よむラジオ耕耕 #05 『音楽でつながる』
※ よむラジオ耕耕は、ラジオで話していないことも加筆しています。
加藤:4月はいかがでしたか?
星野:ぼくはこの『読む耕耕』の文字起こしもしてるので、何度も聞き返しているんですけど、聞き返すことでわかること、気づくこともあるというか。
加藤:収録で聞くのとまた違った視点というか。
星野:そうです。何度聞き返しても「いい内容」だなって思うということは、結構深い話ができている証拠なんじゃないかと。
加藤:ありがとう。そうやって褒め殺してもらえると(笑)。
星野:決して言わされてるとかじゃなく、本当にそう思います(笑)。
加藤:あんまり褒められると、自分としては「しゃべりすぎてないか」「偉そうになってないか」と言うのが心配になっちゃうので、これからはできるだけ謙虚に、やわらかくとは思ってはいるんだけれど、せっかくの機会だから5月も赤裸々に話していきたいと思います。
星野と音楽
加藤:多分4月からこの放送を聞いてくれてる人が多いと思うんですけど、5月なので改めて簡単に自己紹介をすると。ぼくは、ディレクターという立場で東京の末広町で PARK GALLERY というギャラリーを運営しています。アシスタントの星野くんは、北千住で PUNIO というギャラリーをやっていて、2人ともギャラリーに暮らしながらギャラリーをやっているというのが共通項で、ほかにも「アートが好き」とか、いろいろあると思うんですが、今週はせっかくなんでリスナーから「質問」が届いていたりするので、改めてぼくらがどんな人なのかっていうところを話していきたいと思います。中でも多かった「星野くんって何者?」っていう質問。
星野:たまにはこういうのもいいですね。
加藤:むしろ、ぼくも、星野くんのこと、正直あんまり知らないかも。PUNIO の人だなってのはもちろんわかるんだけど(笑)。今スーツ姿なのは仕事だよね?
星野:そうです(笑)。まさにさっき仕事が終わってそのまま収録に来ました。4月から社会人で1年目ですね。もちろん、PUNIO は続けてはいるんですが、親が運営しているギャラリーに就職して、芸術に関する仕事をしてるんですが、『百貨店画廊』といって、百貨店の一角を借りて、絵を売るのが専門のギャラリーなんです。
加藤:あー見たことある。百貨店の5階とか7階に急に現れるようなね。
星野:そうです。そこの販売で立って営業したりが主な仕事ですね。
加藤:仕事が休みの日は何してるの?
星野:休みの日は「PUNIO をしている」っていうか、どこにいても PUNIO のことを考えてることが多いですね。でも、その中でも本当に本当に暇な時は「ギター」を弾いたりしてますね。
加藤:へー! ギター弾くんだ。エレキ?
星野:いや、アコースティックギターです。小さい頃から家にあったってただそれだけの理由で始めて、『Uフレット』っていういろいろな曲の楽譜が載っているサイトがあって、それを見ながら一人でずっと弾き語りを練習しています。コードもうろ覚えなくらいのゆるい感じで続けてますね。
加藤:バンドをやりたいとか思わなかったの?
星野:その気持ちはありました。高校まではバスケ部だったので大学に入ってはじめようと。でも結局大学に入る前に『ブルージャイアント』っていうジャズ漫画を読んでしまって。
加藤:あー! 最近流行ってるよね、アニメ映画になったりアナログ版が出たりとか。
星野:そうです。まさに。で、その漫画を読んで感動してしまったがために、大学でバンドをはじめるどころかサックスを吹くことになるという…。
加藤:サックスを中途半端に噛んじゃったんだね(笑)。
星野:サックスを選んだことに後悔はしてないけど、結局、「音が鳴るだけ」みたいな中途半端な感じになってしまいました(笑)。
加藤:「二兎追うもの一頭も得ず」(笑)。
星野:そうなんです(笑)。でもサックスはなかなか披露する場面がないですが、結局ギターはずっと一人で今まで弾いてたんですけど、それこそ PUNIO を作ってはじめて、脚光を浴びるんです。というのも、PUNIO に私物としてギターを置いてたので、みんなが遊びに来たときに「これ誰か弾けるの?」って会話に自然となるんですよ。そこではじめて人前で歌うっていう経験をしまして。
加藤:いいね。ちなみにどんな曲歌うの?
