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【 レビューあり 】 花村信子 『coffee girl』 山口県

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

もう10年近く前になるけれど、一人でバックパックで瀬戸内海を巡る旅をした。ちょうどこのくらいの暑い季節だったと思う。

はじまりは広島の厳島神社で、山口から夜明け前のフェリーに乗るというのと、しまなみ海道を自転車で縦断するというのは決めていたけれど、そのほかの行く先は、行った先で決めた。基本、人見知りの性格なので放っておくとホテルにこもってしまう。せっかくの一人旅だからと積極的に同じような観光客や地元の人に話しかけて、オススメのご飯屋さん、オススメの観光地などを決めて行った。話す人みんなやさしくて、電車の中で泣きそうになったのを覚えてる。

誰に聞いたか忘れたけれど、気づいたら流れ流され『錦帯橋』にいた。特に前情報もなく、有名だというソフトクリーム屋さんで買った変な味のソフトクリームを食べながら風光明媚な景色を見ていた。ベンチで隣に座ってきた女性がソフトクリームを食べながら「暑いですね」と話しかけてきて「暑いですね」と答えた。どうやら一人旅だと言う。ソフトクリームと一緒に写真を撮ってあげた。

柳井に南下し、国木田独歩の生家の近くで野宿をし、夜明け前の港からフェリーに乗った。瀬戸内海の朝焼けはきれいだとは聞いていたけれど、想像を超えた。言葉にならないくらいたくさんの色に光る、そんな美しい景色を眺めながら、一回の人生で、僕は何人の人に会って、話をして、泣いたり笑ったりするのだろうと考えたけど、眠くなって寝てしまった。そういえば山口で話した人たちの、誰の名前も顔も覚えていない。

意味のない前置きが長くなってしまったけれど、4年目にしてはじめて山口県岩国市からエントリーがあった。アクリル絵具を使った人物の絵を得意とするイラストレーターの花村信子さんによる ZINE『coffee girl』。20Pにわたり、coffee にまつわる女性たちのワンシーンが描かれている。コーヒーを飲んでいるシーンだけではなく、コーヒーを淹れる姿や、コーヒーを運ぶ姿、コーヒーが冷めてしまうくらい寝そべってる姿など様々で、コーヒーを入れる容器も、紙コップ、コーヒーカップ、マグカップやタンブラーと、種類がたくさんあって、見ていて楽しいのだけれど、コーヒーを楽しむ女性たちがみんな揃って物憂げなのがとても気になる。
こちらの気持ちを見透かされてるような、呆れられてるようなそんな気持ちになるのはなぜだろう。

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どこかの誰かが、同じコーヒー豆でも自分で淹れたコーヒーよりも誰かに淹れてもらうコーヒーの方が好きって言ってて、いいセリフだなって思ったことがあるけど、どこの誰だったかは思い出せない。物憂げな横顔だけがぼんやりと思い浮かぶ。

そういえばあの一人旅で、錦帯橋のベンチで会った女性も、どこか物憂げだったのを思い出した。花村さんのイラストの女性に似てた。名前も知らない、すれ違うだけの誰か。けれど、一人ひとりに人生があって、毎日、大なり小なりそれぞれのドラマがある。

ZINE『coffee girl』から見えてくるのは、そんな一人ひとりのドラマの断片。コーヒーに想いを乗せた女性たちの物語。

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ちなみに最後のページの女の子だけコーヒーを持っていない。タートルネックの女の子。その目線の先には何があるのか。そして、そこからどういうドラマを読み取るか。コーヒーを一杯飲み終える間に、そっと想像するのも、この ZINE の楽しみ方のひとつ。

コーヒー好きな人はぜひ。

レビュー:PARK GALLERY 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 ZINE について 】

コーヒーショップで「coffeeと女の子」をテーマに展示しました。
その作品をまとめて ZINE にしました。

価格:¥1000(税込)
ページ数:20P
サイズ: 148 × 210mm


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作家名:花村信子(山口県岩国市)

アクリルガッシュで主に人物を描いています。
MJ イラストレーションズ・山田塾卒業

https://www.instagram.com/hanamura_nobuko
https://twitter.com/nobuko_hanamura

【 街のおすすめ 】
G.Labo Noodle(レストラン)



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