【 レビューあり 】 crevasse 『magic power mystery zone / 近藤大輔』 茨城県
ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)
ZINE らしい ZINE とは。
10代半ばから20年以上『ZINE』と向き合ってきたけれどまだまだ答えは出ない(きっとおそらく答えはない)。ただ、明らかにこの20年で ZINE という言葉がだいたい通じるようになったし、ネット印刷の価格破壊によって、誰でも簡単に印刷、製本できるようになり作り手も増えた。家庭用インクジェットのプリンターの進化も著しい。特にこの10年の進化の速度はZINEにとってはかなりの追い風だったと思う。同時に早すぎて麻痺してきてる。
以前はコンビニのレーザープリンターでモノクロ出力して切り貼りして面付け(ページに割り振る)をし、それをさらにスキャンしてホッチキスで留めてやっと1冊の ZINE にしたりしていた。漫画や小説、日記。映画のレビュー、書評。誰に頼まれるでもなく、見せるでもなく、書店で売るでもなく。仲間内で交換したり、イベントで配布したりしてた。「おもしろい」と言われると、1冊1冊を手で作った夜が明ける感じがした。
よく ZINE は自由だ、と言われるけれど、当時から別に自由という感覚はなかった気がする。こんな不自由なことなのになんで作ってしまうのだろうという感じだったと思う。解放されたいというか許されたいというか。不自由の中でいかに好きに遊ぶか、というか、決して自由さを感じるメディアではなかった。雑誌の方が予算もあるし自由だなって思ってた。当時の雑誌がもっと過激だったというのもあるけれど。
オンラインで入稿してネット印刷で後日きれいな冊子が納品される。そういう時代にあるべき『ZINE』とは。改めて立ち止まって考えてみたくてなって、4年前に、茨城を拠点にする出版レーベル『crevasse』を運営する大滝くんとはじめたのがこの『COLLECTIVE』だった。
crevasse とは「氷河に形成されるような深い割れ目」の意味。国内外さまざまな場所のアートブックフェアや展示に出向き、新しい才能を、まるで深い谷へ潜るようにして自身の手で発掘し、オンラインのセレクトショップで販売している。ZINE を中心にアートブックや写真集を取り扱うショップのインデックスを見るだけでも、そのセレクトのクセの強さがわかる。
さて、そんな crevasse 大滝くんから届いたのは1つのカセットケース。
プレーヤーが壊れててカセットテープは聞けない、どうしよう、と思ったのは束の間、ケースを開けると、カセットテープではなく、1冊のZINEが床に落ちた。その瞬間 “あえて” エントリーした理由がわかったような気がして思わず笑った。カセットテープのサイズで作られた ZINE『magic power mystery zone』を拾い上げながら、そうそう、見たかったのはこういうの、と思った。
イラストレーターの近藤大輔さんによるアートワークが詰め込まれた『magic power mystery zone』は、小さいながらも66ページと肉厚のボリューム。シュールという言葉で片付けてしまうのはナンセンスかもしれないけれど、近藤さんの脳内のミステリーゾーンに突入するには、この小さいサイズが意外といいなと思った。没入していく感じ。小さいがゆえに「もっと奥まで見よう」という意識が拡張され、ディテールまで追いかけてしまう。よくあるA5サイズの版型だったらすぐにわかった気になってページを送ってしまってたかもしれない。
時折ページ内に現れる『magic power mystery zone』または『マジカルパワーミステリーゾーン』の言葉が出るたびに「一旦コマーシャル」といった感じで現実に戻される。そしてまたゾーンへの突入。その繰り返し。クセになる。五感(いや六感)に訴えかけてトリップさせる作りは crevasse という出版社の得意技とも言える。
crevasse の大滝くんからの手紙のような1冊で、ふと COLLECTIVE をはじめた時の興奮を思い出した。もっとこういうクリエイティビティやアイデアに富んだものが見たかったんだ、出会いたかったんだ、ということを忘れかけてた。
冒頭でも書いた通り、ZINE は「自由なメディア」と思っている人がたくさんいるけれど、せっかくの自由さを自分たちで奪ってしまってる人も多いかもしれない。予算やサイズ、販売価格、納期、売れるかどうか etc… そういうものにがんじがらめになったしまってはいないか。
もっと自由で、なんかわからないけれど「やっちゃう」「作っちゃう」。できた結果がこれだから仕方がない。そういうのがもっとあっていいなと改めて思った。
それにしても、ぼくが好きなイラストのタッチを直球のストライクで投げてくる大滝くんはさすがだ。そしてこの ZINE をきっかけに、近藤さんの絵を原画でもっと大きなサイズで見てみたいと思った。
レビュー:PARK GALLERY 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----
【 ZINE について 】
近藤 大輔のシリーズ作品をカセットテープサイズに収録した ZINE です。
価格:¥1,650(税込)
ページ数:66P
サイズ:650 × 101mm
作家名:crevasse(茨城県)
crevasse(クレバス)は茨城を活動中心にする ZINE のナノ・パブリッシャーです。オンラインのセレクトショップをベースにして、国内外のアートブックフェアに積極的に参加し、現地でまた新たな “crevasse = 深い谷にいる” アーティストとその出版物を発掘するなどしています。
https://www.instagram.com/crevasse.books https://twitter.com/crevasse_books
作品:近藤 大輔
https://www.instagram.com/k_o_n_d_o_
【 街の魅力 】(茨城県)
野菜が安い。
【 街のオススメ 】
つちうら古書倶楽部 … 22軒が共同出店する形で運営している、店舗面積は関東地方最大級の古書店。
【同じ地域で活動するひと】
・夕書房(出版社)
・PEOPLE BOOKSTORE(書店)
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