星野:よく歌うのが、『浪漫革命』の『あんなつぁ』ですね。
加藤:ロマンカクメイの、アンナツァ…? それは日本人?
星野:日本人です(笑)。京都のバンドなんですよね。なんか『あの日の夏』を歌った曲なんですけど、すごく良いんですよね。切ないけどちょっと晴れやかな曲です。いつも誰かに「何か歌って」と言われたら『あんなつぁ』しか歌ってきてないんで、もう友人たちには飽きられてると思いますけど(笑)。
加藤:『あんなつぁ』って『あの夏は』ってことか。
星野:そうです!「あなた」の意味も込めれてるんじゃないかと。
加藤:なるほど⋯。星野くんがギターを弾いてるのは意外だったな。
星野:ギターとか音楽とかって「人とつながれるひとつのコミュニケーションツール」って感じがするんですよね。うまかったらもちろん盛り上がりますけど、下手でもなんか楽しげな空気になるんですよね。
加藤:そうそう。わかる。ぼくらなんかもまさにそうで、一周まわって音楽なんて「下手な方がいい」っていうか。うまい人がいると困っちゃうし、下手なひとだけだと何もできなくなっちゃうから。「みんな違ってみんないい」っていうスタンスでやってきたね。
加藤と音楽
星野:前回の話でもありましたけど、加藤さんもラップやってますもんね。確か学生時代から音楽をやってたんでしたっけ。
加藤:うん。意外と思われるけれどラッパーだね(笑)。というのも、ずっと音痴だったから歌の世界なんて全く興味なかったんだけど、マイク1本で人の前に立って自分の意見やメッセージを伝える「ラップ」っていうのが、山形の片田舎に住んでる少年にとってはかっこよくて楽しそうに見えて。
『ライツ・カメラ・アクション』ってヒップホップでよく使われる言葉があるんだけど、その感覚がすごい好きになったんだよね。「ライトがあって、カメラがあって、役者がいれば全てのドラマがはじまる」って意味で。それに憧れてラップをはじめるんだよね。
ちなみにぼくがずっと子どもの頃から憧れている『スチャダラパー』っていう人たちがいるんだけれど、彼らは専門学校の時に友だちとスチャダラパーを組んで、LB Nation(リトル・バード・ネーション)っていうクルーで月に一度、下北沢のクラブとかでイベントをして、それこそそのクルーは音楽だけにとらわれず、そこに集まった人たちでいろんな表現活動をしたりしてたんだよね。今でもそれがずっと形を変えて続いてるのがすごい。
中学1年生の時からとずっとスチャダラパーのファンだったね。深夜番組にスチャダラの名前があればこっそり見たり、田舎の本屋で雑誌や本をあさったり。インターネットがなかったからひたすら自転車で街中をかけめぐって足を運んで、音楽を聴いて。今となっては恥ずかしいけど、河川敷の高架下にラジカセを持っていって曲流しながらラップして、カラオケみたいなことしてたもんね。橋の下だと声も聞こえないからちょうど良かったんだ。それが山形に暮らすぼくの精一杯のヒップホップだった(笑)。
星野:それで、東京に出てきて本格的にラッパーになるわけですね。
加藤:そうだね。スチャダラパーを真似してぼくも東京の専門学校に行て「ラップユニットを結成するぞ!」と思ってた。もはや専門学校に入学した理由が勉強じゃないし、目的が「ヒップホップをすること」じゃなくて「結成」だったよね(笑)。ただ、どうやって結成すればいいかわからないからさ、メンバー探すために喫煙所に行ってヒップホップ聞いてそうなやつをひたすら探してたね。でも結局、たまたま近所に住んでたクラスメイトとなんとなく手探りでユニットを組みはじめるんだよね。音楽好きそうだったし。で、バイト先にラップやってるやつがいてライブに誘われたりするようになって、少しずつ東京のクラブとかに呼んでもらってラップするようになって。
星野:そんなにうまくいくもんなんですね。
