見出し画像

風のつぶやき #04 「ペイントワークショップ」 について | 小田佑二

「子供たちと一緒に絵を描いてみるのはどう?」

この一言から僕のペイントワークショップ道は始まった。キャンプフェスでライブペイントをしていた僕に子供が集まっていたのを見た運営の人からの提案だった。

子供たちが遊べるコンテンツを出来ないかという相談に、お世話になってるフェスだった事もあり「やりましょう」と即答したと記憶してる。
ただ、この時の僕は子供が苦手だった。というより嫌いだった。ライブペイントをしていた僕に子供が集まっていたと書いたが、「僕にも絵を描かせて」「私も描きたい」と言い寄られただけで、「ごめんね〜」と断わりながらも、内心では初対面なのに割と厚かましいお願いをしてくるなと思っていたくらいだ。道具は勝手に使おうとするし、自分の話をむっちゃしてくるし、特に説明もないまま、その場にいない学校の友達とおぼしき名前が飛び交い、その子の日常ではお馴染みのエピソードも平気で出てくる。こっちが話を理解できてないうちに、鬼ごっこしようと言われ、ジャンケンもせずに僕が鬼にされている。この理不尽な状況にどう接して良いかわからなかった。
なので、正直嫌々だったが、せっかくの機会だしチャレンジしてみよう。やってみて無理そうなら出来ないと言おう。そう思って、やってみる事にしたのだった。

彼らのペースに振り回されながらも、ペイントワークショップを始めてみると、予想に反して面白かった。やっぱり絵がいい。車にしても動物にしても必要最低限の情報でギリギリそれと認識できるラインで描かれてる絶妙な絵がたまらなくよかった。興味の対象じゃない部分を大胆に省いて描いてたり、しっかり描くけどもディティールがいまいち掴めず何となくのイメージで保管してたり、描いてる途中に飽きちゃって違う世界がコラージュ的に隣接してたり、色々な理由はあれど、魅力的で己の世界観が炸裂した絵が沢山あった。
しかも、何描いてるのって聞くとご本人による解説付きというケースもあったりで、そんな描き方があるのかと勉強になった。

ある時、地べたに敷いた大きいキャンバスに僕が山を描いてると、4歳か5歳くらいだろうか、男の子が近づいてきて「その山の上に空描いてやろうか」と話しかけられた。「空描いてよ」と返すと、その子はおもむろに、青の絵具で横線を縦に3本並べて描き「空だ」と言ったのだ。見ると、山に対して明らかに長さの足りない青い3本の線は確かに空だった。お洒落。。。。僕は思った。そんな発想が無かったし、「描いてやろうか」からのその流れは巨匠の佇まいそのものだった。その子はその後も絵具を変えて木を描いたり、川を描いたりしていく。僕は描くのを中断し、巨匠の後を追った。基本的に手数をかけずに次々に淡々と描く巨匠のスタイルは途中からもはや何を描いてるのか解読不能だったが、空の件でやられていた僕はその全てが輝いて見えた。「空の描き方僕もやってみていいですか」と聞くと巨匠は了承してくれた。というか、描くのに夢中で空返事したというのがほんとのところだ。かくして僕はこの子から空の描き方と絵描きとしての態度を教えてもらった。
そのほかにも全て紫系の色で描く子、目玉の親父を大量に描きすぎた結果、最後はグラフティのスローアップのようになっていた子など周囲お構いなしの我が道系の子達とのハッとするような出会いが多々あった。

そうしてるうちに、僕も接し方がわかるようになった。話は簡単で友達のように接すればよいというのが僕の結論だった。今では知らない名詞が出てきても驚かず対応できるようになったし、ジャンケンをせずに鬼にされたら、そんなんじゃできないとごねれるようになった。仲良くなってコンテンツを手伝ってもらう事もあったし、学校の話から好きな子の相談にのる事もあった。今思えば、苦手とか言っていた自分はちょっと格好をつけていたんだなと思う。子供達はそういうのわかるから、余計変な感じになっていたのだろう。

ペイントワークショップをしてからそういう仕事も増えて、壁画制作とワークショップをくっつけて実施するスタイルも確立できた。最近は40分間で子供たちとライブペイントしながら絵を完成させる仕事もした。難易度高めだったが、みんなで好きな絵を描いてたらヤバいのが出来ちゃったというのが理想なのでそれに近い経験できたのはでかい。流れに身をまかせて始めたペイントワークショップだったが結果的に自分の幅を拡げてもらった。

もらってばかりの僕だが、自分なりに子供たちに何かしてあげれる事があるか考えている。
今のところ、世の中にはふざけた大人もいて、好きなことをやってても生きていけるらしいよ。くらいしかないので今は頑張ってふざける事に徹している状況だ。

あと思うのだが、僕も含めみんな小学生くらいまでは我が道系の発想で絵を描けていたのかもと思う。
僕の経験から推察すると年齢を重ねるうちに人と違うことが恥ずかしいみたいな雰囲気にのまれ、自己矯正しちゃう、もしくわ矯正されちゃうとかで我が道系の発想をしなくなっていくのではないだろうか。

もしそうだとしたら、そういうのどうにかならないですかねぇ。



絵描きの小田佑二による連載『風のつぶやき』では、絵にまつわる自分事をご紹介します(「風のつぶやき」とは父が発行していた家族新聞のタイトルです)。

小田佑二
秩序ある即興のパターン化をテーマに、見た・聞いたことからのインスピレーションや情景を線や面の構成で表現している。 六本木アートナイト、GOOUT CAMP、FUJI ROCK FESTIVAL など、イベントでのライブペイント、ペイントワークショップや国内外での壁画制作・作品発表をはじめ、書籍、音楽、ファッションなど様々なジャンルのアートワークを手がける。
https://www.instagram.com/odarian

🙋‍♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁‍♀️