「奇特な病院」きっとうまくいくよ科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第36外来:きっとうまくいくよ科(担当医 八木正樹)
一通り、患者さんの話を聞いて、僕は、こう言った。
「きっとうまくいきますよ」
すると、突然患者さんが怒り出した。
「ちゃんと話を聞いてましたか?」
と詰め寄られて、
「あなたに何がわかるんですか」
さらに患者さんは畳みかけて、僕をにらみつけた。
僕は、そっと自分に言い聞かせた。
「今度こそきっとうまくいくよ」
他の誰でもない。僕に。僕に必要な言葉だった。
最も誰かに言ってもらいたい言葉だ。
「きっとうまくいくよ」
なかなかそんな言葉をかけてくれる人はいない。
院長にも言われた。
「なかなか難しい科になりますよ」
「なぜですか?」
と僕は訊ねた。
「人を励ましたり、背中を押す言葉というのは、とても難しいもので、相手が望んだ言葉じゃないと、逆に失礼になってしまうからです」
だから、僕は、この科をやりたいと思ったときの気持ちを大事に僕なりに患者さんの声に耳を傾けたつもりだった。
でも、僕は、今日も失敗を繰り返す。患者さんも怒らせる。
そもそもうまくいくかいかないかなんて状況も環境もすべて違うのに、僕にわかるものか。
それでも患者さんを僕は励まし続けたいという志を持った。だから、頑張る。
だから、まだまだ僕には役不足かもしれないけど、続けていくことで、この科が役に立てればと思っている。
看護師さんには、こう言われた。
「先生は、いいひとですね」
「なぜですか?」
「だってあんなに一生懸命になってひとりひとりの言葉に耳を傾けていらっしゃるじゃないですか。きっとうまくいくようになりますよ」
そう言って、彼女は笑った。
僕はその笑顔を頼りに今日も奮闘するつもりだ。
きっとうまくいくよ、自分。
みんなも、きっとうまくいくよ。
少なくとも僕は、そう願ってる。
お大事に。
(第37外来は、希望を探して科です)
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