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【 レビューあり 】 新多正典 『写真家のみなさん、一旦お花を撮るのはやめましょう』 京都府

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ZINE REVIEW by いのうえ あかね(PARK GALLERY)

ある日、COLLECTIVE 参加希望の1通のメールが届いた。

連絡をくれたのは写真家の新多正典さん。京都在住ながらも、パークの展示ではおなじみとも言える存在で、京都からよく遠征に来てくれていた。緊急事態宣言下ではこまめに DM のやりとりをしたり、オンラインの機能を使いながらパークのディレクター加藤と写真に関するテーマの対談を配信したり、新作の写真集などを送ってくれている。

第一印象は「寡黙で硬派な性格」。いざ会って話してみると笑いのツボが浅いのか、よく笑うひとだなぁという印象を持っている。



今回、そんな新多さんから届いた ZINE のタイトルに、少しドキッとしたのは本音だ。


タイトル『写真家のみなさん、一旦お花を撮るのはやめましょう』

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知り合った頃から、“写真” に対する姿勢や目線の向け方がとても真面目な人で、時にその考えが、わたしには難しく感じる時もあった。それと同時に、普段は考えられない「写真の見方」を感じることができて、いつも刺激的だった。


以前、「風景写真であり抽象写真」というテーマでまとめられた『ストリートスナップファイト』という ZINE を発表している。モノクロで収録された写真の数々や、紙面で紹介されている裏テーマからは、新多さんらしい「写真に対する姿勢」を深々と感じた。

『ストリートスナップファイト』の裏テーマ ...
・ストリートスナップ = オシャレなファッション写真という固定観念への抗い(ファイト)。

・風景写真ではあるけど、三脚でしっかりと構える様なスティールライフとは異なり、カルティエ・ブレッソンが定義した「逃げ去るイメージ(決定的瞬間)」のスナップを撮る感覚で取り組みました。現に立入禁止区域に入り込んでいるので余裕はかましてられない、という姿勢です。という意味でも、自分がストリートでスナップを撮ることにファイトしている、という理由でもあります。


今回の ZINE『写真家のみなさん、一旦お花を撮るのはやめましょう』は、この『ストリートスナップファイト』の製作後期であり、解読本という目的のエッセイとして作られているので、ぜひ会場に来た際は両方を楽しんでほしい。そして新多さんの写真に対する思いも「ここまで来たか!」と読みながら驚いた。

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ZINE『写真家のみなさん、一旦お花を撮るのはやめましょう』は『ストリートスナップファイト』を制作することで見えてきた自身の分析や写真業界への批判で構成されている。タイトルからは一見、他の写真家に対する攻撃的な印象を持つけれど、読んでみると理解できる部分も多い。きっと新多さんが辿り着いた正直な “写真” の在り方なのだ。

文中には『ストリートスナップファイト』の解読に向けて新多さんが集めた、自身が尊敬する人、信頼できるひとたちの言葉の引用が時々登場する(パーク加藤の言葉も紹介されている)。そこから導き出した新多さんの回答が、そのままタイトルになったというのがうかがえる。


ほぼまっしろな装丁は、大事なことだけを伝えたいがために削ぎ落されたデザインなのか。ページを開くと、淡々と記される文章。意外と難しさは感じさせない。とはいえ軽さはなく、重みさえ感じる。

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わたしがこの ZINE で印象的だった一節。

“写真集を見たこともない層に配慮して作る必要などないのだ。面白いと思うことをやってそれに共感してもらうことを目指す『ものづくりの原点』には何度でも立ち戻ったほうがいい。”


アートのくくりが乱用されているような今の世の中で、結局なにを大切にするのか、考えさせられた。


過去作では、『Explode Coração』そして『Mensageiro dos deuses』といった、ブラジルでのカーニバルの様子が撮影された2冊の写真集を出している。そこには現地人の感情が生々しく引出された表情やカーニバルの躍動感、てらてらとした街の様子を伝えている。その後、ここに紹介した『ストリートスナップファイト』『写真家のみなさん、一旦お花を撮るのはやめましょう』という ZINE が出るのだが、新多さんが持つ根っこの部分はモノクロームになっても揺らぎなく、これまで発表された写真集を振り返ってみても改めて一定の温度感が感じとれる。

いままで寡黙だった新多さんが今回ここまで言葉で意思を表明したのは、おそらく写真家である自分への決心の表しと、ただただ純粋に本来の “写真” の世界の魅力を伝えたかったからではないだろうか。

難しいことはなにもないのだ。

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写真家に限らず、写真作品の見方を知りたい人にはぜひ一度読んで欲しいこの ZINE。一見、難しく捉えがちだけれど、読み進めて見ると、新多さんが言いたいことがわかる気がする。

改めて、写真をたのしもう。

もしこのエッセイを読んで、もし感想が浮かんだら新多さんに直接伝えてみるのもいいと思う。きっと笑顔でこたえてくれそうな気がする。

レビュー:いのうえ あかね(PARK GALLERY)


---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 ZINE について 】

先に出したストリートスナップファイトの副読本(解説本)としてのエッセイ集です。また、今回はリソグラフ印刷で終始立ち会って作業をしたので、前作と同じモノクロ写真でもまったく異なるアウトプットになったとの自負があります。

価格:¥2,200(税込)
ページ数:52P
サイズ:210 × 297mm


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作家名:新多正典(京都府京都市)

京都市在住。写真業の傍ら、ゼラチンシルバープリントでの写真表現をライフワークとして活動。写真展への出展と、写真集(Photo zine)の製作を中心に。

https://www.instagram.com/nitta_masanori

【 街の魅力 】
変わった人、面白い人、能力のある人の巣窟であること。
【 街のオススメ 】
Salsiccia!DELI ... サルシッチャとワインが美味いです。たまには店主と喋ってみてください。


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