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「奇特な病院」他人のせいにしたい科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第22外来:他人のせいにしたい科(担当医 新山伸介)

 うまくいかない人生の理由を。
 失敗した理由を。
 失恋した理由を。
 今、つまずいた理由を。
 胃もたれする理由を。
 全部、自分ではなく、他人のせいにしたい!
 あぁ、それでいいさ。
 それで気持ちがすっとするのならば。
 でも、ずっとそのまま他人のせいにして生きていくと、いらいらは、避けられないかもしれませんとお伝えする。
 それでも、お金のない理由を他人のせいだと続けて話す人もいる。
 根底には、自分は悪くないと。
 それが、根底にあり、自分の非を認めると、「存在意義が揺らいでしまう問題」を引き連れてくる場合がある。
 他人のせいにすることで、自分が自分であることを守っている。
 そうだ、終始自分を責め続けるより、他人のせいにしてしまう方が、健康的な反応かもしれない。すべては自分を守るため。
 ずっとあなたが悪いのよと言われ続けたら、もう一つ、ささいなことを自分のせいだと言われたら、死にたくなってくるかもしれない。
 それなら、私は悪くない。
 私は、何もしていない。
 それは、私ではなく、あなたのせいだと。
 言い返すぐらい許されていい。
「先生、私が悪いんですか?」
 そう質問される患者さんも多い。
「それは、なんとも言えませんが、一つ、僕に言えることがあるならば、誰かのせいだと考えながら生きるより、誰かのおかげでこうしてあなたが今、生きていると考え方を変える方がずっと楽になりますよ」
 患者さんは、大抵きょとんとされる。
 誰かのせいより、言葉だけでも、誰かのおかげと言い換える。
 少し肩の力を抜いて、楽になってくれればいいけど。
 他人のせいという言葉に含まれる怒りは、体力を消耗するから。
 あなたのおかげで、私は苦労していると胸を張って、嫌味たっぷりに。
 あなたのおかげで、私は、生きている。
 そう思うことはできますか。

 お大事に。

(第23外来は、人の顔色を読んでしまう科です)

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