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ライブの裏2

お笑い芸人の下積みを見てくれ。
積まれてんのかわからないが。

そうしてやってきたブルゾンちえみさんの単独ライブ本番当日。お手伝いの勝負どころだ。


お手伝いは朝から始動。とにかく今回は草月ホールという会場がでかく、そのうえセットで階段を作らないといけないこともあり、設営組は大忙し。


ちなみに設営はお手伝いだけでやるものではない。
舞台の設営を請け負っている会社があり、そこに依頼しているのだ。音響照明も同様だ。うちから出るお手伝い自体は8人くらい。委託の方の指示に従って物を搬入し、セットし、解体する。

これがまた厄介な話で、当然こちらは舞台の設営なんぞ数えるほどしかやらないので物の名前や設置の順番、もっと言えば箱のどちらを上に向けてどう持てばいいのかもわからないのである。
自分の住んでいるマンションが何から作られるかなんて知らないでしょう。
それなのに委託の方ときたら
「使えないなぁ」
みたいな顔で我々に指示をしてくるのだからお角が違う。
全く教えられてないことについて
「考えればわかるでしょ」
というのはただの自己本位にすぎない。1を知らずに10を知れというのは宇宙に放り出してるようなもんだ。
いや、実際に委託の方も怒っているわけではないのだろう。その瞬間口調が強くなるだけだ。こういう人はいる。母親をはじめとするおばちゃんとはそういう生き物だ。その場で怒り散らかして、こちらを嫌な気持ちにさせたが、5分後には何もなかったような顔で話しかけてくる。現場の方はみなこんな感じだ。全くお手伝いをゼロにするか、お手伝いにお金を払うか、マニュアルや基礎授業を設けるか、委託の方との契約をしっかりしてドライな関係にするか、であろう。業界的にドライにするのはよくないんでしょうが。

では、舞台づくりについて紹介しよう。
興味がなければ本当につまらないぞここからは。

舞台の設計は事前に委託のトップに図面が配られる。そこに舞台の尺、セットの大幅なサイズと配置が書かれている。それをトップが覚え、必要な動線を考え、当日を迎える。

まずは搬入。今回だと大型トラック一台とワゴン一大。
大型トラックに照明、音響、舞台がごったになって入っており、トップと運転手さんが中から外へ中継し、トラックから会場へ下っ端が運び、一通り舞台上なり客席なりに荷物を出す。

出し終えたらここからは舞台だけの作業。まずはパンチを引く。平たく言うと黒いくて長いカーペットだ。大体150cmくらいの幅で、10m弱のものを三枚ひいていく。これを強い両面テープで板に張り付け、しわのないように足でづっかづっかする。

次にスクリーンだ。今回は白い幕に投影するのでこれは後回し。

続いてはでかいもの。組み立てていく系のものだ。今回は階段。大体高さ150cm程度の床をつくり、そこに階段をひっかける。この階段が重いのなんの。全員がかりで柱をさし、階段をかける。え、こんなんでいいのかよ、ってくらい構造は簡単。階段と上ステージを作ったら、横から降りる階段をひっかける。今回は幅のとりミスでここがいびつに。

その後は袖づくり。舞台によってはあらかじめ袖があるところもあるが、ホールはおおよそない。舞台に斜めに入っていくこの壁がないとはけたり着替えているところが丸見えになる。これは黒いパネルに足をつけて、ねじで繋げておく、というこれまた簡単な構造。
あとは今回の要である舞台上の幕を設置。幕は上からつるされる棒に片結びしていき、もちあげるだけ。こんなんでいいのかってくらい原始的に舞台はできあがるんだね。

全体はワタナベの総監督的な先生が常に客席から出来栄えを眺めており、幕にしわがある、階段がずれてる、などを指示して調整。


こうして文句をたれてながらも舞台ができる。天才だよ。

いや、こうして書くとどこで大声を出されるのかまるでわからないと思う。ポイントを一つ書くならば、幕はかたむすびしてあげるだけ、と書いたが、その結び方一つとっても、紐が裏を剥いているか、一つを5秒くらいで結んでトップが上に持ち上げたいタイミングですべて終わっているか、しわが寄っていないか、棒に対してあまった布はどう処理しているかなどを気にしなければならず、いやそんなの気分も入るじゃん、って話になる。困っちゃう。

