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issue 18 「大切なことは、水槽の中にあった」 by ivy

昔からこの辺で近所のデパートといえば、御徒町駅前にある『松坂屋(上野店)』だ。爺ちゃん婆ちゃんが惣菜のタイムセールに集う庶民派デパート。PARK GALLERY からは徒歩約10分。我が家からは徒歩6、7分くらいかな。

さて、幼い頃、松坂屋へ婆ちゃんが惣菜を買うのについて行って、必ず屋上の熱帯魚売り場で水槽を見るコースを少なくとも週1回は必ずしていた。

屋上遊園の一角、エレベーターホール周りのごく一部に熱帯魚売り場があり、30cm四方の小型水槽がロッカーみたいに並んで、色々な魚が泳いでいた。不思議なもので、今でも時折、出先で熱帯魚屋を見つけると足が向く。エサのなんともいえない独特の匂い、充満した暖房の空気、無機質な水槽の電子音 … 踏み入れた空気は不思議と幼い頃のあの記憶と重なる。そして何より、水槽に泳ぐ面々がどうにも赤の他人(他魚?)には思えない。

ついに熱帯魚を飼うのは小学4年生の頃まで叶わなかったが、少なくとも人生の最初の7年以上、私の成長を見守ってきたのが松坂屋の熱帯魚たちだったのだから、当然のことだ。

いうまでもなく下町の庶民派デパートの忘れ去られたような場所にいる彼らは、決して高級なものではなかった。小型の魚は1匹100〜500円程度、大きなものでもせいぜい数千円。銀座の大型店に行ったときなんて、1匹ウン十万とかするやつもいたから同じカテゴリーにしていいのかすら怪しい。

こうした安価なポピュラー種は、だいたいが東南アジアか南米原産の淡水魚。川の魚だから、育てるのも海水魚よりは遥かに簡単で、比較的丈夫。どこにでもいる、その辺の熱帯魚店に必ずいるやつら。

そんな、一見2〜3cmの小さなネオンテトラや、そこそこのサイズがありなんだかグロテスクなアロワナ、不思議な形のディスカス … みんな遠目にはただ泳いでいるように見えて、結構小競り合いをしたり、ハブられているやつがいたり、人間模様(魚模様?)が繰り広げられているんだ。

だから、7年弱、毎週見ても一向に飽きない。売り場のおじさんがご厚意で餌やりをさせてくれたことがあり、いつしか私の顔を覚えたと思しきやつまで現れた。彼らはみんな私にとって家族以外で最初の顔馴染みだったし、水槽という社会で生きる姿を見せてくれた。

18_IVYLOOK_熱帯魚

遠目にはそこらへんにいるありふれた存在で、同じような姿で同じような動きをしていても、どこかで外れているやつがいたり、意地悪をしてくるやつがいる。じっと目を凝らすと、そいつらがしっかり見えてきて、よく見たら同じやつなんて1匹もいない。

当たり前のように、生き物である以上、全て違うのだけど、知らない・無関心な存在は同じに見える。

同じモノ、ヒトなんていないから、まず興味を持つこと。いつか何かしら見えてくるかもしれない。

私のある種の原点が、この熱帯魚売り場で出会った "旧友" たちだ。

生物学上、彼らはとうの昔に天寿を全うしたはずだけど、あえて思い返しながら、話したかった。

近所にあったはずの彼らの家は、まだあるのかな。


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ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside​

イラスト:あんずひつじ


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