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「奇特な病院2」いらいら科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第2外来:いらいら科(患者 石川ひろみ)

 ああ、もうなんでこの科こんなに混んでるのよ。
 私のいらいらを治しに来てるのに、さらにいらつかせてどうしようっていうの。
 それとも、私に忍耐力がないということをわからせるためにやってるの?
 ほら、他の患者さんたちもいらいらしてて、あの席に座ってる人なんか4回も自分の順番は、いつ来るんだと看護師さんに言いに行ってるように見えるわ。
 あの人は、私より前からいたのだから、私はまだまだってわけね。
 それに、あの看護師さんの対応がまずいんじゃないのかしら。
 あの患者さんの順番をいちいち調べに行かなくてもいいのよ。そんなことより、先生に早く診察をさせる方が先じゃない?
 まったくもう。
 今日は朝からついてなかったわ。
 電車に乗った瞬間に人身事故で、社内で待たされたのよ。
 もうこんな朝に。
「石川さん~」
 あれ?呼ばれたわ。あの患者さんより先でいいの?
 私の方がいらいらしてるから、早く呼ばれたのかしら。
 そうか。あの人は会計を待っていたのね。
 少しすっとしたわ。
 先生は、私の顔を見て言った。
「どうされましたか?」
「少しすっとしたんです」
「なぜ?」
「私、毎日いらいらばかり積み重ねてきたのです。今日もいらいらが来るのをずっと待ち構えていて、少しでもいらいらの原因になりそうなものに飛び込んでいっていたのです」
「そりゃ大変だ」
「そうなんです。大変なんです。わかりますか?」
「わかりません」
「わかんないんですか?」
「まぁ」
 この先生には、何を言っても無駄だわと思った。
 そして、もう腹は立たなかった。
「どうしますか?」
 こんなとぼけた先生がこの科をやってるこの病院少しおかしいわと思ったら、私は、笑い出してた。
 伊東先生は、最後に笑顔で言った。

「お大事に」

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