見出し画像

「奇特な病院2」褒めたい科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第28外来:褒めたい科(患者 藤原透子)

 自分から自分のやってることを「あれもこれもやってます」とアピールしないと、なかなか頑張ってることを褒めてくれる人のいないことは、わかってるつもりだ。
 私は、それを重々知っている。
 大抵、大変だったねと気づかれるのは、人の何倍も働き、ギリギリを超えたくらいになってから。ぶっ倒れるまでやって、やっと何も愚痴を言わない人が、頑張っていたことを周りが知る。
 就職の面接で、ほんとうは、バイト先でも、家族にだって、みんなを誰一人置いていかないように気を配り、時に、冗談を言って、笑わせてますと言っても信じてもらえるかわからない。
 そんな風にやってますよ、こんなことを頑張ってますよと言わないのが、粋だと考えていたら、どん詰まりの苦悩が残った。
 でも、そうやってたら、アピールすることが、不得意になってしまって、何も言わずに一人で傷ついて、誰にも相談できずに、抱え込むことが多かった。
「元気ないね?」
 とギリギリ手前で気遣ってくれる人もいなかった。
 とうとう、私がふさぎこんで、家族が、「褒めたい科」を予約したと言ってきた。
 私の気持ちとしては、何を今更って感じだけど、家族に今の気持ちをぶちまけてもわからないだろうと思って、素直に受診することにした。
 先生は、一通り私の話を聞いて言った。
「話終えて、いかがですか?話す前と変化はありますか?」
「そうですね。粋だとか、ちょっと自分に格好つけてたかと思います」
「誰にも頑張りが伝わってないとお思いだったんですか?」
「そうですね」
「でも、ご家族がこの科を薦めたんですよね?伝わってたんじゃないですか?」
「そうですか?」
「藤原さんは、素敵ですよ」
「素敵?」
 そんな言葉で片づけて欲しくなかった。
「粋だと言って欲しかったです。なんか私、ずっと格好をつけて、頑張って、少し自分に酔ってたのかもしれません」
「そうですか?誰かのために必死に気を遣ってきたんですよね?」
「でも、気づかれてなかったから。気づかれずに格好よくやってのけるのが理想で、それを望んでいたはずなのに、最後に求めるなんて素敵じゃないです」
「そんなこと考えない人もいますから」
 と先生は言って、最後に本当に優しく微笑んで言った。

「お大事に」

関連投稿
「奇特な病院」褒めたい科|渋紙のこ (note.com)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?