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【 レビューあり 】 kirinpicnic 『ONE DAY』 愛媛県

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

ONE DAY(ある日) ⋯ と聞いて振り返れる日があるか。思い巡らせてみたけれど、どうやらぼんやりしてる。思えば30歳を境に仕事でも責任のある役職につき、戦い方も、逃げ方も、遊び方も、いいわけも上手になって、日々のすみずみを、ひたすら「なにか」が埋めて行くようになった。血管が全身にはしってるように、その「なにか」も全身をめぐる。それに気づき始めてから10年後の今日まで、あっという間だった。

地に足がついたと言えば聞こえがいいが、求められることも増え、できることも増え、少しの時間も惜しい、ちょっとでも時間が空けば何かをしたいと思うようになった。空いたら埋めるの繰り返し。悲しい言い方をすれば「ただの忙殺」。つまり「1日1日」に思いを巡らせてあげることができなくなっていた。名前のないアノニマスな『ある日』というのが見当たらない。どうやらぼくの『ONE DAY』は遠い昔に置いてきたらしい。 

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 四国は愛媛県を拠点に活動しているドローイングアーティスト kirinpicnic(キリンピクニック)さんから届いた ZINE のタイトルが『ONE DAY』だ。いつかの誰かの「ある日」が絵本のように、または、とりとめのない日記のようにたんたんとドローイングと言葉で描かれている一冊。

全ページ色紙(いろがみ)を使った、カラフルだけどモノクロームな世界はまるで退屈さと美しさのアンビバレントな共存をあらわしているかのよう。退屈が『罪』とでも言わんばかりの忙しい消費社会の中で、この作品の中の余白が心地いい。日々の中で導き出した「答え」のような「問い」のような、言葉が宙に浮かんで夕暮れの空に消えていく。

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そういえば、話は変わるけれど、愛媛の今治に向かう早朝のフェリーから見た朝日は美しかった。島と島が折り重なり、海と空と自分がぜんぶ色でつながって、ぜんぶが七色に輝いてた。

kirinpicnic さんのことは2020年の *THE BEST 展 で知った。 *THE BEST 展 ⋯ PARK GALLERY で年末に開催されるグループ展。1年のうちに制作したマイベストな1枚を出展することができる。 

 彼女の Instagram を開いてもらうとわかると思うけれど、パステルな色彩をふんだんに使ったカラフルなドローイングが印象的だったので、今回の ZINE『ONE DAY』のモノトーンのギャップがとてもいいなと思った。ZINE の中に、 

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 見えてるせかいと見てるせかい 

 という一節がある。

普段 kirinpicnic さんが描く、色彩として鮮やかな作品は「見えている世界」で、今回のようなモノトーンだけれど鮮明で力強いドローイングは「見てるせかい」のように感じた。モノクロでも鮮やか(モノクロだからこそ鮮やか)ということが多々ある。もっとモノクロームの静かなドローイング作品をたくさん見てみたいと思った。

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絵本感覚で、あたたかくて、でも時々ヒリヒリとした言葉を追ってパラパラと読むだけでもたのしい一冊です。会場でぜひ。

お風呂の中で、ぼーっと時々思ったり考えたりするようなことだなあと思って読んでいたら、最後がお風呂のシーンでちょっとだけシンクロニシティ。ドキッとした。 

レビュー:PARK GALLERY 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 ZINE について 】

平々凡々と過ぎていく日々。目の前で起きていることにや見えているモノに心を奪われる人間らしさ。その一方でいつだってよくわからない大きな宇宙の仕組みのなかで生きていること。偶然のような偶然じゃない世界に毎瞬毎瞬生きている愛おしさみたいなことを表現しました。

価格:¥550(税込)
ページ数:20P
サイズ:148 × 210mm


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作家名:kirinpicnic(愛媛県伊予郡松前町)
ドローイングを中心に作品を制作しています。生きていること、愛、自然などが主なテーマです。日常と非日常の間をのびやかにゆるやかに表現しています。

https://www.instagram.com/kirinpicnic

【 街の魅力 】
平地で田んぼが多く、空が広く見えるところ。警報がほとんど出ないところ。松山市に隣接しているのでほどよくなんでもありほどよく田舎なところ。
【 街のオススメ 】

① まつやま種苗センター松前店 ... いい苗や種がなんでも揃っていて楽しいです。

② でゅえっと ... 隣の松山市のお店ですが、おそらく昭和から続く老舗の洋食店です。ボリューミーな極甘ミートスパゲティが有名です。一度食べると定期的に食べたくなる味です。


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