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アンチェロッティ解任の内幕について その3

前回まではこちらを

アンチェロッティがこれまで率いてきた欧州の大都市にあるようなメガクラブとは違い、地域性に拘るナポリではチームカラーやアイデンティティーが未だに重んじられる。時代錯誤と思われるかもしれないがナポリという街と人々がチームを支えている限りこの図式が変わることはない。
そういう意味ではナポリ出身ということだけでもサッリ前監督はファンを喜ばせ、勇敢な選手による小気味の良い攻撃的なサッカーはマラドーナ時代からずっと長く続くナポリの伝統である


アンチェロッティのナポリ監督就任会見の際の言葉に
地域性に根差した長期的視野と野心があるプロジェクトに賛同した
とあり、メガクラブとは一線を画し家族的経営でカンパニズモを重んじるナポリの特徴はアンチェロッティの新たな挑戦意欲を掻き立てるものとして十分だった。
完成したスーパースターばかりのチームの調整役
このアンチェロッティの一般的評価を自ら覆してみたかったのだろう。
前任のバイエルンではメガクラブ特有の力の論理が働き思うような指揮をすることができなかったと退任後に語ったことから、スーパースターのいないナポリでは思う存分自分の力量を発揮できる環境だしフロントの支援も受けられると思ったはずだ。

今回はナポリのチーム戦略を担うSDのクリスティアーノ・ジュントーリにサッリ時代からカルロ体制に移行したこの一年半何が起きていたのかスポットを当ててみる。

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ジュントーリSDとADL

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1.ADL時代、ナポリの躍進の鍵はSDにあり

2015年の夏からナポリのチーム強化を担うスポルト・ディレットーレ(以下SD)を努めることになったジュントーリ。
その卓越した「相馬眼」で若手の有望選手を見抜き低予算のカルピの躍進を支えた手腕が高く評価されナポリに招かれた。
ADL時代になってからナポリがセリエCからセリエAのトップチームに返り咲けたのはこれまでこの役職についた人材に恵まれたからに他ならない。

少し時を戻しベニテスが指揮を執った初年度の2013年、カヴァーニの売却益を手にしたナポリはその資金を元手にイグアイン、アルビオル、カジェホンの3選手をレアル・マドリーから獲得した。
スペイン人のベニテスに率いられチームの国際色がさらに増したナポリはコッパ・イタリアを制しカンピオナートでは3位でフィニシュしたものの、ベニテスは同時にカピターノであったパオロ・カンナヴァーロの追放をするというナポリっ子の気持ちを逆撫でするような大胆なチーム改革を行う。
さらにはマスチェラーノやフェライニ等大物選手の移籍を要求するなどナポリのチーム予算を度外視した発言をしたり、パオロの後任でカピターノになったハムシクを控えメンバー扱いするなどをし、ナポリのアイデンティティーを無視するかのようなチーム作りが原因で当時SDだったビゴンやADLとは徐々に折り合いが悪くなっていく。
2期目に入ったベニテスに率いられたナポリはスーペルコッパを制すがカンピオナートでは最終節でラツィオに破れて5位に沈みチャンピオンズリーグ出場権を土壇場で逃してしまう。これがきっかけでADLはベニテスに見切りをつけマッザーリ時代で成功した有望な若手選手を発掘して補強していくという以前のチームの方針に再び舵を切る。

2.無名の2人に託す

前置きが長くなったがジュントーリがナポリに就任したときはこのような背景があった。
同時に招かれたサッリ監督も低予算のエンポリで実績を残してたことは一部戦術マニアの間では高く評価されていたものの、世界的にはまったく無名の監督であった。
この無名の2人にナポリの命運を託すADLの大胆な決断は欧州のビッグクラブで実績のあったベニテスの体制がまだナポリには時期尚早であったことを図らずも証明する形となった。

前任のSDマリーノやビゴンが発掘し、無名選手からナポリで活躍し世界的に有名選手になった例はマッザーリ時代のトリデンテ、ベニテス時代のスイス三銃士、メルテンスやクリバリーなど枚挙に暇がない。
僅かな元手が莫大な市場価値に様変わりする錬金術の魅力に最も嵌ったのはおそらくアウレリオ・デ・ラウレンティス会長自身であろう。
その会長の心を満たすチームの強化方針に則りジュントーリはさっそく精力的に動き出す。
サッリはサッリで大型補強には関心をあまり示さず手持ちの札で何とかするということもジュントーリにとってはラッキーであった。
つまりカルピでしていたことを予算が少し潤沢になってはいるがそのままナポリでも継続すればいいだけなのだ。
まずウディネーゼで頭角を現し始めていたアランをいの一番で獲得
続いてスパーズからキリケシュ
バイエルンで出番がなかったレイナを呼び戻し
サッリの古巣エンポリからはジエリンスキとヒサイ、ヴァルディフィオーリ、トネッリを次々に獲得。
翌年にはトリノからマクシモビッチ、ボローニャからディアワラ、ディナモ・ザグレブからマルコ・ログの若手有望株
イグアインが強奪された穴をアヤックスで頭角を現していたミリクで埋めたのは例外としてサッリの教え子枠であるトネッリとヴァルディフィオーリ以外は3期目のウナスやユネスを含め国際的には無名の若手選手ばかりであることがよく分かる。

サッリ時代にジュントーリが目を付けて獲得した選手でレギュラーに定着したのはレイナとアランとヒサイだけで、殆どの選手は実質バックアッパーに過ぎなかった。
これはサッリがチームのレギュラーメンバー固定化によるコンビネーションの醸成に拘ったからであり、ジュントーリとしてはカルピ時代に比べ自分の仕事がチームに反映されず、やり甲斐を感じることはこの時点ではあまり無かっただろうと思われる。


3.ジュントーリ、黒子から表舞台へ

サッリはテクニカルチームをエンポリ時代からの盟友できっちり固め、またカンピオナートに於いては良いチーム成績を出し続けていたことからチームの強化責任者であるジュントーリのサッリへの戦術的な口出しは自分の記憶している限り皆無に近かったはずである。
唯一不満があるとすればセリエでのナポリの強さが欧州舞台では発揮できないことだったのではないか。
これはイタリア国内のコンペティションしか戦ったことがなく欧州カップ戦の経験のないサッリの弱点であり、原因がはっきりしている。

サッリがチームを離れたことによってそれまで黒子に徹していたジュントーリはSDとしての手腕を心置きなく発揮できるようになるのであるが、
アンチェロッティもバイエルンでビッグネームの選手たちを纏め上げるのには辟易していたこともあり、またハムシクを主体としたチームでしばらくはサッリの路線を継承し徐々に改革していきたいと希望したこともあって夏のメルカートはベティスからファビアン・ルイス、ウディネーゼからメレトと2人の若手の有望株
ローマで出番を失いかけていたマリオ・ルイ、リールからケヴィン・マルキュイ、ボローニャからシモーネ・ベルディと中堅で実績のある選手
レイナの抜けた穴を埋めるためアーセナルからレンタルでオスピナと獲得をするだけに留まった。

前回触れたようにアンフィールドでの惨敗はイタリア国内に特化したサッリ体制をそのまま引き継いだことの限界を示したものであり、ナポリは国際舞台での経験が豊富なアンチェロッティを招聘した意味を示さなくてはならない状況に陥った。だが冬の移籍では結局動かず、夏にカルロの実績に見合うだけの大型補強をするとADLは宣言をする。
ここで注目したいのは夏のメルカートで大型補強すると宣言したADLとジュントーリとアンチェロッティの意中の選手がそれぞれ割れていたことである。
メディアで報じられていることを鵜呑みにすれば
ADLはイカルディ
アンチェロッティはハメス・ロドリゲス
ジュントーリはマノラス、ロサーノ
このように意見が割れており、結果的にジュントーリの意見が通った形になる。
さらにエルマスとディ・ロレンツォは従来のチームの方針の通り若手の有望株としてジュントーリがリストアップした選手である。

アンフィールドでの教訓を活かすのであれば欧州トップレベルの強度に耐えうるフィジカルを備えた選手を要所要所に配置することであるはず。
その点だけ見ればマノラスとディ・ロレンツォは申し分のない補強で、決定力はあるがムラっ気のあるイカルディ、王者としてのメンタルは申し分ないけれど強度への耐性やチームタスクの遂行に関しては疑問符のつくハメス・ロドリゲス
ジュントーリはチーム強化責任者として会長とアンチェロッティの儚い希望を諦めさせて現実路線として自分の主張を貫き通したのである。
一部ではロサーノはアンチェロッティの希望だったと報道されているが、適正ではないポジションでの使われ方を見れば分かるようにジュントーリのリストアップした選手で間違いない。

インシーニェ、ジエリンスキ、ファビアンがなかなか安定したパフォーマンスを続けられないのはこのロサーノと同じく適正ではないポジションの習熟に苦しんでいるからで、アンチェロッティの打ち出すポリバレントな選手によるオーソドックスなスタイルが長いシーズンを乗り切るべくナポリに穴のない選手層を生み出すとの主張も一理あるが、現有選手の適正に見合わないものであればそれは理想論にしか過ぎない。

アンチェロッティ体制になって2期目の夏はハメス・ロドリゲス獲得に関するニュースが賑わう中で既にチーム首脳の考え方に大きな亀裂が生じていた。
理想と現実
ジュントーリの冷徹な目はカルロの矛盾を既に見抜いていたことになる。
そして問題は一向に解決しないままシーズンは開幕した。

つづく




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