砂漠 読破

地味に時間がかかってしまったが読み切りました。砂漠。

時間がかかったのはつまらなかったとかでは決して無くて、どちらかというと読み切るのがもったいないなー、という感覚だったと言える。

物語を書く上で起承転結が大事なのは、読者を世界観に引き込む要素が必要だからだと思う。どうなるんだろう、何が起きるんだろうっていう好奇心と創造力こそが、読破後の「面白い」とか「楽しかった」に繋がるんだろう、と思っているのだけど。

伊坂さんの作品は、何てことない日常が既に面白い。

今作砂漠も、もちろん水面下では色んな事件が起こっているのだけど、一つ一つ、季節ごとにあげられているエピソードはとても地味で、言うならば一大学生の日記を読んでいるような心地になる。

でも、それに凄く惹かれる。それってとんでもない才能だよな、と畏怖してしまうほどに、どうってことない会話と毎日が面白くて、惹き込まれてしまう。作中、南という女子大生の台詞「鳥井君の誕生日、明後日なんだ。中学から変わってなければの話だけど」という一言の含有力が凄まじすぎて、羨望やら憧憬やら色んな感情が渦巻いてしまった…。センスを浴びれた…。

当たり前ながら人の誕生日が年月で変わる事はなくて。その皮肉めいた文章のユニークさに加え、この一文だけで女性が「中学時代から、鳥居という男の子の事を気にかけていて、なおかつ一歩踏み込んだ関係にはなっていない」のがわかってしまう。作中こんな仕掛けが山盛りなんだもの。物語の緩急が多少緩やかでも何も気にならないに決まってる。

決してのめり込んでやめられないような、続きが気になるような作品で無いにも関わらず、これだけの人気を集めているのに、ただただ納得。

人気がありながら、映像化していないのにも大変好印象。現実的に不可能という意味ではないけど、これを映像化するのは困難だろうなぁ。伊坂さんだからこそ描けた世界、面白さ。そこにあるのは見せ場とか盛り上がりじゃなく、在り来たりな日常を如何に楽しく捉えるのか。その姿勢だと思うので。

……あと単純に季節章分けの至極単純なミスリードに面白いくらい引っかかってしまったの…ものすごくやられた……って気持ち。読み返したくなっちゃうわね…これは…。くそう。