boa viagem #015 『コンペ当日』by 写真家・新多正典
ヒーヤンの家で夜遅くまで彼らの大好きな日本アニメについて爆笑しながら語らった。
だけど噛み合わないのは、僕の好きなAKIRAや劇場版エヴァンゲリヲンを彼らは見たことないし、もちろん宮崎駿の最新作も知らない。
そもそも配信などで輸入されるにはポルトガル語へ翻訳されていないといけなくて、彼らが知ってるのはどうもニッチなアニメで、日本で大ヒットしたものがブラジルにスムーズに進出しているわけではないようだ。
布団を用意してもらって寝ようにも眠れない…。
恐らくホテルビュッフェの食べ過ぎで、胃に激痛がしばらく続いた。
ガリーニャスで食べたものは全体的に今までのものより味付けが濃いと感じた。
日本人の胃にはちょっと負担があり過ぎたのかもしれない。
布団のそばに扇風機まで設置してくれたけどあまりにも強烈過ぎて寒い。
胃の痛みを抱えながら朝方ウトウトしていると扇風機はヒーヤンの元に動かされていた…。
そのせいで、大量の蚊の餌食になった。
こちらの人はどうも扇風機の風を防虫のためにも利用しているようだ。
ちなみにだいたいの家はクーラーがない。
暑さを凌ぐのは扇風機or外に出て夜風に当たること。
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午前、別れを告げてスラムへ戻った。
今日はポルトヒコにとって一年の総決算。
コンペティションの日。
優勝するために新曲を作り、練習をし、衣装を作ってきた。
カンドンブレーという宗教信仰が本質なのに勝ち負けを競うのか、というのは日本人にとっては分かりにくいことかもしれない。
でもこのコンペがポルトヒコのマラカトゥの質を引き上げ続けていると思う。
毎年毎年、今年は昨年より良いと感じ続けてきた。
毎年テーマを一新し新曲を作る。
その新曲がどんどん他のチームにも浸透し、マラカトゥ全体の持ちネタが増えていく。
この繰り返しのためにもコンペティションは不可欠な通過点になっているように思う。
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大型トラックに荷物の搬入をしている本部前はピリピリしていたけど、また3時にバスが到着したとアナウンスが入るもバスに向かう人は全然いない。
国全体が狼少年で、集合時間から1時間から2時間後に始まるのが妥当、というのが実測。
ピリピリとした空気が自分にも浸透してしまい、移動中、飲んだくれてるオヤジから背中越しに「シネース(中国人)」と呼ばれてカチンときた。
バスに乗り会場近くに到着すると、広い場所で衣装の着替えをするのだが、相変わらず道を間違え右往左往する。
本当にこの人たちは反省することってないんだろうなとフラストレーションが溜まり出していく。
寝てない疲れも相まって帰りたくないと思い続けてきた自分の心境に明らかな変化が出てきた。
この後、他にももっとトラブルがあったが、話しをコンペのスタートまで持っていくと、4年前と結構な変化を感じた。
パレードする距離が短くなっているし、場所も微妙に違う。
印象としてはマイルドになってしまった感じ。
時間も深夜の2時にやっていたのが20時にスタート。
この国なりにコンプライアンスなのか時短意識なのかがゆったりと浸透してきたのかもしれない。
そして、コンペティションを撮影しての感想は…。
正直アガらなかった。
理由は、コンペがマイルド化したからか、ポルトヒコのバイブスがいまいちだったのか、僕が演奏シーンにそれ程貪欲でなくなったのか、まだ言葉を探せてないけど、彼らにとってのハイライトは、僕にとってのハイライトじゃなかった、と言える。
もっと良い場面は今まであったよ。
間違いなくもっとも鬱屈が溜まった日。
帰国2日前。
「もう帰れよ」という状況を神かなにか見えない力が作用して導いているんだろうか。
つづく。
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