加藤:バーテンの並行して下北沢のライブハウスで働いてたこともあって、自然と音楽やってる知り合いがどんどん増えていた頃だったんだよね。そうすると知り合いの紹介で出演者として誘われたり、一緒にイベントを主宰するようになったり、結構つながりが増えてくる。のちに WEEKEND ってラップユニットを2005、6年に立ち上げて2012年に解散することになるから7年くらいか。割と長くやるんだよね。いわゆるインディーズだけど、アルバムもちゃんと作って。それは今でもタワレコとか iTunes とかでも買えると思う。オリジナルの曲、50曲くらいあるのよ(笑)。
星野:めちゃくちゃあるじゃないですか(笑)
加藤:MC が3人いて、DJ が1人の『3MC 1DJ』っていうオーソドックスなスタイルでやってたんですよね。
星野:ぼくはギターだったけど、加藤さんはマイク1本なんだ。
加藤:そうだね、楽器じゃない。言うならばぼくが楽器だから(笑)。
星野:かっけえ(笑)。でも解散することになるんですよね?
加藤:そうだね。もう少しで売れたのにって言ってくれるひとも多かった中で。
星野:それは惜しかったですね。
加藤:WEEKEND での一番の思い出は、みんなも好きだと思うんだけれど、フィッシュマンズのベーシストの柏原譲さんがレコーディングの監修をしてくれたことかな。ぼくらのこと気に入ってくれてそのままベースも弾いてくれたからね。ファンだったからすごい感動したよ。あとは tofubeats くんが楽曲を提供してくれたのも思い出だね。そのくらいがんばってたんだよ。もちろん仕事をしながらだったけど。
星野:音楽1本ではなかったんですね。
加藤:そうそう、音楽1本で食べていくにはまだ足りなかったから、それぞれ仕事をしながら音楽活動を週末はもちろん、平日の夜を使ってやっていた。もちろん売れるに越したことはないんだけど、でも、売れて、仕事を辞めたかと言われればぼくはそういう思いでもなかった。当時から仕事は好きだったし、デザイン関係の仕事も音楽も両方やりたかったし、どっちがどっちってこともないニュートラルな状態だった。「音楽で食ってくぞ!」って人がメンバーにいる中で、ぼくの仕事が忙しくなってきちゃって⋯だんだんライブを断ったり、ぼくだけ出番のギリギリでステージに到着したり、ツアー先でもみんなが観光をしているあいだにぼくだけパソコンで仕事したり。そこでのメンバーとのギャップがあったんだろうね。
星野:そんなに仕事が忙しくても、音楽は続けたかったんですね。
加藤:そうだね。やめるっていう選択肢はギリギリまでなかったかな。その時、海外とかでも仕事するようになってて、圧倒的に忙しいし、責任も重大で社会的にもふざけられないし、大人にならないとなーっていう時期だったから。でもそんなに会社や社会に染まらないためにと、ぼくを捕まえててくれたのが「音楽」というか。ぼくがしがみついたのは音楽だった。「ぼくはあの時のまま」「大人になんかならないよ」っていうか。「still young」って気持ちでいられるのは音楽だったんだよね。まぁ WEEKEND は限界が来てしまって結局解散するんだけど、その後すぐに当時よく遊んでいた仲間や気の合うメンバーと FFF(ファストフードファウンデーション)ってユニットを結成して、10年続いた今でも続いてる。1枚もリリースしてないけど(笑)
星野:今でもみなさんでラジオやったりしていますよね。
加藤:こっちの方がもう活動、長いね。メンバーみんなもともとラップの素人で集まってるからそもそも売れるってこと考えていないし、ただただ集まって自分たちなりに表現をしてる感じ。とにかく集まることを大事にしてる。それこそ星野くんがさっき言ってた「音楽っていうツールはみんなとつながるためのもの」って感覚に近いかな。
