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猫背で小声 season2 | 第13話 | コメディ No.1(下)
後編。
帰り道、店でお酒を2杯ほど飲んだのだが、いつもより酔いはまわっている。
いや、「酔い」というより今日の自分のはじめての一人飲みという行動と、とても愉しかった空間が、自分の身体を侵食しているのだ。
「宵」がまわる。
家に着く。寝る。寝れない。
お酒を飲んだのに。
そんな夜もあるさ。
そんな日もあるんだね。
浅い眠りの中、夜は明けた。
少し眠っても、数時間前の出来事を想い出す。忘れられない。
不登校。
引きこもり。
精神疾患。
昨日の自分。
これらはすべて、今いる部屋の中と、この地元で経験してきたことだ。
あんなことから、こんなことに繋がる、この町がそんな町になるとは思わなかった。
この地元と、地元にあるあの店と、なにより「日本酒さん」に感謝した。
寝ぼけたまま、慣れない体験に思いを馳せ、ひとときのロマンチックな夜に思いをタラタラと垂らしていると、何を起こしてしまうのか、そして起きるのか。
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昨日飲んだお店のことをすごく気に入ったので、お店の SNS アカウントにメッセージを送ってみた。もちろん不純な気持ちなどなく、ただ単に「はじめて」を経験させてくれたお店に「楽しかったですよ」と伝えたかっただけ。
メッセージには感謝の気持ちと、隣にいた「日本酒さん」がとてもゆかいな方だったので、また話してみたいと思ったことと、日本酒さんはよくお店に来られる人なのか、という質問を送信した(ちなみに昨晩ぼくは日本酒さんの連絡先などを聞かずに店を後にしたので直接本人に聞けるわけでもなく⋯)。
しばらく経ってもお店からは返事はなく、ぼくは「なにか悪いことをしてしまったんじゃないか」と、仕事中に具合が悪くなってしまった。そして何気なくお店の Twitter を見てさらに具合が悪くなるのだ。
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うちのお店はお客さんの情報をバラすようなお店ではありません。
そして女性をナンパするような店でもないです。
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よ・く・よ・く・考えてみるとこれは、
出入り禁止を意味する、俗に言う「出禁」だ。
全身の血の気が引く。毛穴が開く。瞳孔が開く。
こんな表現では言い表せないくらい、自分が送ったメッセージを後悔した。
ナンパとか、そんな意味はなく、そんな捉え方ではなく、ただただ楽しかったこと、を伝えたかった。
ぼくのことをよく知っている人なら分かると思うけれど、今まで生きてきてナンパなどしたことはないし、そんな積極的なこと、できる男ではない。
なぜあんなことをしてしまったんだろう。あんなメッセージを送ってしまったんだろう。
だがこれが現実だ。
ここにきて「引きこもり」、つまり「経験のなさ」が如実に現れたのだ。
これは誤解だ。多分、生きてきて史上最大の誤解なのである。
ホント誤解なのである。
気が狂うほどの誤解なのである。
出禁という事実が身を締め付ける。
おそらく世界初だと思う。人生初めてのひとり飲みで、出禁。
もう、あの素敵なお店に行くことも、日本酒さんとも逢えないのである。
急にこの地元にいることがつらくなった。
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あの日から数日。会社へ行くために向かう地元駅までの道中、町のオヤジや寺の住職、上品な白髪混じりのおばあさんと、毎朝おはようのあいさつを交わすのだけれど、ふと目線をずらすと、あの店も見えてくる。そのくらい地元。
ぼくの左側には、もう日本酒さんもいない。
近くてかなり遠い店となってしまった。
かつての通学路は、
痛いまなぶちゃんの路
すなわち痛学路になってしまった。
トボトボと肩を落とし歩いて、よくよく考えてみると、ぼくはほんとツメが甘い。
そして、自分が意図していなくても『お笑い』になってしまう。
今となってはお店はもちろん、日本酒さんに迷惑をかけてしまったとわかる。返す言葉もない。
あの夜感じた嬉しさも楽しさも、たったひとつの行動で「ぱあ」となった。あの夜、日本酒さんが話してくれた「サウナが好き」という会話を想い出して、あの朝、熱い風呂にでも入ってさえいれば気持ちを落ち着かせられたのに⋯と後悔する。
今も痛学路を通るたび、身体の左側だけがホロホロと痛み出す。
でも、これだけは言いたい。
「素直に楽しかった」
これもここまで諦めずに生きてきたから。
こんな失敗談を記すことで、引きこもりからの社会復帰「10周年」となる記念作品を締めさせてもらう。
社会に出てまだたったの10年。
まだまだ「あまちゃん」だったよ。
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文 : 近藤 学 | MANABU KONDO
1980年生まれ。会社員。
キャッチコピーコンペ「宣伝会議賞」2次審査通過者。
オトナシクモノシズカ だが頭の中で考えていることは雄弁である。
雄弁、多弁、早弁、こんな人になりたい。
https://twitter.com/manyabuchan00
![](https://assets.st-note.com/img/1677750012276-crTltCLJJP.jpg)
絵 : 村田遼太郎 | RYOTARO MURATA
北海道東川町出身。 奈良県の短大を卒業後、地元北海道で本格的に制作活動を開始。これまでに様々な展示に出展。生活にそっと寄り添うような絵を描いていきたいです。
https://www.instagram.com/ryoutaromurata_one
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