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issue 31 「得意料理は芽キャベツパイ !? ジム・ジャームッシュが産んだ、異色の天然ヒロインに恋した話。」 by ivy

最近、恋をした。

... と、いうのも映画の中の人なんだけど。

ジム・ジャームッシュの作品『パターソン』、主人公パターソンの奥さんである『ローラ』がその人だ!先にいっておこう、この映画、ただひたすらにローラがかわいい ... ってだけで2時間分の元が余裕で取れてしまう。

ニュージャージー州の中規模都市パターソンでバス運転手をする青年、パターソン。毎朝決まった時間に起きて、同じ時間に仕事をして、奥さんと食事をして、犬の散歩とビールで壱日を〆る。そんな生活を送りながら、パターソンが秘密のノートに、誰にも見せていない詩を書き上げていく ... という話。

これだけ聞いたら、めちゃくちゃ退屈そうな映画に思えるし、実際に大きな事件は起きない。更にいうと主人公自身に多くを語らせないので、主人公にわかりやすく共感を誘うような作品でもない。しかし、結果として見終わると、主人公に感情移入をしている自分がいて、どこか胸に居場所ができたような、温かみを感じられるから不思議だ。

パターソンが書き上げていく詩は、ヒロイン、ローラに向けられたもの。そして、映画を見るうち、パターソンが口には出さず、思いを詩で綴るように、いつしか我々見る側も、ローラに惹かれていく。そういう楽しみ方をする映画なんだと思う。

パターソンが仕事から帰ると、いつもローラは何かしらをこしらえている。個性的なグラフィックがあしらわれたインテリアだったり、水玉模様のカップケーキだったり、晩御飯のメインが芽キャベツとチーズのパイであったり  ...。うっとりしたような目で甘えてきたかと思えば唐突な思い付きで奇抜なギターを欲しがる。朝目覚めたら、不思議な夢の話を聞かせてくれる。端的にいうなれば、発想力と創造性が豊かな(いい意味で)、ちょっと一般の感覚からずれている女の子。

これだけで完璧なんだけど、もう一つ、忘れちゃいけないポイントがある。それは、常に漠然と、それでも確実に且つ無条件にパターソンを慕い、肯定する存在であり続けていることだ。こっそりしたためている詩をずっと心待ちにして、パターソンに「あなたは才能ある詩人なの」「秘密のままにしておくなんてもったいない」とド直球で肯定的な言葉をかけ続ける。

大きな変化のない日々と、頑なに誰にも見せない、内なる創作。決して劇的ではないし変化に満ちてもいない、それでいて多くを語らない男。そんなパターソンにとって、彼女の存在はあまりに大きいはずだ。変わらない、今の彼自身を愛し、認めてくれる存在。そうして描かれるローラの姿が、この上なく愛おしく、大切に思える。

さて、私たちだって、ふたを開けてみれば、日々いつでも前進できているわけじゃない。やりたいことは頭にぼんやりあるけれど、くすぶっている時期もあるし、変化のない日々に疑問を感じている時だってある。そんな私たちにも、パターソンにとってのローラみたいな人がいてくれたら ... 映画を見ていると、そう思わずにはいられない。

だから、この映画のヒロインに惹かれるんだ。

どこまでも救いに満ちた肯定的な存在であり続けてくれる。ぜひとも、思い切り感情移入してみて欲しい。見終わった後に、今現在の自分を肯定されるような、今までの自分が救われるような、心地よい安ど感に包まれるはずだから。


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ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!

https://www.instagram.com/ivy.bayside

イラスト:あんずひつじ


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