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世界を震撼させた詐欺師の話

フランス人アート・ディーラーの信じられない詐欺事件
40年にわたって売っていた美術作品、実はほとんどが偽物だった
ずっと詐欺師と言われ続けていたのに、なぜ捕まらないのか

5年程前、鑑賞者で溢れかえる美術館に警察が立ち入り、展示中のクラナハ作品を押収するというスキャンダラスな事件が起きた。作品は「偽物の疑惑があり、文化遺産保護法に違反する」という理由で没収され、今でもフランス国内に保管されているのだが、持ち主であるリヒテンシュタイン王国皇太子は作品は本物だと主張しており返還を訴え続けている。

2年前、パリにあるジャックマール・アンドレ美術館がアラナ・コレクション展を開催する際にも同様の事件が起こっている。国立修復研究センター専門家やフィレンツェ絵画専門家により本物認定されている作品にも関わらず「偽物の疑いがあるから」という告発が相次ぎ、警察沙汰になった。

この2作品から浮かび上がる人物がいる。アートディーラーのジュリアノ・ルッフィニだ。

匿名の告発が相次ぎ、フランス警察は重い腰をあげた。イタリアの豪邸に住むルフィニはイタリア警察からも家宅捜索を受け、洗濯機の横に隠しドアが見つかりその裏には隠しアトリエが発見された。大量の美術本などすべての資料は押収されたが、偽物絵画を制作しているという確実な証拠がないとしてその後すべて返品されている。

しかし脱税で捕まった。ルフィニは農家と自称し年間80万円程度しか自己申告していなかったが、約2億5千万円もを息子に贈与した証拠が見つかり、数億円の資産が銀行口座に貯蓄されていたことも発覚した。行政上はベルギーに住んでいるらしい。

ルフィニの人生

1945年にパリの庶民的な地区に生まれたルフィーニ、16歳で家を離れ独自で絵を学びレストランの前などで絵を売りながら生計を立てていた。その美しさからジャン・コクトーに寵愛されていた過去もあるが、路上生活も長かったらしい。20代になると女性パトロンの寵愛を得てパリの高級エリア・ヴォージュ広場で骨董商を営むようになる。そのパトロンが残した遺書のおかげて、ルッフィニは美術品や家などの財産を得たとのこと。その作品の中に巨匠の作品が含まれていた(と、ルフィニは言っている)。作品の鑑定書なども残されているので、本物であると信じるしかない(が、その鑑定書が本物であるかどうか今まで調べる人はいなかったようだ)。

詐欺師?手品師?

アートディーラーになった初期はフランドル派の小品を売っていたらしいが、徐々に名作を販売するようになる。なぜルフィニは定期的に超希少作品を出品することができるのか、ディーラーや専門家界隈で怪む人は昔からいたらしい。しかし誰も何も言えなかった、なぜならジェンチレスキもフランス・ハンスもクラナハも専門鑑定士が調べても偽物とわからないくらい完璧だったから。完璧さは素材にも及んでおり、中世の作品には中世の木や当時使われていた顔料、ニスなどが使用されていた。

ルッフィニの家の近所には歴史絵画修復士フロンジャという男が住んでいる。フロンジャは元大統領セルビオ・ベルルスコーニの文化遺産を管理していた男と仲がよく、またテレビでは人気のタレントだったらしい。ルフィニとフロンジャはとても仲が良く、共犯していたと推測されている(が、証拠はない。)イタリアの重鎮と近しい人物が関わっているということは、フランスでの調査が難航することも意味している。

ルフィー二の旧友フェリヨンはルフィ二作品の配達員をしていたと証言して話題になった。ルフィ二にとてもよく似た詐欺師を主人公にした小説まで書いている。と、同時にルフィ二の所蔵作品を勝手に転売した過去が暴露されてしまい世間から非難された。ちなみに勝手に売った作品は、今ニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されている。

種あかし

美術作品を売る際は鑑定書以外に収蔵者記録を求められる。ルフィ二は自分が収蔵者では怪しまれてしまうと知っていたので、あえて作品をなんども転売させルフィ二が元手になっているという事実を調べられないように工夫していた。

ルフィニの作品はロンドンナショナルギャラリー、ニューヨーク・メトロポリタン美術館、ルーブル美術館などに展示されている。目検調査した結果、怪しい点が発見されたものの、偽物か否かを一発で検査できるX線調査をなぜか行っていない。権威ある美術館がまんまと偽物を買ってしまったという事実は都合がよくないのだろう。

まるで全員が共犯者といったところ…もう5年も経つのに進展がないのはおかしいと非難殺到で、真相解明が急がれている。


2020秋からフランス国内の展示会視察や企業訪問をしながらレポート記事を投稿していく予定です。現在その資金が必要なのでサポートをお願いいたします!