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issue 32 「今は亡き、神田のネバーランド !? 旧交通博物館の思い出。」 by ivy

『交通博物館』

この名を聞いたら、東京の下町で生まれ育った人は高確率でピンとくる。祖母の代から外神田に住む我が家も例に漏れず...。それは、PARK GALLERY がオープンする10年前、2006年まで神田須田町、旧万世橋駅(現マーチエキュート)にあった博物館のことだ。

その歴史は長く、なんと開館は1936年、戦前だ。

私の母親が幼い頃はバリバリの現役、祖母が幼稚園に通っていた頃もあったという。そんな訳で、親子3代お世話になっている場所なんだ。今回は、そんな地元民なら知らない人はいない、思い出の地について。

交通博物館の展示品は、主に鉄道。それだけでなく、飛行機や車、船まで展示していて、博物館の歴史を裏付けるかのような年季の入った展示物は圧巻だった。日本最古の蒸気機関車とか、海外の初期飛行機とかが所狭しとディスプレイされている。ものによっては中に入ったり、運転体験ができたり、別に特別乗り物好きな子どもでなくても、退屈しない施設だった。今、跡地には規模といい外観といい、実に凡庸なオフィスビルが建っている。冷静に考えて、あの狭小スペースにこれだけのコンテンツを盛り込んだ場所を他に知らない。

私が幼稚園に通っていた2000年代前半。さすがに老朽化し、閉館へのカウントダウンを歩んでいた交通博物館だけど、そんなことは知る由もなく幼い私は夢中で遊んでいた。

何がすごいって、当時色々と新しいゲーム機やらおもちゃやらがすさまじい勢いで発売され、世界中から揃っていた秋葉原で、5歳児が祖母の代からほぼ同じ内容の博物館で楽しめていたということだ。

革張りの椅子、レバーの重み、運転席の狭苦しさや汽車の騒音まで、実際に載ったことがない乗り物も五感で味わえる体験提供。液晶画面越しのビビッドな世界でも、ゴンドラから見る触れられないメルヘンの世界でもない、紛れもない現実の世界。行動範囲が限られていた幼児期には、これほど非日常を一度に味わえる場所はなかった。

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YouTube で見ていた大好きなバンドを初めてライブハウスで見たとき。耳をつんざく爆音と下半身を揺らすベース、むせ返るような煙草の煙 ... こういう要素は、やっぱり生でこそ意味があって。

同じように、普段プラレールでしか見られない大好きな電車も、博物館で紛れもない現実のものとして見られた。ひんやりした鉄の質感、さび付いた部品、地面から見上げる大きさ、重量感、ちょっとかび臭い客室の匂い。

きっと幼い頃、高確率で興味を示す乗り物。それに己の感覚を通して向き合えることは、世代を超え、大きなインパクトを残していたということか。何よりもその後、私自身が気になったものを実体験する、五感で咀嚼することを重んじる、そのきっかけとなったように思う。

そういえば、この交通博物館。もう神田にこそないものの、実は『鉄道博物館』と名を変えて、埼玉県の大宮で存続している。


親子3代、ときたら4代目も ...
もし、いつか私に子どもができたら、連れていきたいなぁ。


イラスト:あんずひつじ


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ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside


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