さぁ、いよいよライブがはじまる。
今回のライブはとにかく忙しい。

まず演目がトータル20弱あるのだ。何それ。

というのも、一つ一つが曲に合わせて踊ったり、セリフを言ったりする、半ばミュージカルに近いものであるため、あっという間に終わってしまうのだ。また、途中には過去披露した一分ネタを三本続けて行うコーナーもある。
上記の通り、小道具や衣装に関してもめまぐるしく変わる。
ラストにはおなじみキャリアウーマンのネタが披露され、それまでにブリリアンさんの背中におなじみの文字を書かなければならない。だが、あざわらうかのように服を脱ぎまくる二人。書ける暇はほとんどない。

開演直前。
「なんか、下ネタばっかりになっちゃったな。大丈夫かこれ?」
と口にしていたブルゾンさんの耳に
「うぅぎゃぁ~」
と子供の声。
「あぁー。子供がいる!見ないでくれ!笑えないよ!なるべく子供いないでくれ!」
と予定外の心配。


そんな心配をよそに開いた幕は客の歓声をあおる。
集まったファンのほとんどは女性だというが、さすがに見方がわかっているのか、その歓声は「おおー」でも「うわぁ!」でもなく「フゥゥゥゥゥッ!!」だ。ダンス部ってこういう声だすよなぁ。


頭からブルゾンさんのセリフはウケるウケる。

もしかすると練習や台本を見ただけでは「つまらない」と思うかもしれない。いや、それも仕方ないのである。
たとえば小学生が言う「うんち漏れた」と総理大臣が言う「うんち漏れた」ではおもしろさが全然違う。どういう誰が何を言ったか、そしてそれを客がどう見るか、これがあるだけでセリフというのは生きるし死ぬ。

ブルゾンちえみというキャラクターをフリにして
しかも自らが書いている台本だ、と考えられる素晴らしい客が見るのだから、ただ男が4人ひざまずいてブルゾンさんに赤いバラを差し出すだけでも笑いが起きるのだ。この人のすごいところはそれを生むところだ。いや、売れてる芸人はみんなそうか。

あとはブリリアンさんへの愛情もすごかった。
ダンサーさんがやったらかっこいいだけの役をブリリアンさんがやるだけで笑ってくれるのである。家族感。

私が出たネタは比較的お笑いよりのあるあるネタ。
私の役はブルゾンさんのつむじを推して大声を出されたあと、ビニール袋をかぶってパンとコーラを持ったブルゾンさんにピョンピョン跨がれる役だ。意味わからないし、意味わからなかった。

注目の早着替えゾーンもあっという間にきた。
あの四コマ漫画を思い出させることなく完璧に着替え、満足のパフォーマンス。プロ。家でいっぱいズボンおろしたのかな。
このネタは特に道具だしが大変。
上ステージにDJブースを設置し、はじまったらはけ、シャワーヘッドを回収し、パネルを出し、パネルと服をうけとり、バスタオルを受け取る。山だが我々転換組も敏腕ぞろい、ノーミスクリア。ひらがなかよ。

途中ブルゾンさんが作詞した歌も登場し大盛り上がり。
いい歌だった。
配信されたらもらいたい。
あと社長のアドバイスがものすごい効果的だった。実は一度だけ社長がリハを見る回があり、終わってからこのパートのダメ出しを入念にしていた。
いや、社長てお笑いの人じゃあるまいし何をダメ出しすることがあるのさ
と思ってたがバカなのは僕でした。
曲の雰囲気に見事にマッチした、以前よりもふんわり、しかしクールな西洋感を足した振り付けに変わったのだ。ここに天才がいた。

そしてブリリアンさん二人に文字を書く時間。
汗!とにかく汗!ダンスの連続に汗をかくのはわかるが!
拭かないとマジックがうつらない!
あとリハの段階で、どうしてもブルゾンさんが下書きをする、という話が出ており、一体どれだけこだわりのある書体なのだろうと思ったら絵しりとりくらいざっざっと書くじゃないか。いや、これなら下書きなくてもよかったよ。
途中汗のせいで書けない時間、人であることを忘れてガンガン線ひいてしまった。ちょっとだいきさんの肌赤くなってた。すいません。

