とにかく進もう。見てる人は、しっかり目を凝らしてみているよ。

さて、COLLECTIVE 2021年ののさいごに、『ZINE』として、美しい1冊を紹介できて、よかった。

また改めて、みなさんへのお礼や、感謝を伝えられたらと思ってます。

ではまた来年!

Review by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


【 ZINE について 】

いろんな人に後足で砂をかけてひとつの写真の世界を逃げ出してきて「これから写真を撮る資格があるのか?」「撮らないと生きていくのがつらいぞ…?」など、突き詰めていくと「これからどうやって生きていく?」ということを地元でずっと考えて数ヶ月が経ちました。考えていたって答えは出てこないけど、写真を撮っているだけでもどうにも答えにたどり着けそうにない。かといって誰かに相談するようなことでもないしオチもないし…?と思っていたところに COLLECTIVE を知りました。この夏の宿題として、今の場所での写真をひとつ形にすることで何か見えてくれば良いなと思ってZINEの制作に至りました。

価格:¥700(税込)
ページ数:20P
サイズ:148 × 210mm


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作家名:今井さつき(山口県宇部市)

山口県宇部市出身・在住。
カメラマンアシスタントを経験後、今は人生休憩中。

https://www.instagram.com/imistk0619
https://twitter.com/imistk0619

【 街の魅力 】
昔炭鉱があった町で、絵に描いたような「かつて栄えていた町」な雰囲気が映画みたいで面白いです。山も海もあります。
【 街のオススメ 】
喫茶店 じゃがいも ... ほっとできる。


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