COLLECTIVE レビュー #47 グーシック花里咲『INHERITANCE』(東京都)
友人が以前「ZINEって買うって決めた時がピークだよね」って言っていて、なんかやけに納得したことがある。
買う時がピークというのは、悪くいえば「帰ってからはあまり見返すことはない」ということでもある。ただ、書店やうちみたいなギャラリーや雑貨屋で瞬間的に「感動した」「激しく共感した」、または「ピンときた」りするのだろう。それはレジに持っていってお金を払う瞬間ではなく、「買おう」と「決めた」時がピークだ。
そういうぼくも、あとでゆっくり読もうというふうに買うことはあるけれど、なかなか改めて見返すことはない。10年くらい前の ZINE を引っ張り出してきて、ああ、こういう時代もあったなと思うことも増えたけれど、最近買った ZINE は、やはり、その時の衝動による。あとは、作家に向かって「いいね!」を押すような感覚にも似てる。1いいねではなく、1000円だったら1000いいねくらいの気持ち。誰が買ってくれたかも重要だけど、1つ売れたということが、作家の今後の活動に大きく作用した例を、ぼくはたくさん知ってる。精神的「いいね」が、誰かを前にゆっくり押し出す。
COLLECTIVE ZINE REVIEW #47
グーシック花里咲「INHERITANCE」
個人的に「買いたい」と思った、つまり「精神的いいね!」を連打したくなった ZINE が何冊かある。全部は秘密だけど、今回紹介するグーシック花里咲(カリッサ)さんの ZINE「INHERITANCE」はその1つ。「遺伝」を意味するタイトルのこの ZINE には日本とアメリカのミックスとして生まれた花里咲さんが抱えている大きなテーマが表現されているといえる。大人になり、親に似てくることを「子ども時代の死」と捉えた彼女の葛藤や弔意、旅立ち。ポップなイラストレーションとは裏腹に、ブラックユーモアともとれるシニカルなアイキャッチ。美しい、かわいい、だけにおさまらない、彼女の態度が絵の中に散りばめられている印象。単純に COOL だなと思った。
ZINE がそのまま自身のアイデンティティのかけらになるような ZINE を作っているひとはいまの時代貴重だし、かっこいいなと思う。ZINEを作ってるひとたちの中でも ZINESTER と呼んでしかるべきクリエイターであり表現者。その前にひとりの人間だという、そういうラインにあるメッセージがしっかり取れる ZINE 作品だと感じた。
カルチャーに思いを馳せて語ることと同じくらい、自分の命や流れている血に思いを馳せて、小さな声でもいいから語るべきなのだ。
あいにく英語がまったく苦手で、内容を理解しきれてるかは自信がないが、そこに理屈はいらない。「買おう!」と決めてレジに行きたくなるような ZINE だと思う。COLLECTIVE で ZINE を買うことは、作家に対する大きな「いいね!」につながる。
彼女のインスタグラムではイラストレーションだけではなく、刺繍や洋服の作品も見ることができます。多才な彼女の今後に「いいね!」を送りたい。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
コンセプトは遺伝と子供時代の死です。自分が大人になると両親と似てる所がよく見えてくる事、それと同時に子供の自分が消えて行く事がテーマです。
🙋♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁♀️