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「奇特な病院」うそつき科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第42外来:うそつき科(担当医 冷泉エミ)

「私はね、とても人に好かれているの。だって昨日だって、男性に告白されたのよ。きっと私が優しいからなのね。今日は、これからお友達のところに、お菓子を届けるの。毎回とても喜ばれるのよ」
「そうなんですか」
 私は、その話を真剣に聞いていた。
「はて?」
 私は、思った。ここは、うそつき科ではなかったか?なぜあの人は、この科へやってきたのだろうか。彼女はこうも言っていた。
「私は、きつねのキャラクターが好きでね。いつもきつねの服を着ているの」
「はて?」
 私は、思った。バックも服もキーホルダーもどこにもきつねのキャラクターの描かれたものなど身に着けていなかったではないか。
「やられた」
 と思った。全部彼女のうそなのだ。
「まんまと騙された」
 その話を年上の看護師さんにしたところ、こう言われた。
「うそなんて誰でもつきますよ」
「そういうもんなんですか?」
「自分にうそをついてしまって、思い悩む人なんかいませんよ」
「そうですか?」
 私は、なるべく自分にうそをつかないように生きなさいと教えられて育ってきたような気がするが。私だけなのか。
「噂話を聞いたよね?」
 と友達に聞かれて、その友達を傷つけてしまうから、
「聞いてないよ」
 と答えて、思い悩むのは、私だけなのか。
 そもそもこのうそつき科は、うそをつく人がいないと成り立たない科だ。
 なんで院長はこんな科を作ったんだろう。知り合いに小説家でもいるのかしら。
 私は、その疑問を直接、院長にぶつけた。
「なぜ私がうそつき科担当なんですか?」
「一番うそをつきそうにないからだよ。だって患者さんもうそ、担当医もうそ。それでは、何も解決しないじゃないか」
「うそつき科は何か解決できるんですか?」
「それは、うそをついている人を観察してみなさい」
 はい。そうします。興味が湧いてきたので。騙されすぎませんように。

 お大事に。

(第43外来は、秘密科です)

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