ブリリアンさんだけのパートもあった。
サスケの青いベンチを流しながら、ブルゾンさんへのメッセージを読み上げるネタ。二人でかけあうように叫んでいき、最後は歌を歌うという流れだった。流れだったが、途中でだいきさんが固まる。下を向いてしばらくしたあと、何も言わずにコージさんのターンに。
あ!!!!!飛ばした!!!!!
と袖で一同が感じたが最後、二人は予定よりも早く
「このこーえがー、」
と歌いだしてしまう。それじゃ練習してない歌詞のパートになっちゃうよと思うも遅く、ぐちゃっとした声が響く。
そして着替えを終えたブルゾンさんはモニターを見る。
「やっぱこうなると思ったんだよ。全く。」
母親のようだ。
慌てて帰ってきた二人は口角が変にあがり、ダンスしてないのに大汗がかかれていた。
「やっちまったなぁ。」
「これは怒られる。」
いや日ごろどれだけ尻に敷かれてるんでしょう。

実はお手伝いも今回は異例の登壇があった。
最後にほぼ全員でグッズ紹介をするコーナーがあったのだ。やさしい。
ここのダンスが一番よかったなぁ。ダンサーさんのダンスパートほど見てられるものはない。本当は戦ってほしいけど、戦ってるくらい動くからいい。

そうしてすべてを35億で締めて大拍手のまま終了。
袖から見てたけど、カーテンコールとか、アンコールあるんじゃないか、と一瞬思うほどエンターテインメント性抜群のライブだった。
20ネタが一瞬だった。
耳に残りすぎる。
流行りそうなところがいくつもあった。
うん。
お笑いライブじゃないな。
新しいジャンルだ。圧巻。

こうして幕を閉じた単独ライブ。
二日目は特に事件なし。

さて、ここで単独ライブのお楽しみをもう一つ紹介。
差し入れである。
有名な人になればなるほど差し入れの豪華さがレベルアップする。
もちろん本人あてに届いているのだが、スタッフさんのことも配慮してくれた量なので、本人たちの「どうぞ」を皮切りにいただくいただく。
基本的にはテレビ局の方や芸能人からであるが、ファンの方も大量にいれていただけることもあってありがたい。
定番なのは洋菓子やエナジードリンク。ケーキやシュークリームなど生菓子が来た時は盛り上がる。
今回の目玉は苺。すごかった!レッドなんとかっていう。でかめのいちご。これが甘いのなんの。デザート。甘すぎる。しかも4箱くらい。あとはおいなりさんとアナゴ寿司もおいしかった。こういうご飯系は喉が渇くし、お弁当も出るからあれだけど、あれば本当にうれしい。日持ちするそういう系だと余計うれしいなきっと。オロナミンCとかはいくらあってもうれしい。
本人あてだけどワインやアロマ、手帳の差し入れもあって驚いた。いや、プレゼントかもはや。


無事に単独ライブが終了。
片付けは急ピッチで行われ、搬入よりも急ピッチで怒られる我々。慣れたもんです。

オフレコだがリハから参加してる組は打ち上げにも連れて行ってもらえた。肉だよ肉。こんなコースで出てくるうまい打ち上げないよ。店員さんかわいかったし。ダンサーさん誕生日パーティも兼ねるし。最後まで抜かりなくブルゾンさんだったな。しかもひとりひとりにお手紙くれて。みんな大好きになっちゃったよ。もう。



はー書いた。
これが芸人の手伝い。
舞台を作って舞台をばらす。
演者さんにおこぼれをもらい、ねぎらわれたら喜ぶ。
労働の権化。


ただ、まだわからない。
いつか売れてこの話をする時がくるかもしれない。
そうなったらお手伝いっていいもんだぞって言ってあげられる。先輩にも先生にもありがとうございましたって言えるな。
そんで後輩にお手伝いさせるんだ。
それまでに絶対うまいバルを見つけといてやるんだ。

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