星野:集まるのが大事っていうのは PUNIO にもつながりますね。
加藤:じゃあ FFF(ファストフードファウンデーション)が何をやってるかっていうと、コロナ前は、時々イベントに誘われてライブしてたんだけど、コロナ禍になってからはライブはやめちゃったね。とりあえず今はみんなで定期的に集まって、飲んで語り合って、仲良くずっと遊んでよう、みたいなのはなんとなく決めてるね。今は MAD D という名前で FFF というラップユニットに所属して毎週ラジオをやっているのでぜひ聴いてみてね。というわけで、ぼくはまだ現役のラッパーですよ。
星野:ここにきて肩書きが増えましたね(笑)。
加藤:人生の半分以上、ラップしてるからね。
星野:それをこのラジオではじめて知る人も多いんじゃないでしょうか。
パークと音楽
星野:おもしろいですね。「大人にならない」ために音楽があったっていうのは共感できる人、多いんじゃないかなと思います。音楽を聴いて、あの頃を思い出したりしますから。
加藤:そうそう。卵が先か鶏が先かじゃないけど、大人になりきれないからラップをやってるのか、ラップをやってるから大人になりきれないのかわかんないけれど、いずれにせよ子どもっぽいっていうか、ふざけてるお互いを見ながら「いつまで経ってもこうだよね」って笑ってる感じが、世間的には「ダメ」なんだろうけど、ぼくらにとってはどこか救いがあるっていうか。
星野:わかります。
加藤:大先輩のスチャダラパーとかを見てると、ぼくらと歳がひとまわり以上違うのに、ステージの上でかっこいいキレッキレなラップを披露してるし、YouTube もやるし、文章も書くし、ZINE も作るし、グッズも作るし。遊びの延長みたいなことをずっとやってるし。しかも、いまだに一年に1度、20代の頃の LB Nation のみんなと集まるイベントを野音でやっていたりとかするんですよ。
星野:今でも続けてるのがすごいですよね。
加藤:ほんとね。今は解散したり引退して普通にデザインの仕事とか、映像の仕事とかそれぞれって人もいるんだけど、一年に1度、この時だけは、みんな集まってあの時の曲をやるんだよね。そういうのって、ドラマチックというか、ワンピースとかドラゴンボールとかの「ボスと戦う時だけあの時のあいつが戻ってくる!」みたいな感じでさ。それがなんかいいじゃん。リトルバードたちがそれぞれの場所に巣立っていって、でもまたいつか戻ってくるみたいなさ。
星野:そんなところにもパークギャラリーや加藤さんのルーツがあったんですね。
加藤:そうだね。だからパークでは「みんなでやる」っていうのをめちゃくちゃ意識してる。年齢的にも立場的にも、一人だけで何かをすることをやってしまいがちなんだけど。でも根っこにあるのは、LB Nation みたいに「みんなで1つの曲を作る」みたいなイズムはどこかにはあるのかなって。それにバンドも1人じゃできないよね。1人じゃできないことがすごい好きだし、とはいえ孤独も好きだし、二律背反的なとこはあるんだけれど、できるだけみんなでやりたいなって思う気持ちはあるかな。それはパークギャラリーに日替わりでたくさんのスタッフがいることや、ギャラリーをギャラリー以外の使い方をするっていう所にも現れている気がするね。
星野:なるほどなぁ。
加藤:ぼくもそうだし、PARK GALLERY もそうだし、スタッフもそうだけど、ここには『音楽』がすごい好きな人たちが集まる。それもあってパークでライブイベントも時々やったりしてる。ずっと音楽をやってきたからつながった友人もたくさんいたから、わりとぼくの人生というか、パークギャラリーから切っても切り離せないのは「音楽」かなと思う。
今週の1曲
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